光
眠るなゆたに寄せる思い。
ヤマトは何を思うのか
眠るなゆたを見つめ、黄泉は焼き付けるようにその顔を見る。
穏やかな寝息。
何も知らないような顔。
だが。
先程まであの身体から放たれていた殺気を、二人は忘れられなかった。
「申し訳ございません。黄泉様。俺がついていながら……」
ヤマトは俯く。
強く握られた拳。
悔しさが滲んでいた。
黄泉は静かに首を横に振る。
「ううん。あれは誰も止められない」
優しい声。
だが。
その瞳の奥には、深い不安が揺れていた。
「むしろ、あそこから止めたのが奇跡みたいなものだ」
「ありがとう、ヤマト」
「勿体ないお言葉です……」
ヤマトはさらに顔を伏せる。
そんな姿を見て、黄泉はわざとらしく息を吐いた。
「ほらほら!元気だけが取り柄のお前がそんな顔してどうする?」
ニカッと笑う。
いつも通りの笑顔。
「なゆたが起きた時、それこそバカにされるぞ〜?」
「……誰のせいですか」
小さく返すヤマト。
黄泉は肩を竦めた。
だが。
その笑顔の奥にある不安を、ヤマトは痛いほど感じていた。
「俺は父上に報告してくる」
黄泉は立ち上がる。
そして。
扉の前で振り返った。
「だから、その間……なゆたを頼んだよ、ヤマト」
「仰せのままに」
静かに頭を下げる。
扉が閉まる。
部屋に静寂が落ちた。
ヤマトはゆっくり、なゆたの傍へ寄る。
眠る顔。
昔と変わらない、どこか幼さの残る寝顔。
その姿を見ていると、自然と昔を思い出した。
初めて会った時のことを。
――初めまして、なゆた様。
――今日から仕えさせていただく、ヤマトと申します。
膝をつき、深く頭を下げる。
父は人間。
母は犬神。
半妖として生まれた俺は、人にも妖にも嫌われた。
石を投げられ。
食べる物もなく。
生きるために盗みを繰り返した。
誰も信じない。
誰にも期待しない。
そんな毎日。
だから。
王族に仕えると聞いた時も、どうせ同じだと思っていた。
――ほら、なゆた。
なんて言うんだい?
黄泉の後ろから、小さな銀髪が顔を出す。
――あ、えっと……
その……
兄の服をぎゅっと掴み、
隠れるようにこちらを見る。
その姿に、思わず目を瞬かせた。
王族。
もっと偉そうで、近寄り難いものだと思っていた。
だが。
そこにいたのは。
小さくて。
臆病そうで。
まるで光みたいな子供だった。
――は、初めまして……
なゆたです……
おずおずと、
小さな手が伸びる。
――よろしくね、ヤマト
その瞬間。
目の前に光が差した気がした。
誰も信用出来なかった。
誰かを守りたいと思ったことなんて、一度もなかった。
けれど。
初めて。
この人を守りたいと思った。
信じたいと思った。
それが。
なゆた様。
ヤマトは眠るなゆたの髪を、そっと撫でる。
「……貴女様は」
言葉が続かない。
そんな光が今。
黒く堕ちようとしている。
その時だった。
ふわりと。
なゆたの身体から、黒い霧が溢れ出す。
ヤマトは静かに目を細めた。
そして。
それを掻き消すように、強く握り潰した。
黒い霧は音もなく消える。
「……大丈夫です」
誰へ向けた言葉なのか。
ヤマト自身にも、分からなかった。
ここまで見て下さりありがとうございます。
ヤマトって敬語使えたんだね




