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02.変な夢


「夢の中で、お父様と会いました。」


ルカは語る。

夢にしてははっきりと記憶の中に残っていたようで、軽やかに夢での出来事を語ってくれた。


父に会ったルカは、共にバルコニーから盤面の星空を眺めながら、お茶会を開いたそうだ。



星には聖人が宿っている。

そんな伝承がこの世界にはある。


一等星、ルカ。

東の空に煌々と輝く青い星。

聖人ルカが宿る御星として、人々に愛されている。


ルカには、家族愛に満ちた優しい男の子になってほしいという願いから、生まれた男児に、ルカと名付けた。

ルカという名前に至った話を、父は教えてくれたそうだ。


父はルカの頭を力強く撫でると、仕事があると言って執務室に戻っていったそうだ。


最後に、ララは頼りになる娘だが、残念なところがあるから弟であるルカが支えてあげなさいと言葉を残したそうだ。



いらないお世話だ。

お父さんは最後まで余計なことを言うんだから。


私は苦笑すると、自信を無くしてしまったのではないかと勘違いしたのか

ルカは、お姉さまの足りないところは僕が頑張ります、と励ます言葉を投げてくれた。

やる気みなぎるルカには悪いけど、胸の前でこぶしを握る姿は逞しさよりも、可愛さの方が勝る。


私は、ルカを抱きしめる。


「ルカも可愛いことを言うようになったわね。」


「もう、昔みたいに抱きしめるのはやめてください。」


「あら、嫌なの?」


「嫌というわけでは……ありません。ただ、もう子供ではありませんから」


そう言って、ルカは少しだけ視線を逸らした。

ツンツンするルカ、拗ねるルカの頬を、指先でつつく。

ハブてた時は、話の続きを促して誤魔化すのが一番だ。


「それで、変な夢とは?聞く限りごく普通の夢のようだけど」


ごくありふれた夢だと思ったが、ルカは首を横に振る。


夢にしては妙に鮮明で


ルカはそう言うと、懐に仕舞っていたティーカップを指す。

なんでも、夢の中で使用したティーカップが目覚めると手に握っていたらしい。


「父の愛用していたものですから、父の書斎に置いてあるはずです。でも、こうして手の中にあるということは、父と本当に会話したのではないかと思うんです。ただ…」



両親は3か月前に亡くなった。

流行り病が王城を襲い、私とルカは隔離されていたため事なきを得たが、陣頭指揮を執っていた父と母は帰らぬ人となった。


12年間家族として接していたため、両親の訃報にはそれなりのショックがあったが、前世で家族の死は経験しているし、なにより転生という経験が、どこか家族の死を客観的に見ることができた。


私はまだマシ、でもルカにとっては初めての家族の死で、それも8歳でだ。

悲しみの大きさが容易に予想できる。



「お嬢様、報告に挙げてはいるのですが...」


「ええ、聞いております。」


メイドが私に耳打ちする。

昨晩、王城を巡回していたメイドが、ルカの寝つきを確認しに寝室に入ったところ、ルカが寝室にいなかったらしい。

慌てたメイドが王城をくまなく探したところ、父の書斎部屋でルカを見つけた。だが、その姿は虚ろで、メイドが寝室に帰るように言ったところ、返事もなく寝室に戻ったらしい。

不気味に思ったメイドが、私に報告を挙げたのが今日の朝。

私は確認のためにルカに聞く。


「ルカは昨晩、父の書斎に行ったのかしら?」


首を横に振るルカ。

無自覚で、でも実際に行動を起こしている。


使用人の中には、精霊に取りつかれているのではないか、と噂しているらしいる。私には、そうは思えない。


両親を亡くしたことが原因で、心に何かしらの傷を負っているのだろう。


前世の知識に「夢遊病」というものがあった。

眠ったまま歩き出し、本人にはその自覚がない。


もし、それなら説明はつく。


両親が亡くなって既に3か月は経った。

ルカの心の傷も、だいぶ治ってきたかなと思った矢先の、今回の事件だ。

対処しようにも、こればかりはどこまで踏み込んでいいか分からない。心の病は対処処置が少ないと聞いたことがあったが、こうして愛するルカが傷ついている姿を見ると、なんとも歯がゆい気持ちになる。


「すいません。政務にお忙しいララお姉さまに話しかけるような話ではありませんでしたね。」


「何を言うの。ルカが一番なんだから。」


だから、もっと私を頼ってほしい。

そう言外に伝えるが、一度落ち込んだルカはなかなか顔を上げようとしない。

なんて励まそうか。



「…きっと、父はルカに新しい道を歩んでほしいのですわ。父があなたに名前の由縁を教えたのも、星に託された運命を受け入れ、前に進んでほしい、そんな思いが込められているのだと思いますわ。」


そう言いつつ、心の中では対処方法を練る。


「そういえば、ルカは以前、王城の外へ出てみたいと仰いましたね。」


「はい、今まで王城から出たことがないので…

 母様にも国内を周ろうと話していたのですが、その時は流行り病で中止になりました。」


今でも流行り病自体は存在するが、一時期の勢いは落ちた。

今ならやれるかもしれない。


「ルカ、国内視察を行いませんか?」


「国内視察ですか?」


王城の外へ出てみたいとはルカから聞いた。

だが、このご時世において外へ出向くことは病にかかるリスクを抱えることと同義だ。それに、私が政務で忙しいこともルカは知っている。

利口なルカのことだから、自分の我儘が私の邪魔になるのではと思って我慢していたのだろう。


「ええ、やはり次期国王として外のことも知っておかないといけませんし、民衆への周知も必要ですから。」


ルカの気分転換が一番の目的だが、政治的な意味も含まれる。

とはいえ、実際は国内旅行。

周りが何と言おうとも、私はルカと一緒にデートがしたいし、幼少期のデートは私が独占したい。


「次期国王として、初めての仕事ですね。」


ルカは緊張した顔で、こぶしを握る。


「そんなに緊張しないで、あくまで国内旅行だと考えればいいわ」


もみあげを掻き分けて、ルカの白い肌に触れる。

強張った顔は次第に緩んで、上目んだ瞳にはあどけなさが残っている。

次期国王と言っても、齢は8歳。

ルカにはできる限り、子供時代を謳歌してほしい。


「あとのことは、私に任せてちょうだい。」


お辞儀して部屋を出るルカ。

私はルカの後姿を最後まで見届けると、笑顔を消した。


あと1年。

それはルカが学園に入るまでの残り時間、タイムリミットだ。 ルカが学園に入ると、そこからゲーム『Duel Sisters』本編スタート 婚約者候補がルカを奪い合う。


学園生活は6年。

親密度を稼いで、最後にルカ王子に選ばれれば勝利。


なんて単純なゲームだと思うだろう。


実際には全然違う。


勝ち上がるやつはクズの一言。

他人を蹴落としたり、あざといことをしてくる奴の方が、他の婚約者候補を蹴落として勝ち進むため、手段を選ばないプレイヤーが勝ち上がる。


2000時間プレイした私が言うんだから間違いない。


私は心優しい乙女だから、ルカが性悪女と付き合うのが心苦しい。

だから、潰す。


名乗り出させない。

もし名乗り出たら、潰す。

結婚まで辿り着かせなければいい。


ルカ、婚約者決めた?


うん、でもお姉さまと比べてしまうと…


まあ、そんなこと言っては


でも、お姉さま

僕は例え結婚したとしても、僕の中ではお姉さまが一番なんです!


ルカ...


お姉さま


グヘへ。

やっぱり心優しいルカには、心優しい令嬢がお似合いだと思う。

あの4人は... 癖が有りすぎるから。


ルカには幸せな人生を手にしてほしい。

そして、溢れた幸せで私を幸せにしてほしい。


人生の青写真を描きながら、至るまでの道に多くの障害があることに気づく。

目の前には感染病からの復興。

父を失ったことで発生した政治的な空白。


それらの問題を乗り越えたとしても、ルカ王子を巡った、癖の強い婚約者候補4人衆との学園内陰謀を繰り広げなければいけないのだ。


特に、父が亡くなって以降の宮廷陰謀は深刻だ。

私や、ひいてはルカの命に関わる重大な問題のため、すぐに対処が必要だ。


若干の目眩がするが、ルカと、私の幸せのため

乗り越えなければいけない壁なんだと認識すると、奮い立つ。

私にとっての闘いは、この一年に詰まっている。


「現状報告を」



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