2人の兄
黄泉という実の兄を知ったなゆた。
黄泉かヤマト。なゆたはどちらを取るのか
夜も深くなり全員が眠りに着く。
ただ、ヤマトは屋根の上で夜風にあたる。
黄泉様…黄泉は生きていた…しかも今は特務退魔課…俺たちと敵対している…なぜ、何のために…?いつも頭の中1番はなゆた。それなのになぜ敵側に?恨んでいる?
ちがう。
「記憶を消した張本人だから…」
「今日も風は気持ちいいなぁ…ヤマト」
ふと隣に気配もなく白夜が現れる。驚くことなく目線だけ白夜に向けた。
「何の用だ」
「かなり思い詰めとった顔しとったらさすがになゆたも困ると思わんか?」
「…なぁ、あの日。全てが壊れた日、黄泉様は確かに俺の腕で死んだ」
「…それで?」
「なのに生きてる…おかしいと思わないか…?死体が生きてる。ただ本当に生きてるとは考えにくい」
「魂は、なゆたのお面に宿った…それなのに生きてる。じゃあ、なゆたのお面に魂は宿ってへんのかってなるな…」
ヤマトは拳を握る。
「なぁ、白夜。もし本当に黄泉が生きてたとして俺はどんな顔して会えばいい…?俺がなゆたの兄の代わりとなって命令がいつの間にか自分の意思で執着して、本当の兄に成り代わろうとしている俺は黄泉に会ってもいいのか…っ?!」
白夜はヤマトを見たあと、静かに星を見る。
「あの時、本当の兄を知ったのになゆたはお前を兄ちゃんと呼んだ。やったら答えは出とるやろ。自分で考えたらどうや。被害者はお前1人やない」
「答え…」
なゆたに見つめられたあの瞳は俺を心から"兄"と思ってる瞳。
「なゆたは黄泉に対して何を思ってるんだ…」
「会ってから見ればいい。お前は昔からひとりで抱え込む。なんでこの百鬼夜っちゅう仲間は全員ひとりで抱え込むんや」
呆れたように息を吐く。
「俺はこの仲間が心地いい。もっとみんな人を頼るってことを覚えた方がええんとちゃうんか」
その言葉だけを残し、白夜は屋根から消える。
「俺は…ずっとなゆたの兄でいいのか…?黄泉」
何も答えない月は冷たく感じる。
月は沈み、朝が来る。
「ヤマト?ヤマト」
なゆたは朝からヤマトを探す。
「おはよう、なゆた。どうかしたの?」
「ニコ、ヤマト…知らない?」
「ヤマト?見てないわよ?まだ寝てるんじゃないかしら?」
なゆたは首を横に振る。
「いなかった…」
不安げな顔を見て、ニコは頭を撫でる。
「どこにも行ってないはずよ。ちゃんと探しておいで。ご飯だからついでに呼んできてくれる?」
「わかった…」
歩き出すなゆたの背中を見守る。
「ヤマト…」
ヤマトが黄泉に救われ忠順を誓っていたのは知っている。
だからこそ、あの話は信じたくないものだと。
「黄泉様が生きて知らなかったってショックなのか、自分が兄ではなくなるのが怖いのか…もしくは両方…」
「おや?ニコちゃんそんなとこで何してはるん?」
「なんもないわよ。それより洗濯物干すの手伝って。そのあとご飯だから」
「ほんま、ニコちゃんには敵わんわぁ…」
歩けば歩くほど広い城。
ふと足が止まる。
「ここ…」
綺麗な庭。
ヤマトを探しに行かなければいけないのに自然に足を踏み込む。
"兄様!"
「…っ?!」
突然流れ出す記憶。
だれ…これはボク…?
まるで幻覚を見ているようだった。
目の前には楽しそうに走り回る銀髪の小さな少女。その後ろから困ったように笑う銀髪の青年が歩いていた。
あれは…黄泉…ボクの兄…
"兄様!ずっと一緒にいようね!"
"もちろんだよなゆた。俺の大事なお姫様"
頭痛が響く。なのに目は逸らせない。
「ぁ…」
自然と手を伸ばす。
「兄…様…」
"なゆた"
違う声。横を見るとヤマトがいる。
「ヤマ──」
ちがう、これも幻覚…
"なゆた!一緒に買い物行こうぜ!"
"大丈夫。俺は離れないよ。なゆた、大丈夫。俺ばずっと"
"傍にいる"
膝から崩れる。
荒い呼吸。溢れる黒い霧。
「はぁ…っ、はっ…ボク、は…」
ボクはどっちの兄を取ればいい…?
その瞬間、
足音。
なゆたは顔をあげる。
そこには映るのはヤマト。
「…なゆた?」
しゃがみ込むなゆたを見て咄嗟に傍に行く。
「なゆた…!…っ」
能力がない。痛いほど感じさせられる。
「大丈夫…ちょっと、寝起きでフラフラしただけ」
とてもそうとは思えない。異常なほどの汗、浅い呼吸。
なのに、
なのに、俺はどうすることもできない…
手を離そうとするすると握り返される。
「まだ、このまま…」
「俺には…」
「能力が必要なんじゃない…ヤマト…兄ちゃんが必要」
ずっと前に立って戦ってきた。慣れないことをずっとしていた。
王になり、
大妖怪を倒し、
新たな真実を知り動き始めるところ。
ヤマトはそっと抱きつく。
「大丈夫、なゆた。お前はひとりじゃない。俺がいるから。能力がないダメな俺だけどいいか?」
「……?うん…」
違和感。
こういう時、いつものヤマトなら
"兄ちゃん"
その言葉を使うのに使わない。
兄ちゃんは…兄ちゃんを辞めたい…?黄泉が生きていたから?
やっと気づく。
「ボク、ヤマトがいいんだ…」
「…え?」
その後の言葉は続かない。
ただギュッと強く抱きしめられ静かな風の音だけが耳に残る。
ここまで見てくださりありがとうございます。
ヤマト辛いねぇ…^^




