キスの味
白雪にキスをされ、能力を失ったヤマト。
それでも自然と振る舞うヤマトになゆたは────
手が震える。
「ねぇ」
なゆたはゆっくり白雪に近づき刃を首に近づける。
「もう、どうでもよくなった。殺そうか」
「なゆた待て。感情で動くな。こいつは大事な獲物だろ」
サクヤがなゆたの身体を引っ張る。
「それでも、ヤマトの能力を封印した罪…それと、ボクの目の前でヤマトを汚した罪は死刑に値する」
「なゆた」
サクヤがなゆたの腕を持つ。
そこにニコが近づく。
スっと白雪の前に屈む。
「ヤマトはやめときなさい」
「なんで?」
煽るように目を細めニコニコと笑う。
「これはあなたが敵だからじゃなくて同じ女として言ってるの。こいつは…ヤマトは、すぐ浮気してたし、その場のノリで付き合うし、口を開けば"なゆた"しか言わないどうしようもないシスコンクズなの」
「おい、酷い言われようされてないか?」
「なゆたちゃんがいるなら殺せばいい。浮気をするなら部屋に閉じ込めておけばいいじゃない」
「無駄よ。そもそもヤマトはあなたみたいなヤンデレは嫌いなタイプなの」
いつになくニコの顔は真剣だった。
「そのせいで何回も別れて泣いた女を見てきた。あれは可哀想だったわ…」
「おい、今関係ないだろ俺の事情は。そんな事情よりもっと大事な話があると思うんだが」
ヤマトのツッコミは届かず、ニコは哀れんだ目をする。
「さてと、狐。時間は稼げたかしら?あ、この話は事実よ」
「バッチリや。ありがとさん、ニコちゃんとなゆた」
その瞬間、帳が消える。
「さすがバカ犬やなぁ。俺でさえそこまでよぉせんわ」
「なんなのあんたたち…半妖のくせに」
ヤマトは前に出る。
「俺の能力を戻す方法を教えろ」
「付き合ってくれたらいいよ」
「手段を選ぶ立場だと思ってんのか?」
「じゃあ、教えてあげない♡」
風が吹く。目も開けられないほどの強風。
風…?ここは室内なのに…?
「副隊長…死んだらどうするんですか」
目の前には別の知らない男。
白雪を乱暴に担ぐ。
「ちょっと!女の子に優しくしてっていつも言ってるでしょ!!」
「はいはい。すみませんね、みなさん。うちの副隊長がご迷惑をお掛けしたようで」
「誰だお前」
「僕たちがなんなのか、分かってるでしょう?僕は特務退魔課の有馬。この副隊長を迎えに来たんですよ。それよりあなた方は?」
「俺たちは百鬼夜と覚えてくれればいい」
「へぇ!かっこいい名前!いいですね。また何れ会いましょう。それと…」
有馬と名乗った青年は笑う。
「その、能力を消す薬…祢々切丸が無いと元に戻せませんよ。鬼の半妖の能力で戻そうと思っても蓋をしてある状態ですから、無駄ってことだけ覚えておいてください」
「それではごきげんよう」
窓から飛び降りニコが慌てて窓の外を見る。
だが、そこには誰もいない。
静かな空間。誰も口を開かない。
パンッ!
「飯にしようぜ」
最初に口を開いたのはヤマト。
その顔は普段通りに顔。
「サクヤ、なんか作ってくれ」
「…わかった」
サクヤは素直に頷きキッチンに向かう。
「ヤマ───」
「いやぁ、まじで焦ったわ!能力、どうしようかね!」
笑うヤマト。
「…」
無理してる…
そう感じたのは小さくヤマトの手が震えていた。
なゆたはそっと手を握る。
「今日は大勢でのご飯だね」
心臓が痛い。
だけど、しっかりしなくちゃ…ボクは、
みんなの王なんだから。
「…ボクちょっと部屋に行く。ご飯できたら教えて」
スっと部屋に行く。
ヤマトは追いかけようとする足を止めた。
「なんや、行かへんのか?」
「今、俺が行ったところで何ができるって言うんだ」
「へぇ…じゃあ、俺が行こうか。何するかは言わへんけど乱暴にはしぃひんよ」
「…っ、てめぇ!」
「それが嫌やったらお前が行きぃや」
冷たく低い声はヤマトの背中を押す。
「ほんまなんやあの兄妹。もっとお互い素直になったらええのに…ところでニコちゃん、その包丁は人を刺すためにあるんやなくて料理するためにあるんやけど…一旦下ろしてくれへん?それ」
「さっきのどこから冗談かしら?」
ニコは笑い白夜は焦る。
「全部に決まってるやないですか〜!もー、ニコちゃんには構いまへんわ!さ!ご飯の準備しよか!!うん!そうしよう!」
逃げるように白夜はキッチンに向かう。
「…ヤマトが行くのは間違いに決まってるでしょ…」
部屋の前で足が止まる。
開けてまた居なかったらどうしよう。
そうなったら俺は本当に立ち上がれない…
覚悟を決め部屋の中に入る。
「なゆた」
机に向かい、本を開いてなにか書いていた。
「何してんの?」
「今日のこと。あの白雪って人と有馬って人の情報をまとめてる」
「真面目だなぁ」
ペンを起き、なゆたはヤマトに身体を向ける。そして手を広げた。
「甘えん坊か?」
優しく包み込む。
包み込んでたはずだった。
頭を胸に持ってかれ撫でられる。
「…あの、なゆたさん?俺、ちょー恥ずかしいんですが…」
「なんで?兄ちゃんはボクが無理してる時とかいつもこうしてる」
恥ずかしいけど不安が軽くなる。
「兄ちゃん、ボクは大丈夫だよ。だから、無理しないでほしい」
「無理なんて」
「してる。兄ちゃんだからじゃなくて兄ちゃんでも怖い時は怖いと思う」
「……ごめん、俺が油断してしまったばかりに」
小さく震える声。なゆたは受け止めるかのように強く抱きしめる。
「迷惑かけた…どうしようもなく怖いんだ。俺が能力使えない時にお前が暴走してしまったらって思うと…また部屋に行ったら居なかったらって思うと」
ヤマトの抱きしめる力が強くなる。
「暴走はもうしない。それに、もうどこにも行かない。だから、」
「もう大丈夫。ボクが兄ちゃんを守る」
顔をあげると月を背景にまっすぐ見つめるなゆた。
「立場、逆転してしまったな」
開いた窓から風が吹き込む。書ききってない紙は窓に誘われヒラヒラと舞う。
「あ、まって…」
急いで立ち上がり追いかけ、そして窓から落ちる。
その1歩手前でヤマトはなゆたを引っ張りベッドに落ちる。
「…っぶねぇ…コラなゆた。ちゃんと周り見…」
ここでやっと気づく。覆い被さるようになゆたの上にいた。ジッと見つめられ目を逸らせなくなる。
「ねぇ」
ただジッとヤマトの目を見つめる。
「…っ」
「キスされた時どんな感じだった?嬉しかった?恥ずかしかった?」
「…最悪だと思った」
「でも、ヤマトは…」
そこで勢いよく扉が開く。
「さっきからご飯って言ってんでしょ!って、何してんの?」
ニコの目が光る。
「あ、え…?だっ、いや!これはその…違うんだって!誤解だよ誤解!」
「違う?誤解?」
ヤマトはパッとなゆたから離れ慌てる。
「なゆたが落ちそうになってそれを受け止めたら最終的にこうなった的な?うん。間違っては無い!!」
「最終的にこうなってって、どうなったのよ」
ニコが何もない空間から爪を出す。
「前々から思ってたけど、あなたなゆたに近すぎるのよ!!兄妹とは思えない距離!!今日こそ覚悟しなさい!!!」
爪を振り回し追いかけ回す。
「誤解なんだって!!お前が思ってるようなことじゃねぇよ!!あぶねっ!おい!ニコ!…っなゆた!GO!!」
"ニコのこと嫌いになるよ"
前に教えた魔法の言葉。
だが、その言葉の代わりになゆたはニコに抱きつきキスをする。
「…へ?」
ヤマトは動きを止め唖然と見る。
「ひ、ヒヒヒヒメ?!?!え、え?!」
顔を真っ赤にさせ動揺するニコ。
ベッと舌を出し、
「さっきのお返し」
それだけ言って下に向かった。
「ニコ…お前…」
「私悪くないじゃない!恨むなら軽々とキスされた自分を恨む事ね。はー、お腹すいた!」
ニコは武器を終い、下に降りる。
「なんか俺あまりにも可哀想すぎませんかね?!?」
上からヤマトの声が響くがニコはそのまま無視をし降りる。
ここまで見てくださりありがとうございます。
ヤマト…お前クズ男だったんか…




