呪い
帳が消え、いつもの店。
フツフツと煮える感情の中、サクヤがヤマトに声をかける。
帳が降り、そこは店だった。
「あいつは…?」
遠くで戦っていたニコとサクヤは、状況を飲み込めていない。
「なゆたさ…」
"様"
ニコがそう言いかけたところでヤマトは手を上に。
「今は"いつもの"なゆただ」
ただ暗くポツリと呟く。
「いつもの…?って、ヤマト?!」
ニコはすぐ駆けつける。
「その口…どうしたのよ!血だらけじゃない!待ってなさい」
ニコはそっと手を近づける。
淡い桃色の光。
その光と共に切れた舌は何事も無かったかのように消える。
「すまねぇ」
「なゆたは?」
ただ呆然と立つなゆた。
「なゆた?」
「ボ、クは…あの人を…」
「どうしても切れなかった…知らないはずなのに…」
知らなくていい。
なんて言えなかった。
「あの人って誰だ?」
サクヤが探りを入れるようにヤマトを見る。
「それ、は…」
パン!
大きな音が響く。
一斉にその音に肩を震わせた。
ニコニコと手を合わせる白夜。
音の原因は白夜が手を叩いたからと瞬時に理解する。
「敵は消えた。こいつら2人は敵を前に術をかけられたんや」
「って、なんであんたが居んのよ!」
「たまたまやでニコちゃん!それより…」
白夜はヤマトの隣に立ち、耳打ちをする。
「言わんでええ。2人にもなゆたにも」
「じゃ、俺は帰るわ〜」
狐火に変わり、その場からふと居なくなる。
「術は大丈夫なのか?」
「……あぁ、何ともない。なゆた、」
ヤマトがなゆたを見つめる。
「あの帳の中での記憶はあるか?」
「記憶は…曖昧…ごめん」
「なんで謝るんだよ」
ポンっと頭に手を乗せる。
帳の中は妖気が高い。だからなゆたの妖力が倍になった…と考えるのが正しいか…
綺麗だった満月はどこか不気味に光る。
「今日はもう店を閉めましょ。なゆたは?怪我はない?」
「ない」
「嘘はダメ。顔にかすり傷出来てるわよ。女の子なんだから顔に傷はつけちゃダメ」
優しく傷を拭い、治す。
「…ありがとう」
「今日のことをいつまでも引きずるな。一旦忘れよう。またあの傍観者とかいう人間が現れるかもしれない」
サクヤは踵を返し、自室に戻る。
ヤマトはなゆたの手を取り一緒に戻る。
「ヤマト」
「ん?」
揺らぐ瞳は不安を隠さない。
「ヤマトはあの人のこと知ってるの?」
「兄ちゃんはどこにも行かないよね…?」
息が詰まる。
自然と出る言葉。
「知らないし俺はどこにも行かない」
握る手が強くなる。
「ずっと、ずーっとなゆたの傍にいるから」
その答えでなゆたは安心する。
部屋に戻り、ただ立ち尽くす。
フツフツと煮える感情。机に置いてある本をなぎ払い、かがみ込む。
「なん、で…っ!俺は…!」
まだあの笑顔が張り付く。
忘れようとすればするほど思い出す。
「俺は…いつまでお前の呪いに縛られればいいんだ…」
ドアの外でニコが今にも泣きそうな顔で立つことしかできない。
そこにサクヤが来る。
「サクヤ…」
「なゆたは寝た」
それだけ言いヤマトの部屋に入る。
「ヤマト」
「…」
返事はない。けど、いい。
「今から俺に付き合え」
ヤマトの目の奥は黒く淀んでいる。
大人しく着いていき、広い森の中。
光は月の明かりだけ。
「なんの用だ…」
サクヤは黙り、槍を取り出す。
「俺と今から真剣勝負しろ」
「…やってらんねぇ。俺は帰って寝る」
「その様子でなゆたの前に出るのか?あいつは人の表情、感情に敏感だ」
「1番そばに居るお前がそんな顔してなゆたが可哀想だ」
「一度お前の弱い心を切る」
ヤマトは拳握り、ゆっくり大剣を取り出す。
「まじで意味わかんねぇよお前」
どちらからとも無く、踏み込み金属のぶつかる音が、森の中で響く。
「なんで男ってこんなにも馬鹿なのかしら…ね、なゆた。誰もあの方のこと忘れられないのに…」
眠る顔はただ静かで綺麗だ。
ここまで見てくださりありがとうございます。
なんやかんやサクヤってなゆたのこと妹のように可愛がっているんですよね。よくこっそりお菓子あげたりしています




