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11.戦略


私の戦略は明確だ。


叩けるうちに潰すこと。

それから、潰すならその前準備をしっかりと行うことだ。



「貴族は、エレベスト公爵を支持しているわ。懐柔策に出るよりも、彼らの力を削ぐことが先決よ」



独断で決めることは貴族の反発を招く。

だが、相手が敵なら話は別だ。


エレベスト公爵は、あの謁見のあとに、公爵の館には頻繁に貴族が出入りしている。おそらく、よしみを通じて味方を増やしているのだろう。


それに、父が亡くなった現状では国内の統制が行き届かず、貴族が勝手気ままに振舞うケースが相次いでいる。


貴族が信用できない今、私がやるべきことは味方を増やすこと。



「そのためにも、市民と聖職者の支持が必要なの」



これも全ては、忌々しいエレベスト公爵を叩き潰すため。

私の可愛いルカに手を出しやがって、痛い目を見させてやる。


まあ、貴族を叩くのは何も公爵を潰すためだけではない。

私がやっていたゲーム『Duel Sisters』では、バットエンドの一つとして貴族が反乱、ルカが投獄されるというシナリオがある。


ゲームでは、ルカが改革を進めようとするたびに、保守派の貴族が反発する。

番となる令嬢の能力を借りられなければ、最後には反乱を起こされて投獄エンドだ。


ルカはそんなに弱い奴じゃない!

と言いたいところだが、亡き王の後、権力を私物化してきた貴族の力は強い。

そのため、各令嬢の強力なアビリティが必要になるのだ。


まあ、どちらにせよ貴族が敵なのは遅いか早いかの問題でしかない。


潰せるうちに早く消す。

そして、その事前準備を仕込む。



私は馬に跨り、踵を返すと号令を出す。



「次は大聖堂に向かうわよ!」






☆★☆★☆★☆★☆★



「よ...ようこそ、お越しくださいました姫様」


ひきつった笑みを浮かべ、頭を下げる神官。


前回のトラウマを引きずっているのか、神官は平身低頭。

私が大聖堂の扉を入るなり、お客様接待を始めた。



「数日ぶりね。お祈りの調子はどう?」


「それはもう。

 我々の祈りで病が治ったという方が続出。絶好調であります」



聖職者の引き攣った笑みは、どうも胡散臭さを覚える。

絶好調という言葉の裏に、何か隠されているのではないかと疑ってしまう


私がジッと神官の瞳を見つる。

神官はたじろぎながらも、実際に見てください、と治療現場に案内する。



「総員、口元を押さえて進みなさい」



私はハンカチを取り出し、口元を覆った。

飛沫感染をどこまで防げるかは分からない。マスクほどの効果も期待できないだろう。


それでも、何もしないよりはましだ。

私の指示に従い、護衛の騎士たちもハンカチを取り出す。



「皆も、聞き分け良くなったじゃない」


私が冗談めかして言うと、執事は返す。


「母のように、小言を言う姫様がおりますので」



言うようになったじゃない。

護衛の騎士たちも笑みを浮かべている。


当初、ハンカチで口元を押さえることに懐疑的な人が多くいた。

実際の効果があるか疑わしいし、この行為が女々しいものだと捉える騎士もいた。


私が注意するようになってからは、渋々ながら従うことになった。

だが、ちょっとでも助かりたいという願望があるのだろう。

例え私の妙な指示でも、ちょっとでも効果があればとするようになった。


結果的に、ハンカチで口元を押さえることが主流となった。

いつか、ハンカチで口元を押さえないと自警団に取り押さえられる未来がくるかもしれない。



そんなことを考えつつ、あたりを見回す。


やせ細った孤児たち

床に寝かされた病人

その間を縫うようにして、看護に当たる下級神官たち。


大聖堂は広い。

それでも、人で埋め尽くされた床には、もうほとんど余裕がなかった。


「ここには何名いるの?」


隣に立つ神官に囁く。


「ここにいるものだけでも500名です」


「そんなに...」



小学校の体育館よりも一回り大きい大聖堂であっても、これでは窮屈に感じるのは無理もない。

児童が300名、体育座りで入る体育館に、大人500人ぶち込んだらそうなるわ。



「実はまだまだおりまして、地下の納骨堂にも人を並ばせてもらってます」



大聖堂には骨を収める地下室が存在する。

もともとは、墓地を収める収納スペースが足りないということで、身寄りのないものを中心に集団納骨がされている。

前世のように箱に詰めるものではなく、そのまま骨を壁に埋め込む形で納骨されている。


あんなところまで使っているのか。

何か対策を講じなければ。



私が思案していると、横から揉み手をしながら歩み寄る神官。



「見ての通り、現状の大聖堂は酷いものです。十分な治療を受けられず天に召すものが大勢います。我々の力だけでは、救える命にも限りがございます。そこでどうか...」



神官は深々と頭を下げる。


直接、言及はしていないが、

要は、これで手一杯だからもっと支援を頂戴、ということだろう。

寄進と呼ばれるやつだね。



聖職者には色々と迷惑をかけている。

前回、私が押し掛けた時も、病人の治療をお願いしたり、大聖堂を隔離場所にしたりと、負担を押し付ける形になった。


ふと、視界に映る。

下級神官が、病人にパンを施す。


感染のリスクを考えたとき、彼らも怖いに違いない。

それでも神のため、市民のために動く姿に、尊敬の念は湧いてくる。



聖職者は汚職に満ち溢れている。

そんな話を聞いていたが、少なくともこの場では高潔な精神で治療に当たっている。


病人を集め、食料を配り、世話をする人員まで確保している。王家だけで同じことをしようとすれば、どれだけの費用と時間がかかるだろう。


彼らには、彼らにしかできない仕事がある。



「分かったわ」



私が頷くと、神官は満面の笑みを浮かべる。



「話が早くて助かります」



支援と言っても、その形はたくさんある。

単に金を寄進することもあれば、土地を寄進したり、もしくは特権を付与したりなどなど。


内容を詰めることはこの場では難しい。

ただ、支援はするよという大まかな約束はできる。


神官としても、それが引き出せただけで十分なのだろう。

神官は少しおどけて話す。



「いやー、良かった。姫様は厳しいですから、ここに来ると聞いててっきりそ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)だと思いましたよ」



そういうこと... とはどういうことかしら?

少し微笑むと、神官は慌てながら答える。



「いえ、先程商人が罰せられたという話を聞きました

 ええ、本当にひどい話です。我々は祈るだけが仕事ですが万一にでも姫様に疑いをかけられないよう努力しなければと思った次第なんですよ」



どうやら、私が聖堂に乗り込んできたのは、汚職調査が目的なのではないかと神官たちは考えたそうだ。


彼らを叩けば、汚職がボロボロと出てきそうだ。

まるで、何年も埃を被った布団を叩くように


ただ、今はできない。

少なくとも、彼らを敵には回したくないからだ。



「大丈夫ですよ。あなたたちが王家へ忠誠を誓う限り、下手な真似はしません」



しかし、歯向かうようなら分かっているだろうな。



「ははっ」



神官が頭を下げるのを確認して、私は両手をパチッと鳴らす。

さて、聖職者との公的な会話は終わり。ここからは私的な話をしましょう。



「さあ、堅苦しい話はやめて、ちょっと教会内を案内してちょうだい」



こういう雰囲気は上の人間が積極的に変えていかないとね。

神官の表情が、ほんの少しだけ緩んだ。


さて、ここからは教会の内情を見せてもらおうかしら。


執事「前回は聖剣で脅しちゃいましたからね。彼らとは仲良くしないと」

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