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終わりと始まり

これで一章完結です。

オーガ討伐から数時間後。

北の丘には静寂が戻っていた。

だが、その静寂は平和の証ではない。

アモンは村人たちと共に冒険者達の遺体を運んでいた。

「……。」

重い。

昔、酔い潰れた友達を運んだ時はこんなに重くなかった。

布に包まれた遺体。

つい数時間前まで生きていた人たち。

死んでいなかったら、これからも家族と幸せに暮らしていたかもしれない。

友達と酒を飲みながら楽しく談笑していたかもしれない。

それなのに。

それなのに。

理不尽な運命にあって死んでいる。

「大丈夫か?」

アルファが声をかける。

「はい……。」

そう答えたが、大丈夫ではなかった。

これがゲームなら。

死んでも何回も復活する。

リセットもできる。

セーブもできる。

だがここは違う。

ここは現実だ。

死んだら終わり。

————————————————————

夕方。

村の広場。

亡くなった冒険者たちの棺が並べられていた。

村人たちは葬式のために集まっている。

泣いている者。

俯いている者。

様々だった。

その中で。

母親らしき人と一人の少女が棺の前に立っていた。

十歳くらいだろうか。

棺を見つめていた。

そして。

「お父さん。」

小さな声。

「聞こえてる?今日ねお母さんと一緒にパンケーキ作ったんだ。」

「何回も失敗しちゃったんだけど、三つだけ上手に焼けたんだ。」

「お父さん一緒に食べようよ。」

「….だからね、起きてよ。」

少女は泣きながら動かない父親に話しかけていた。

アモンは息を呑んだ。

母親らしき女性が少女を抱きしめる。

少女は父親が死んだということは分からないだろう。

しかし、目の前の光景が少女に訴えている。

父親が二度と目を覚さないことを。

その光景を見て。

アモンは視線を逸らした。

見ていられなかった。

いや、わざとだ。

————————————————————

葬儀が始まった。

祈り。

献花。

別れの言葉。

誰も大声では泣かなかった。

さっきまで泣いていた少女でさえ。

だからこそ辛かった。

静かな悲しみ。

アモンは胸が苦しくなった。

自分がしたことは、何にも間違ってない。

むしろ、称えられるべきことだ。

オーガは倒した。

村は救った。

なのに。

誰も喜んでいない。

勝ったはずなのに。

救ったはずなのに。

何も救えた気がしなかった。

————————————————————

葬儀が終わった後。

アルファはオーガの残骸を調べていた。

「先輩。」

「ん?」

「結局あのオーガって何だったんですか?」

アルファはさっき見つけた、黒く濁った魔力核の欠片を見つめながら言った。

「たぶん、この土地の魔力が暴走したんだろうな。」

「暴走?」

「あぁ。」

アルファは頷いた。

「たまにあるんだよ。」

「魔力が濃すぎる土地ってのは。」

「その影響を受けた魔物がその地域に入ると魔物の魔石が変異することがある。」

「魔石とは、いわば心臓だ。」

「魔物は心臓が変異すると姿や性格が全くと言っていいほど異なる。」

「あれは違ったがな。」

アモンはオーガの最後を思い出した。

涙のようなもの。

苦しそうな声。

「じゃあ……。」

「お前の考えてる通りだ。」

アルファが答える。

「アイツは加害者で、そして被害者でもあった。」

————————————————————

夜。

村人たちは葬式の後、それぞれの家へ戻った。

しかし、アモンは一人で墓地に行った。

並んだ墓石。

吹き抜ける風。

静かな夜。

今日だけで色々なことがあった。

しかし、どれも現実感がない。

なのに。

目の前の墓だけは。

嫌になる現実で逃げ出したい自分を嫌でも引き戻す。

「何もできなかったな……。」

アモンは呟く。

自分は何をした?

オーガさえ倒したのはアルファだ。

自分は逃げただけだ。

助けられなかった。

戦えなかった。

見ていただけだ。

拳を握る。

悔しかった。

視界がぼやけ、今にも涙が溢れそうになった時に思った。

力が欲しいと。

その時。

ズキッ。

激痛。

「ぐっ!?」

アモンは膝をつく。

その直後、視界が揺れる。

————————————————————

知らない景色が見えた。

いや、見たことがある。

気のせいか?いや、絶対見たことがある。

これは、北の丘だ!

しかし自分の手には、前に行った時にはなかった剣を握っていた。

そして近くには、仲間だと思う人がいた。

だが、前と絶対に違うこと。

それは、倒したはずのオーガがいたこと。

「なんだ……これ….。」

そう言った時。

オーガが目の前にいた。

「え?」

————————————————————

ぐちゃ。

「…ッぐッ、う…、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

左腕と左足が一撃で吹き飛ばされた。

千切れた左腕と左足からありえないぐらい出血している。

そう感じていた時、バランスを崩して倒れてしまった。

————————————————————

10分ぐらい経っただろうか。

さっきまで近くにいた人たちは、全員やられた。

それも全部一撃だった。

その断末魔を聞くたびに嗚咽が走る。

それに寒い。

出血した時はまだ生暖かかったのに。

消えゆく意識の中アモンは不意に思った。

あぁ、あの死んだ冒険者たちは、こんな感じで死んでいったのか……。

はは、死にたく無いなぁ。

せっかく就職できるってのに。

そう思いながら意識が遠のく中、突如脳内に無機質な声が響く。

継承テイクオーバーの条件をクリア。」

継承テイクオーバーを実行します。」

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

アモンは叫んだ。

苦しい。

痛い。

まるで脳を直接乱雑に弄られているようだ。

数分後。

痛みが突然無くなった。

そう思った直後また視界が揺れた。

そして再び目を開けると、アモンは視界が揺れる前にいた墓地へ戻っていた。

————————————————————

少しアモンが周りを見るといきなり目の前に透明な板らしきものがあった。

そこに書いてあったのは、信じられなかったものだった。

〜スキル獲得〜

〜スキル名〜

継承テイクオーバー

〜効果〜

死亡した相手が持っていたスキルを継承テイクオーバーできる。

継承テイクオーバーしたスキルは本人のものとなり、元所有者の代償や制約は引き継がない。

〜スキル獲得条件〜

以下の条件を満たした死者のみ継承テイクオーバー可能。

継承テイクオーバー可能」

戦闘で死亡。

魔物に殺害。

事故死。

災害死。

病死。

その他、本人の意思ではない死。

継承テイクオーバー不可」

自殺。

自ら望んだ死。

老衰。

〜スキル使用の代償〜

継承テイクオーバーを行うと、その死者の死因を追体験する。

ただし実際に肉体が傷付くことはない。

〜追加制約〜

スキル使用後から3日以内に、ランダムなタイミングで一度だけ死因を再追体験する。

だが、初めのスキル使用後から3日以内であれば、スキルは何回使っても死因の再追体験は、一回だけ。

また精神回復無効。

死因の追体験による精神的ダメージは、回復魔法、精神安定の類のスキル、薬、呪術など一切の手段で軽減、回復できない。

つまり、時間経過でしか薄れない。

最後の追加制約。

スキルを短時間で連続使用すると、その都度スキル効果が弱くなる。

そこまでがスキルの説明だった。

————————————————————

「な、なんだこれは!?」

アモンは戸惑うが、すぐに冷静になる。

「これでやっと、やっとだ!」

アモンは、スキルを獲得出来たこと。

これで人を助けられる喜び。

しかし、その反面「死者の死因を追体験する」の説明の文が脳裏に焼きつく。

その考えは、ついさっき自分が体験したこと。

もう人を死なせたくないというアモンの心情の変化の交錯から来ていた。 

結局アモンは、そのぐちゃぐちゃな心情のまま宿に戻った。

————————————————————

次の日。

アモンはアルファに昨晩のことを相談した。

自分が他人の死を追体験したこと。

死んだはずのオーガが目の前にいたこと。

そしてスキルのことも。

アモンの説明を静かに聞いていたアルファがアモンに質問する。

「一応だが、それは夢とかじゃないよな。」

すかさずアモンが答える。

「夢なら左腕と左足が吹き飛ばされた感覚が、あんなにリアルなわけないでしょ。」

「まぁ、そりゃそうだな。」

アルファが同情する。

「じゃあ、その獲得したスキルをみせてくれ。」

「はい。」

継承テイクオーバー!発動!」

その瞬間アモンの足の下に魔法陣が浮かび上がった。

その瞬間アモンの脳内に聞き覚えがある声が響いた。

継承テイクオーバー発動条件達成。」

「スキル火球。」

「発動します。」

そう聞こえると同時に手のひらに火の玉が現れた。

「これがお前のスキルか。」

アルファは感嘆しながら言った。

「でも、お前のスキルは確か継承テイクオーバーだったよな、何で火球が出てくるんだ?」

アモンは、自信がなく答えた。

「たぶんオーガに殺された冒険者のスキルだと思います。」

「自分のスキルは、死んだ人のスキルを文字通り継承するので。」

するとアルファは心配そうにアモンに聞いた。

「でもいいのか?乱用するとスキルの攻撃力が落ちるじゃ…。」

アモンが笑って答える。

「乱用って言ってもどれぐらいか自分でも分からないですが、なるようになれの精神でいこうと思います。」

アルファが答える。

「お前な……。」

「アモンこのスキルは些か代償がデカすぎる。」

「自分のスキルの代償も大概だが、お前のスキルはそれ以上だ。」

続けてアルファが言う。

「アモン聞いてくれ。」

「スキルって言うのは、自分の心と深く結びつくものだ。」

「今回手に入れたお前のスキルは、誰かを救いたい、助けたいの気持ちが反映された結果だと自分は思う。」

「その力は、もうお前自身だ。」

「代償がどれだけ重くても、その力からもう目を背けることはできねぇ。」

「だが、お前のスキルは、その重い代償を差し引いても、人を救い、誰かの幸せを守れる力だ。」

「いいスキルを手に入れたな、アモン。」

そう言うアルファの目は、不安と心配の色が滲み出ていた。

「さぁアモン、重たい話はこれでおしまいだ、残りの新人研修期間忙しくなるぞ!」

————————————————————

それから新人研修の残り数日間は、まるで地獄のようだった。

一日目は、ずっと村の復旧作業だった。

筋肉痛になったけど村の人達に感謝されたことは案外悪くなかった。

まぁ疲れたものは疲れたけども。

二日目。

まさに地獄。

午前は、あらゆる言語の勉強。

まさかこの歳になって勉強するとかまったくアルファ先輩は…鬼畜すぎる!

午後は、アルファ先輩との模擬戦が延々と続いた。

これがなかなかの無理ゲーでこっちが仕掛けても腹、腕、頭の三連打撃、三連ちゃんで返り討ち。

まったく骨が折れるってものだ、どっちの意味でも。

三日目。

この日は、何故か前日の模擬戦で骨が折れたのでスキルの練習だった。

本当になんで折れたんだろうねアルファ先輩?

と言っても追加制約でスキルの効果が弱くなるから、午後はほとんどフリーになったけど….。

まぁ、いいか。

四日目には、腕が治った。

といってもこの世界には、怪我をすぐに治せる訳ではないけど治りやすくなる回復薬まがいのものがあるのだ。

この薬のおかげで普通は全治一ヵ月ほどかかる骨折がたったの四日で治った。

異世界すげぇ。

————————————————————

新人研修も残り一日となった五日目。

この日がこの数日間で一番辛かったと言っても過言ではない。

それぐらいきつかった。

その日は、いつも通り過ごしていた。

午前はアルファと一緒に仲良く「強制的に」勉強。

そして午後になるとアルファ先輩と戯れあい《一方的な蹂躙》だった。

一方的な蹂…いやアルファ先輩と戯れあいが終わった後疲れ果てた身体でトボトボと歩きながら宿に向かった。

そして泥のように眠ろうとした時それは起きた。

突然、視界が揺れた。

この感覚、見覚えがある。

視界の揺れが収まると、知らない景色…いや見たことがある。

この景色は……死因の追体験の時の景色だ!

その瞬間。

アモンは思い出す。

あの地獄のような文章を。

〜追加制約〜

スキル使用後から3日以内に、ランダムなタイミングで一度だけ死因を再追体験する。

「あはは、こりゃもう手遅れだ。」

そして、オーガが目の前にいた。

ぐちゃ。

「…ッぐッ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

前と同じく、左腕と左足が一撃で吹き飛ばされた。

千切れた左腕と左足からありえないぐらい出血している。

まただ。

そう思った時、バランスを崩して倒れてしまった。

あぁ、やっぱり嫌だなぁ。

人が死んでいく様を見るの。

せっかく誰にもこんな目に遭わせないために力を手に入れたのに。

自分は、力を手に入れても、結局役立たずだ。

あぁ、死にたい。

ってもう死ぬ直前か。

はは。

でもやっぱり死にたくないなぁ。

そんな役立たずな自分を責める自分と心の底で死にたくないと思う自分が入り混じって複雑な感情になる。

そんな、気持ちが数分間続いた。

その瞬間痛みが消えた。

そして再び目を開けると、アモンは視界が揺れる前と同じように、ベッドの上に横たわっていた。

「……終わった、のか。」

結局、寝れなかった。

————————————————————

最終日、六日目。

早朝、昨晩のことをアルファに伝えた。

「そうか。大変だったな。」

それだけ言い残すと、アルファはどこかへ行ってしまった。

気付けば一人になっていた。

さて、どうしようか。

その時。

コンコンと扉を叩く音が聞こえた。

「アモンちょっといいか?」

アルファの声だった。

「はい。」

「何の用ですか、アルファ先輩。」

そうアモンが聞くとアルファが答えた。

「今日で新人研修も終わりだろ。だから最終テストをしようと思ってな。」

「だからな、ちょっと外に来てくれ。」

そして、アルファについて行くと突然剣を渡された。

「殺す気で来い!アモン!」

「これが最終テストだ!」

アルファ先輩が襲いかかってきた。

————————————————————

「危な!」

アルファの剣がアモンの鼻先を掠める。

反射的に身を捻ると、剣先が地面を抉り、乾いた土が舞い上がった。

避けた。

そう思った次の瞬間。

「甘い!」

アルファの左足が腹へ突き刺さる。

「グハッ!」

衝撃で身体が宙に浮き、そのまま数十メートル先まで吹き飛ばされた。

地面を何度も転がり、ようやく剣を地面に突き立てて勢いを殺す。

「守っているだけじゃ一生合格できないぞ。」

「あぁ、分かってるよ!」

アモンは駆け出す。

そして、剣を振り下ろす。

だがアルファは紙一重でかわし、逆に柄頭でアモンの肩を打ち据えた。

「まだ甘い!」

痛みに顔をしかめながらも、アモンは無理やり距離を取る。

「ふふふ、それはブラフだ!」

継承テイクオーバー! 発動!」

掌に火球が生まれる。

「くらえ!」

火球が一直線に飛ぶ。

アルファは横へ跳び、火球は背後の岩へ命中した。

轟音とともに岩肌が砕け、小石が雨のように降り注ぐ。

「なるほど、拳は囮か。」

「悪くない。」

アルファは笑う。

それに吊られるようにアモンも笑った。

「でも、一方的に蹂躙されてた時よりは成長したでしょ?」

「そうだな。」

そう言った瞬間。

アルファは一気に踏み込み、鋭い蹴りを放つ。

しかし今度は違う。

アモンは腕で受け止め、そのまま足首を掴んだ。

「先輩! これでもう逃げられませんよ!」

「これでおあいこだ!」

渾身の拳がアルファの鳩尾へ突き刺さる。

「ガハッ!」

勝った。

そう思った。

だが。

アルファは身体を捻り、掴まれた足を強引に引き抜く。

その勢いを利用し、一瞬で懐へ潜り込んだ。

次の瞬間。

拳がアモンの顎を真下から突き上げる。

視界が白く弾けた。

そのままアモンの意識は闇へ沈んだ。

————————————————————

目が覚めた時、目の前にはアルファがいた。

アモンがうまく状況が掴めずにいるとアルファが唐突に謝った。

「すまん!やり過ぎた!」

「あの時は、ついカッとなってやり過ぎた。」

「ごめん。」

「そんな、いいですよ。」

「元はと言えば自分が弱かったせいですし…。」

「あ!負けたってことは、試験は不合格ですか?」

「いいや、一撃とはいえ自分に攻撃できたんだ。」

「合格だ。」

「おめでとう、アモン。」

「よし!アモン余韻に浸ってる場合じゃないぞ。」

「これで新人研修は終わりだ。」

「帰ろう、元いた世界に。」

アモンは迷いなく答えた。

「はい!」

二章目は7月11日から始まります。

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