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一歩

頑張ります。

「帰ろう、元いた世界に。」

「はい!」

アモンは、アルファの言葉に元気良く返事した後、アルファと共に見覚えのある場所に行った。

そこは、そう。

この世界に来た時に見た景色だ。

「転移門、開門。」 

アルファが言うと目の前にはなかったはずの扉が現れた。

ごぉぉぉ。

凄まじい音と共に目の前の門が開いた。

「さっ、行こうかアモン。」

「は、はい。」

門を通った瞬間。

眩しい光が視界を埋め尽くした。

————————————————————

目を開けた時、アモンは白い部屋にいた。

「...…帰ってきたのか?」

「そうだよ。」

アモンがびっくりして後ろを向くとニヤニヤしているアルファがいた。

「アハハ、びっくりした?」

「ごめんごめん。」

へらへらしているアルファにアモンが文句を言った。

「本当にびっくりしましたよ。」

「今度から気をつけてくださいね。」

「まぁまぁ、説教はそれぐらいにして。」

「生きて帰れた祝いも兼ねて、社内案内しようか。」

「君もここに来て日が浅いだろ?」

「分かりましたよアルファ先輩。」

「よし!」

アルファはガッツポーズした。

「じゃあまずは…あ!」

「新人研修の後に社長へ報告する約束を忘れてた。」

「まぁ新人研修では色々大変でしたからね。」

「忘れるのも仕方がないですよ。」

「じゃあ、アモン君ちょっと行ってきます。」

————————————————————

アルファがいなくなった後アモンは周りを見回した。

鼻をくすぐる消毒液の匂い。

天井のLED照明。

そして、どこからか聞こえてくるパソコンのキーボードを叩く音。

異世界の土の匂いも、草の匂いも、もうしない。

アモンはゆっくりと息を吸って吐いた。

その時。

「誰だ、お前。」

知らない声。

振り向くと、犬が壁にもたれながらこちらを見ていた。

「い、犬が喋った!」

「犬じゃない!オオカミだ!」

「そうなんですか?犬もオオカミも変わらないような感じがしますが。」

「いいや、違う。」

そういうと慣れた手つきでカバンから紙を取り出した。

————————————————————

「いいか、まず一番勘違いされていることから訂正する。」

「犬は狼から進化した、なんてよく言われるが正確には違う。」

「犬は狼の子孫ではなく、現代の灰色オオカミと共通の祖先から分岐した存在だ。」

「だから現在の分類では犬はオオカミの亜種。」

「つまり生物学上、俺たちは極めて近い存在だ。」

「じゃあ同じじゃないですか。」

「違う違う違ーう!!」

「全然違ーう!!」

狼は大きく否定した。

「人間とチンパンジーもDNAは約98.8%一致する。だが同じ生き物じゃないだろ。」

「まぁ……。」

「犬と狼もDNAはほぼ同じだ。だが重要なのは遺伝子の一致率じゃない。」

「どの遺伝子が、どのタイミングで、どれだけ働くかだ。」

————————————————————

「遺伝子の働き方?」

「ああ、人間に飼われる過程で犬は攻撃性が低い個体だけが選ばれ続けた。」

「その結果、神経堤細胞の発達が変化した。」

「神経堤細胞?」

「神経堤細胞とは、胎児の頃に全身へ広がり、耳、顎、色素、歯、副腎、神経など様々な組織を作る細胞だ。」

狼はさらさらと紙に絵を描く。

しかも、犬…いや狼なのに絵がめちゃくちゃ上手い。

いや、上手いけどなんか描き慣れてる感がする。

多分、何回も説明しているうちに言葉だけじゃ分かってもらえなくて、犬だ、犬だと言われ続けて、分かってもらえるように絵で説明しているうちに上達したやつだ。

そんなことを考えているアモンをお構いなしに犬もとい狼は話を続ける。

「だから家畜化すると一つだけじゃなく、耳が垂れ、鼻が短くなり、毛色が増え、性格まで穏やかになる。」

「へぇ……。」

「まだある。」

狼は止まらない。

————————————————————

「実はな、犬と狼では、食べるものが違うんだ。」

「犬と狼って、どっちも肉食じゃないんですか?」

「正確には犬は肉も食べるが、肉食ではない。」

「犬はデンプンを糖に分解する酵素を作りだす遺伝子が狼より何倍も多い。」

「だから米や芋、小麦を効率よく分解できる。」

「つまりこれは、人間に媚びを売って生き残った犬どもの末路ということだ。」

「じゃあ犬が肉を食べられるなら、狼も米や芋、小麦を食べるんですか?」

「この誰よりも気高い俺様が、人間の残飯欲しさに媚び売っている犬と同じだと言うのか?」

鋭い目つきで睨んでくる。

「めっ滅相もない。」

「だよな。」

「じゃあ話を続けるぞ。」

30分後。

「へぇーそうなんだー。」

棒読みで相槌を打つ。

15分ぐらいは一応先輩にあたる人物?なので聞いていたが、16分ぐらいから「へぇーそうなんだー。」しか言っていない。

が、狼は30分経った今でも満足気に熱弁を続けていた。

そして、それからさらに10分後。

ついに終わりが来た。

————————————————————

「つまり!」

「犬は犬!」

「狼は狼だ!」

「しかも狼は犬よりも上だ!」

「分かったか!」

アモンは少し考えた。

「なるほど……。」

狼は満足そうに頷く。

「分かってくれたか!」

「はい。」

「つまり、大きくて偉い犬ってことですね。」

「違ぁぁぁぁぁう!!」

さらに30分後。

犬っぽい狼は息を切らしながら言った。

「はぁはぁ、いいか犬と狼はち、違う。」

「もう一回言うぞ。」

「もう大丈夫です。」

キッパリ言った。

「そうか。」

「分かってもらえればいい。」

そう言って犬…いや狼は立ち去った。

あ!そう言えば名前聞くの忘れた。

まぁ無難にポチ先輩とでも呼ぶか。

————————————————————

そう思っていると。

「おーいアモンくーん!」

振り返るとアルファ先輩が駆け足でこちらに向かって来ていた。

「社長の報告終わったよ。」

「じゃあ行こっか。」

「行くって何処ですか?」

「何処ってさっき言ったじゃん、社内案内するって。」

「あぁ、そのことですか。」

さっきまでのことがインパクト強すぎて忘れていた。

「じゃあ行くよアモン君。」

そう言いながら、アモンは歩き出したアルファの後をついていった。

新人研修に行く前は緊張で周りを見る余裕なんてなかった。

だが今は違う。

壁には依頼書のコピーが貼られている。

スライム大量発生。

行方不明者捜索。

護衛依頼。

古代遺跡調査。

勇者代行と聞いていたから、もっと魔王討伐みたいな仕事ばかりだと思っていた。

「意外と地味ですね。」

「勇者ってのは要するに何でも屋だからな。」

アルファが肩をすくめて言う。

「魔王討伐なんて滅多にない。」

「むしろ、村の畑を荒らす魔物を追い払う方が多い。」

「夢がない...。」

「現実なんてそんなもんだ。」

「あ!そうそうアモン君。」

「なんですか?アルファ先輩。」

「はい。これどーぞ。」

アルファがカードを渡してきた。

「このカードなんですか?」

「じゃじゃーん!アモン君の社員証です!」

「つまり正社員決定です!おめでとうアモン君!」

アルファから貰った社員証には、至って普通のことが書かれていたが、何故かすごく心が温まった。

会社名:勇者代行ユートピア社。

社員番号:291。

名前:アモン。

「あぁ、あとアモン君。」

「この会社、制服あるから後で受け取ってね。」

「はい。分かりました。」

「それと、研修中に獲得したスキルについても報告しといたよ。」

「何から何までありがとうございます、アルファ先輩。」

そして、アルファ先輩は会社の隅々まで教えてくれた。

受付。

資料室。

転移装置室。

武器保管庫。

回復薬管理室など。

思っていたより、ずっと本格的だ。

「そしてここが、休憩室。」

アルファが扉を開ける。

中には数人の社員がいた。

一人は筋肉質な大男。

一人はメガネをかけた女性。

一人はソファで寝ている青年。

「お、誰だ?」

「もしかして新人か?」

大男が豪快に笑いながら言った。

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