03.ピュアピュア摂政
うーん、内政回だから需要ないかな…
「現状報告を」
机の上には、大量の書類が積まれている。
仕事が大嫌いな私には、到底受け入れることができない景色に、軽く目眩がする。とはいえ、やらなければいけないのが悲しいところだ。
「姫様、まずは病に関することから報告いたします。」
執事がそう言って、数ある書類からいくつかを私の前に出す。
なになに...
感染者の隔離に関する結果
薬の調達について
備蓄状況の報告
感染状況のまとめ
...などなど
「姫様が提案された病を患った者の隔離について、報告します。一定の成果がありました。」
そこには、隔離の成果についての詳細が語られていた。
感染者の増加スピードがここ3カ月で落ちている。
従来の対策は寝て治せというものだった。まあ、実際何もしないことが一番の療養になるわけだが、あくまで民間の個々の努力に過ぎない。
そこで、国を挙げての隔離をするべきだと父に語ったわけだが、最初は却下された。
別に、父が愚かだったわけではない。
病が空気中や、接触を介して移るというのを、私がうまく説明できなかったからだ。こればかりは仕方ない。
ただ、父が倒れ、私が実権を握るようになってからは、取り敢えずやってみてと指示を出したのだ。
3カ月前のことが、こうやって結果に出てきたわけだ。
転生チート最高!
「ただ、隔離には限界があるようです。」
完全な隔離は難しい。
患者への食事の運搬においても、近辺の世話にもどうしても接触は避けることができない。そこから感染が広がるということがある。
今は、軍隊の駐屯地や教会に感染者をぶち込んで、隔離しているがこれ以上は自宅療養になる。このことからも隔離には限界がある。
私は次の書類に目を通す。
「仕方ないわ。一定の成果で満足しましょう。薬も大して効いているわけではなさそうですし、隔離がほぼ唯一の感染症対策と言ってもいいかしら。」
薬もイマイチ効き目がないようだ。
前世のような、確立された医療技術に比べたら、気休め程度でしかない。
それでも薬の調達を続けるのには理由がある。
「はっ、では、薬の調達をお止めになりますか?薬の調達が国庫を圧迫しております。それ故、十分な薬を調達できておりません。ならばいっそのこと、別の施策に回すことも検討すべきかと。」
執事の提案に、私は笑みを浮かべて言葉を返す。
「薬の調達は続けなさい。薬は何でもいいわ。害のない草をすり潰して、それを薬と偽っても良い。一番の目的は国内の動揺を抑えることですわ。」
「...というのは、どういうことでしょう。」
「民が見ているには、私たちの努力です。」
本当に必要な薬まで削るつもりはないけど。
効果の薄いものまで「薬」として扱うのは、民の不安を抑えるためだ。
何もしていなければ、税金を取っておいて何もしていないのか、と市民に怒られても仕方ない。溜まり溜まった不満が爆発して暴動...なんて起こったらたまったものではない。
私たち、やってますよアピールが必要なのだ。
「高価な薬を調達してくれている。この薬を飲めば安心だ。これが重要なのです。」
その薬、効果はないけどね。
まあ、世の中には信じると救われることがあるらしいので、期待を掛けてもいいんじゃないかな。
救われた人は相当、運がいいのだろう。
それに、と付け加える。
「聖職者の方々に頼みました。薬に聖なる奇跡を宿し給え、と。」
私が胸の前で、お祈りポーズを取っていると、執事は怪訝な顔を浮かべる。
「姫様、失礼ながら聖職者の奇跡ほど信用できるものはありません。聖職者を頼るとバチが当たるというのは有名な話ですから。」
散々な言われよう。
まあ実際そう。
何より、そのことを一番よく理解しているのは聖職者自身なのだから。
薬に奇跡付けてよと、この前聖職者に頼んだ訳だが、奇跡なんてあるわけないだろと、全力で拒否された。
仕方ないから、聖剣の刃を突きつけると、進んで協力しますと即答。
以後、薬を与える前には聖職者が立ち寄って、奇跡よ~宿り給え!と祈る儀式が日常となった。
「ええ、信じれば救われるのですから、問題ありませんわ。病気が治れば信じたおかげ、治らなければ信じていないのが悪い。最悪、薬のことがバレても、インチキな奇跡をかけた聖職者が悪いですわ。」
「ええ...」
責任回避、そこも抜かりない。
水際で感染症を食い止める努力はしつつ、もし怒りの矛先が私たちに向ければ、そっと矛先を変えてやればいい。
おーほっほ
と、心の中の悪役令嬢が高笑いしている。
私の最強の感染症対策、ここに極まれり。
ただ、何も保身のためだけではない。
「王亡き今、防ぐべきは王権の低下です。」
今、王権が低下すると、言うことを聞かないやつが増える。
そうすると、統制が緩み、隔離の効果が意味をなさなくなってしまう。
例え悪女と誹られようとも、この国を守るため、ルカを守るためなら、いかなる手段を用いる。そんな決意を表して、執事を見ると、そのしわが刻まれた顔がゆっくりと下がる。
それは謝罪を表すポーズだった。
「申し訳ありません。我々の不甲斐なさのために、姫様に酷な選択を選ばせてしまうとは… 臣として、恥じるばかりです。」
なかなか顔を上げない執事。
おそらく、少女に過酷な選択をさせてしまったのは自分たちであると、自責の念に駆られているのかもしれない。
今この国を取り仕切っているのは、目の前にいる執事に代表される官僚団だ。
これまで多くのことで助けられてきた。
感謝こそすれど、謝られる理由などない。
「面を上げなさい。」
私は机を離れて、窓辺へ
窓のガラスが、まるで青のキャンバスから写し出したように、私の姿を映し出す。
父譲りの青い瞳、母譲りの優しい面影、ルカに似た整った顔立ち
振り返って、執事の瞳を見つめる。
「この身に宿る使命を心得ております。王家の人間として、意思決定を下すこと、例えそれが残酷な決断であっても...」
そう、ルカを守ることが私の使命。
そのためなら、文字通りどんな手段も用いる。『Duel Sisters』で培った知識と経験の腕の見せ所。
そして、そのためには手足が必要だ。
「あなたたちの功績は父も、私も知るところです。今までよくやってくれました。そして、これからも同等の働きを期待していますよ。」
ウィンク☆
王族の美貌を利用した完璧な懐柔術。
これは決まったと確信する…が、
「はっ」
淡白な返事。
さすがに期待の圧をかけすぎたかなと若干後悔。
微妙な沈黙が、場に滞る。
わざわざ窓辺まで移動して、ウィンクまでした私が馬鹿なんじゃないかと恥ずかしさを覚える。
私は紛らわすために、ゴホン、と咳払いしてから、口を開く。
「備蓄状況について、報告をお願いできるかしら。」
王国では危機的状況に備えて、備蓄を平時から行っている。
「は、薬の備蓄は既に底を突いております。食糧の備蓄には余裕がありますが、食糧の市場価格は跳ね上がっております。」
食糧価格が上がれば、真っ先に困るのは貧しい者だ。
栄養が取れない。
体力が落ちる。
そうすれば、さらに感染が拡大する。
薬と偽って渡すのだから、心情的に償いたい気分だ。
ここが備蓄の使いどころだろうと、指示を出す。
「備蓄の放出を認めます。備蓄の3割を最低備蓄ラインと定めて、それ以上は貧しい者を中心に配給を行いなさい。委細は現場の判断にゆだねます。」
そう言って、王命の命令書をしたためる。
備蓄に関しての方針と、現場に裁量権を与える旨の書かれた文章に、サインをする。
備蓄を残したのは、今後の飢饉対策だ。
今回の病で、多くの農家が亡くなられているので、来年は生産量が減るだろう。3割の備蓄があればある程度の生産量低下は許容できるはずだ。
「以上で、感染状況の報告を終わります。」
「報告ご苦労様。」
私は筆を止める。
窓の外は城下の景色、石造りの家が碁盤目状に並ぶのを見ると、私があのゲームの中に転生したのだと実感する。
まったくゲーム知識活かせてないじゃない。
シナリオが始まってないからか、ゲーム内登場人物が転生してから、ルカと将軍くらいしか会ってない。
なにかゲーム知識が活かせないか。
ふと、目の前にいる執事の顔を見ると、思い出した。
「そういえば」
私は微笑む。
毎週金曜、投稿予定!




