境界となるもの
「準備できた?」
頷く3人を見て、
なゆたは小さく息を吐いた。
手が震える。
無意識だった。
抑えようとしても、
わずかに指先が揺れる。
戻ると決めたはずなのに。
体は正直だった。
「大丈夫」
ヤマトの声。
「俺らがいる」
強く、手を握られる。
逃げ場を塞ぐように。
なゆたは、少しだけ目を細めた。
「……うん」
握り返す。
4人は、店を後にした。
夜は静かだった。
風も、音も、何もない。
「境界誰が出す?」
ニコが小さく聞く。
「境界は───」
なゆたは、少しだけ間を置いた。
「ボクが出す」
空気が、止まる。
「……え?」
ニコが固まる。
「ヒメ、出せるの?」
「…?うん」
なゆたは首を傾げる。
「大丈夫なの…?」
「大丈夫。ボクの問題だから」
ヤマトは目を細め、しっかりとなゆたの手を握る。
深い森の奥。
なゆたは足を止め、3人も足を止めた。
息を吐き、手を前に出す。
その時。
風が、止んだ。
ざわり、と。
カラスが集まり始める。
一羽、二羽じゃない。
空を覆うほどの数。
「……来たな」
サクヤが低く呟く。
「…ヤマト」
「ああ」
繋いだ手を、強く握る。
なゆたは、ゆっくりと息を吐いた。
黒い霧が、
指先から、溢れる。
空気が、歪む。
地面が、わずかに沈む。
……開く
光が、弾けた。
眩しさに、三人が目を細める。
その中心で、
空間が裂ける。
「……これ……」
ニコが言葉を失う。
そこにあったのは、
“扉”だった。
大きく歪な扉。
「……こんな扉だっけか?」
ヤマトが小さく吐く。
「違う」
サクヤが首を振る。
「これはなゆたが作り出した境界だ」
「作り出した者の想像となり境界が現れる」
沈黙。
「なゆた」
ヤマトの優しい声。
「そんな怖がんなくても大丈夫だ。俺がいる」
なゆたは小さく頷き、一歩前に出た。
……もう決めた
黒い霧が、わずかに揺れる。
なゆたは、一度だけ手を止めた。
懐に触れる。
取り出したのは——
黒い面。
「……それ」
ニコが小さく呟く。
なゆたは答えない。
ただ、静かにそれを顔に当てる。
カチ、と。
世界が切り替わるような感覚。
「行こう」
その声は、さっきまでより、少しだけ冷たかった。
振り返らない。
「時間がない」
一歩、踏み込む。
境界へ。
その瞬間。
世界の“音”が、
完全に消えた。




