命令に縛られて
なゆたの大鎌が振られ死を覚悟したヤマト
目の前に現れたのは───
身体が動かない。
どうすれば…?
なんて考える暇はなかった。
なゆたは目の前。
大鎌を振りかざす。
「…っ、なゆ、た様…っ!」
聞こえていない。それでもヤマトは叫び続ける。
「俺です!ヤマトです!」
「黄泉様…貴方の兄はどこに…!」
それでも防ぐのでいっぱいいっぱい。
手を掴む余裕もない。
転がった死体に躓く。
あ、やばい
見上げると大鎌は振られる1歩手前。
これ、死んだわ
目を閉じ死を受け入れる。が、いつまで経っても痛みはない。
そっと目を開けると庇うように立つ人物。
「黄泉…様…?」
大量に出る血を気にもせずなゆたを抱きしめ、なにか呟く。
その瞬間、黒い霧は嫌がるように消えさり無くなると同時になゆたの目も綺麗な金色へと戻る。
ひとつ瞬きをして目の前の状況を見る。
大量に血を流す兄。
血だらけの顔と服。そして大鎌。
誰がしたの?
ゆっくり大鎌を持つ手を見て、
なゆたの顔が一気に歪む。
「…っぅあ"ぁぁぁあぁあっ?!!」
「なゆ、た…」
浅い呼吸で黄泉は急いで札を出しそのままなゆたに抱きつく。
「なゆた、兄様のことは忘れなさい」
「その代わり…」
「しっかり、生きるんだよ」
なゆたを抱えたまま倒れ込む。なゆたもそのまま気を失う。
その1歩手前でヤマトは支える。
「ヤマト…お前に言った頼みを…覚えているかい…?」
「喋んな!傷口が深い…くそ…っ!」
「聞いてくれヤマト…」
ヤマトの手を握り、真っ直ぐ見つめる。
ヤマトも手を握り返し受け入れるようにその顔を見る。
「術は完成できていない…兄がいるという存在だけ、残ってしまった…」
「本当は全部、消すはずだった…けど、間に合わなかった…」
「前に言った、ヤマトが兄の代わり…やってくれるかい…?」
「お前の代わりになんてなれねぇよ…!なぁ、まだ間に合う。そうだ、ニコ…ニコは回復の能力を持って…」
「無理だね。もう意識を保つので精一杯だ…」
「これはお願いだよ…なゆたが独りにならないように…」
「黄泉…なぁ、黄泉…!俺は…」
黄泉は笑った。嬉しそうに。
「また呼び捨てで呼んでくれたね…ねぇ、覚えてるかい?俺とお前が初めて会った日…」
懐かしそうに目を細める。
「あの頃のヤマトは無礼で…目に光なんてなくて…そして、俺を妖怪と平等に扱ってくれた…嬉しかったなぁ…」
「もういい。話すな…!治ってからいくらでもきいてやるから…!」
涙でぐしゃぐしゃの顔を見て、黄泉はだんだん意識が遠くなる。
「最期に、ヤマト。俺に仕えてくれてありがとう…なゆたの傍にいてくれてありがとう…これか、らも…なゆたの、ことを…たの、んだよ…これは…め、いれ…い…だ…」
その言葉と共に黄泉の腕が落ちる。
風が吹いた。
赤く染まっていた空が、
ゆっくり元の色に戻っていく。
「あ、あ"ぁ…黄泉…黄泉っ!!!!なぁ…っ!起きろよ…!俺、まだ…お前になにも…う"あ"ぁぁあぁぁ…っ!!!!」
赤い空が薄くなる。
苦しそうに眠るなゆた。
黄泉の亡骸を大事そうに抱えるヤマト。
後から、サクヤとニコが合流し、言葉を失う。
「なに、よこれ…」
「黄泉様?!なゆた様!」
サクヤが駆けつけなゆたの安否を確認したあと、ヤマトを見る。
枯れることのない涙。
張り裂けそうになる胸を押さえ、サクヤはなゆたを抱え、ヤマトの手を引っ張る。
「まだ敵がいる。狙っているのはなゆた様だ。とりあえず逃げるぞ」
無気力なヤマトはふと振り返りその場に残された黄泉を見る。
――君が村を荒らしてた犬だね
――んだ、てめぇ…殺すぞ
銀髪の髪は風に揺れ嬉しそうに笑う。
――俺は黄泉。よろしくね!
――だれが…
真っ直ぐ見つめられる綺麗な紫。なにも言えなくなる。
――勝手にしろ。黄泉
「俺は、あの日から黄泉の命令に縛られ続けてるんだ」
静かな部屋に声だけが落ちる。
気づけば、
湯気の立っていた茶はすっかり冷めていた。
誰も言葉を発せない。
ただ、
ヤマトだけが苦しそうに目を伏せていた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
過去編が終わりました。




