最後の命令
黄泉がヤマトに託した最後の命令とは────
「寝込みを襲うなんてヤマトは大胆だね〜」
「ばっ、ち…っ?!」
「あー!今、俺に向かってバカ、違うって言おうとしただろ〜?ヤマトだから許されるんだからね」
「…ん"っん、申し訳ございません」
「あっはっは!本当にヤマトは弄りがいがある」
はぁ、と溜息をつきジトっと黄泉を見る。
「ん?なんだい?」
「黄泉様だけですよ。俺をそうやって扱うの」
「俺とヤマトの仲だからでしょ?」
寝ているなゆたに目が行く。驚くほど、出て行く前と変わっていた。
まるで空気が穏やかになったよう。
「ねぇ、ヤマト」
「なんですか?」
「ヤマトはなゆたを恋愛対象として見てるかい?年齢も対して変わらないし」
「は、はぁ?!そんなわけ…」
またからかっているのだろうと顔を見たがどこか真剣だった。
「…それはありませんよ。黄泉様の前で言うのは無礼承知ですが、ただ妹のように思えます」
なゆたを見つめる瞳は心の底から家族を見ているよう。
「えー、ちぇー、つまんないのー」
「やっぱからかって…」
「俺の命令を聞いて欲しい。ヤマト」
ヤマトの正面に立ち真剣な瞳。
先程の不安もなく覚悟を決めた顔。
「俺は妖力がない。だが、術は使える」
「存じております」
「その術を活かしてなゆたを止める」
ヤマトの息が止まる。
「どう、やって…」
「これを使って」
「これは…」
黄泉が持っていたのは黒いお面。金の三日月の模様に、顔はのっぺらぼう。
「なゆたは何れ自分がどっちになるか悩むと思うんだ。どっちにもなれるように顔は描かず、なゆたの瞳の雰囲気を持って三日月。いい出来でしょ」
自慢げに笑う黄泉。だが、どこか震えていた。
「これはまだ完成じゃない。このお面は術者の魂がいる」
「まさか…!」
ヤマトは無意識に黄泉の肩を強く掴む。
まるで察したように。
「俺はその命令に従えません」
「聞きなって」
肩の手は退かさない。代わりに手首を強く握る。願いを託すかのように。
「俺が死んだら、お前が兄の代わりになってほしい」
「…は、なん、で…」
優しい顔でふと笑う。
「お前が言っただろう?妹みたいだって。正直、俺はお前からその言葉が聞けて嬉しかった」
懐かしそうになゆたに近づき頭を撫でる。
「なゆたって本当は臆病で人見知りで部屋にこもってるような子だったんだよ。それが今、ヤマトと出会ってたくさん外に出て忌み嫌われていても気にせず前に進んでる」
もう一度、ヤマトの手をしっかり握る。
「ヤマトのおかげなんだ。なゆたが明るくなったのは。だから、俺が死んだら俺の記憶を消させる。思い出さないようにしてくれ。そして、」
「ヤマト、お前が兄になってなゆたに接してくれ」
拳を握る。
今までどんな無茶な命令も聞いてきた。
だが、
「そんな、お願い…聞けるわけないだろ…」
「最後の命令だよ、ヤマト。あとは時間の問題だ。この話は、」
「その日が来るまで誰にも言わないで」
黄泉が部屋を出る。追いかけるように手を伸ばす。
「おい、待てって…なぁ…!黄泉様…黄泉!!!!」
出会った頃以来だった。
呼び捨てにしたのは。
拾われて初めてあった黄泉。マナーも王家も知ったこっちゃないヤマトが新鮮に見えた黄泉にとってヤマトは特別。
初めてできた友達に思ってた。
立場さえなければ。
「だから、ヤマトに頼むんだ」
ヤマトの手は空を切る。
静かに涙が落ちる。
「…ヤマ、ト?」
柔らかい、暖かい声が響く。
「おはよう、ヤマト。どうしたの?お腹でも痛い?」
「なゆ、た様…」
泣き顔は見せられない。咄嗟に涙を拭い、振り向く。
そこに映るのはいつものヤマト。
「さっきつまみ食いしたお菓子が生焼けでお腹壊してました!」
そう笑うヤマトになゆたは大きな口を開けて笑う
「ヤマトって本当に変だよね!」
「…そう、ですね」
笑うなゆたとは反対に、ヤマトの心だけが沈んでいく
ここまで見てくださりありがとうございます。
ヤマト、辛いね……誰がそんな事やったんだい…??(他人事)




