最後の日常
不穏に気づくヤマト。
平和な日常に近づくのは────
「で、こんな夕方まで何してたのかしら?」
「いやぁ〜?買い物に行ってただけだよ。な?なゆた」
「…うん」
「へぇー、猫ってね鼻もいいの。あら、ヤマトとお揃いね。その甘ったるい匂いは一体何なのかしらねぇ?」
笑うニコ。だが笑っていない。
なゆたとヤマトは玄関で正座をさせられている。
2人はお互い目を逸らす。
「ヒメ?」
「ひっ…」
ポンっと肩に手を置く。
「残したら、私特製ご飯。ご馳走させてあげるからね」
ダラダラと焦る汗。
小さく、
「はい、全部食べます…」
と呟く。
「てか!」
勢いよくヤマトが立ち上がる。
「買い物に行ったのは、ニコ!てめぇのせいだろ!卵をレンジでチンするとかどんな頭してんだ!」
「ゆで卵を作ろうとしただけよ!!」
「ゆで卵だろ?!茹でるんだよ!!茹でるからゆで卵って言うんだよ!」
玄関の奥でサクヤが大きく溜息を着く。
「ほら、そろそろ戻るぞ。飯が冷める」
待ってましたと言わんばかりに2人のやり取りの隙を狙ってなゆたは中に入る。
「あ!ちょっと!なゆた?!まだ話は終わってないわよ!」
「はー、食った食った。片付けるから運んでくれ」
綺麗に無くなった皿をヤマトが洗う。そこに食器を運ぶサクヤ。
「なぁ、サクヤ」
「なんだ」
「カラス、飛ばしてくれないか」
「…なぜ」
「嫌な勘はよく当たる。嫌な匂いがする。なゆたを守るためだ。頼む。命令だ」
その目は酷く落ち着き静かだった。まるで
これから起きることを見透かしているように。
「わかった。ヤマト…総大将が言うのであればそうしよう」
その言葉と共に気が揺れる。
カァー
「悪いな」
「あまり抱え込むなよ。俺たちは1人では生きられない。だから集まっている」
「抱え込むさ。最近、黄泉の夢を見るんだ。成長した今のなゆたが笑って、一緒に鍛錬してそれを笑って見ている黄泉のそんな夢」
「…黄泉様はお優しい方だった。種族の違う双子の俺たちを普通だと言って接してくれた」
ただ静かに食器を洗う。
遠くでなゆたとニコの声。
いつまでもこんな日常が続けばいい。
そう思えば思うほど壊れていく気がする。
「ヒメ〜?今日こそ一緒にお風呂に入るわよ」
「い、嫌だ…」
「……ん?風呂?」
ヤマトが手を止める。察したようにサクヤがヤマトの持っていた皿を取り、泡だらけの手を水に流した。
まるで
"止めてこい"
と言わんばかりに。
「いいじゃない!また身体を洗わせてよぅ!」
「ニコ、触り方しつこいし怖い。変なところまで触ってくる。嫌」
逃げるなゆたを両手を上げてワシャワシャしながら追いかけるニコ。
ヤマトはジトとニコを見て前に来た瞬間、首根っこを掴む。
「風呂でなゆたになにやってんだてめぇ」
「あら?普通に洗ってるだけよ?」
「なゆた、前に"魔法の言葉"を教えただろ。それを使う時が来たぞ」
ハッとしたようになゆたはニコを見る。
なにも分かってないニコは首を傾げる。
「そんなことしたら、ニコのこと嫌いになるよ」
その瞬間、ニコが崩れる。
「そ、そそそんな…ヒメに嫌われたら…わたし、私…っ!!うわーん!!」
泣きながらそのまま風呂場に向かうニコ。そっとヤマトに近づきバチが当たったかのような顔をする。
「酷いこと言っちゃったかな…」
「あいつにはそんくらいのお灸を据えたほうがいい」
深い眠りから目覚めた今日。なゆたはどこか吹っ切れた顔をしていた。
「なゆた、体調は大丈夫か?」
「大丈夫。それより」
いつもワンテンポ遅れる会話。それなのに起きてからは普通に話す。
「鍛錬に付き合って」
目を見開く。
記憶がなくなってから言われたことない言葉。
記憶が無くなる前に何百回と聞いた言葉。
ダメだ。声が震える。
息を飲み込み、笑う。
「望むところだ!」
なゆたは安心したように目を細める。
外でカラスが鳴く。
何かを必死に伝えるように。
ガシャン!
皿の割れる音。なゆたとヤマトが慌ててキッチンに向かう。
青ざめるサクヤ。
その手は震えている。
「おい、サクヤ。どうした」
なゆたは咄嗟に外を見る。
「…」
「ヤマト、サクヤ」
「近づいてきてる」
なゆたも警戒する。
次の瞬間、
カラスが木から落ちる。
まるで、
魂を抜き取られたかのように。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ニコに料理をさせてはいけません。命が危ないです




