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被害者

オーガは笑っていた。

まるで殺しを楽しむように。

アモンは唾を飲み込む。

「生き残れるかな……?」

「安心しなよ。」

アルファが子どもを諭すような優しい声で言った。

「先輩!」

「俺も同じこと考えてる。」

「えっ先輩でもですか!?」

「そりゃね。」

アルファは苦笑した。

そう言いながらも、アルファは、いつ襲われてもいいように戦闘態勢を崩さない。

次の瞬間。

ドンッ!!

地面が砕けた。

オーガが突進する。

「速っ!?」

五メートルを超える巨体とは思えない速度。

だがアルファは冷静だった。

棍棒を紙一重でかわし、そのまま懐へ潜り込む。

「ここだ!」

指先がオーガの肩に触れた。

じゅううううう。

腐敗が広がる。

肩が溶け落ち腕が取れた。

「グォォォォォ!!」

オーガが絶叫した。

しかし、傷は再生を始める。

無くなった片腕から肉が盛り上がり、どんどん腕の形になっていく。

数秒後には元通りだった。

「はぁ…クソ。」

アルファが小さく悪態をつく。

オーガはそんなアルファを再び笑う。

その時だった。

「ニンゲン……コロス……。」

「コロサナキャ……。」

アモンの身体が固まる。

「え?」

聞き間違いじゃない。

確かに聞こえた。

「ニンゲン…コロス」

殺意に満ちた言葉のはずだった。

だが、その声はまるで誰かが助けを求めているようだった。

「先輩!なんかこのオーガおかしいですよ!」

「安心しろ。分かってる。」

アルファの表情が変わる。

「このオーガ、操られてるっぽいぞ。」

その瞬間オーガは苦しそうに頭を押さえた。

そして突然、自分の頭を棍棒で殴りつける。

ドォォォォォン!!

「なっ!?」

アモンは目を見開いた。

もう一度。

ドォォォォォン!!

まるで何かに抵抗しているようだった。

「先輩、あれ……。」

「あぁ、普通のオーガじゃないと言ってもこの行動はおかしすぎる。」

その瞬間。

オーガの赤い瞳がアモンを捉えた。

ゾクリ。

全身に悪寒が走る。

「グォォォォォ!!」

咆哮。

そして一直線にアモンへ向かって走り出した。

「自っ自分!?」

アモンは慌てて逃げる。

だが速い。

追いつかれる。

死ぬ。

そう思った瞬間だった。

「アモン!!避けろ!!」

アルファの叫び声。

反射的に左へ飛び込む。

直後。

狙いを変えて再びオーガはアルファへ向かっていた。

地面が砕け散った。

オーガがアルファに向けて力いっぱい振り下ろしたのだ。

「アモン!」

「はい!」

「ここは危険だ!絶対近づくな!」

「はい!先輩!」

アモンは慌てて距離を取る。

アルファが再びオーガへ接近する。

そして、指先が肩に触れる。

じゅううううう。

腐敗。

肉が崩れ落ちる。

「グォォォォォ!!」

だが。

再生する。

一瞬で。

「やっぱりか。」

アルファが舌打ちする。

崩壊毒ヴァイラスが効いていない訳じゃない。

むしろ効果覿面だ。

だが再生速度が異常すぎる。

「面倒だな……。」

オーガが再びアルファを嘲笑うかのように笑う。

その時だった。

アモンは違和感に気づく。

「あれ?」

オーガは再生能力があるから、攻撃を受ける時は基本的に防御をしていない。

だが。

一か所だけ。

攻撃を防ぐために防御してる所がある!

「先輩!」

「なんだ!」

「オーガの胸です!」

「胸?」

「胸だけ守ってます!」

アルファの口元が緩む。

次の瞬間。

オーガの拳が迫る。

しかし、アルファは避ける。

そして。

胸へ向かって手を伸ばした。

「グォォォォォ!!」

オーガが胸を腕で庇う。

「なるほど。」

アルファが笑う。

「アモンが言った通りそこか。」

一回。

二回。

三回。

アルファは胸だけを狙う。

崩壊毒ヴァイラス

崩壊毒ヴァイラス

崩壊毒ヴァイラス

腐敗が積み重なる。

ついに腕の再生が追いつかなくなる。

そして。

胸に届いた。

しかし、薄皮一枚。

されど一枚。

その奥から。

黒く濁った結晶が現れる。

「やっぱり。」

アルファが呟いた。

「魔力核。」

アモンは意味が分からなかった。

目の前で起こっていることが。

だが、そうアモンが思っていた時。

急にオーガは苦しみ始めた。

身体を掻きむしる。

地面を殴る。

叫ぶ。

「グォォォォォォォ!!」

「先輩!」

「下がれ!」

アルファは両手を前へ出した。

指先から黒い腐敗が集まっていく。

普段とは比べ物にならない量。

「ヴァイラス特盛版!」

黒い塊が生まれる。

圧縮。

さらに圧縮。

そして。

「終わりだ!」

アルファはそれを魔力核へ叩き込んだ。

ドォォォォォン!!

爆発。

土煙が舞う。

数秒後。

オーガは膝をついていた。

再生しない。

アルファはゆっくり近づく。

そして静かに言った。

「苦しかったろ。」

オーガはアルファを見る。

その赤い瞳から。

一筋の涙が流れた気がした。

「安心しな。」

アルファは手を伸ばす。

「もう終わりだ。」

じゅううううう。

腐敗が全身へ広がる。

オーガは抵抗しなかった。

やがて巨体は崩れ落ちる。

完全に動かなくなった。

静寂。

風だけが吹いていた。

アモンは言葉を失う。

アルファはオーガの亡骸を見つめながら呟いた。

「お前も被害者だったのか……。」

その声はどこか悲しそうだった。

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