嫌われ者同士
なゆたが連れてきたのは九尾。
嫌われ者と言われてもなゆたは笑って手を差し伸べる。その言葉に九尾は────
満月の夜。
白銀の光が森を照らす。
風が吹くたび、九つの尾がゆらりと揺れた。
「あの頃のなゆたは破天荒で…よぉ、振り回されとったわ……なぁ、クロガネはん」
白夜は木の枝へ腰掛け、月を見上げる。
その隣には、腕を組んだクロガネ。
「全くだ」
低い声が返る。
「だが今の王に、そんな面影は微塵も感じられない」
どこか懐かしそうに、クロガネも夜空を見る。
白夜は小さく息を吐いた。
「やっぱ、あの方が亡くなったから……か」
月に似た黄色の瞳が揺れる。
「仕掛けた狐火が激しく反応しとったから様子見に行ったけど……」
白夜の表情が曇る。
「やっぱあの傍観者とかいうアホ、隅に置けんわ」
その声は珍しく低かった。
ふと。
脳裏に浮かぶ。
泥だらけで笑う銀髪の少女。
その笑顔だけは、
今でも鮮明だった。
◇◆◇◆
「で、君の名前は?」
黄泉が優しく問いかける。
狐の少年は肩を震わせた。
「びゃ、白夜……」
消え入りそうな声。
ヤマトは目を細める。
「ひーふーみー……」
尻尾を数えた。
「こいつ、九尾ですね」
ビクッ。
白夜の肩が大きく跳ねた。
逃げなきゃ。
そう思うのに。
握られた手が離れない。
「ボクはなゆた!」
満面の笑み。
「ってさっきも言ったか!」
楽しそうに笑う。
「他の妖怪に虐められてたのを助けたんだ!」
白夜は目を見開く。
狐。
ましてや九尾。
嫌われて当然。
恐れられて当然。
なのに。
目の前の少女は、そんなこと気にもしていない。
「た、助けてくれて……ありがとう……」
やっと絞り出した言葉。
すると。
なゆたはキョトンと首を傾げた。
「ありがとう?」
そして、当たり前のように笑う。
「当然のことをしただけだよ?」
その言葉に、白夜はさらに目を見開いた。
当然。
そんな言葉を、自分へ向けられたことなんてなかった。
「それよりさ!」
なゆたが身を乗り出す。
「ボクとお友達になってよ!」
「……へ?」
白夜の思考が止まる。
ヤマトも思わず口を閉じ、二人を見つめた。
「で、でも……」
白夜は戸惑いながら俯く。
「僕……九尾だし……」
小さな声。
「それに、なゆた様は王族で……」
すると。
なゆたは勢いよく立ち上がった。
「九尾とか王族とか関係ないよ!」
両手を大きく広げる。
「ボクが友達って言ったら、友達なの!」
そのまま、くるりと回った。
青い空の下。
銀髪が揺れる。
「それに!」
なゆたは笑う。
底抜けに。
何も疑わない笑顔で。
「ボクだって嫌われ者だよ?」
その瞬間。
黄泉の表情が僅かに曇った。
「嫌われ者同士、仲良くしようよ!」
白夜は言葉を失う。
嫌われ者。
その言葉を。
こんな風に笑って言う者を、初めて見た。
「黄泉様」
ヤマトが小さく笑う。
「信じてあげましょうよ」
白夜を見る。
「姫様に、せっかく出来た友達なんですから」
黄泉は目を細めた。
そして。
どこか寂しそうに笑う。
「あぁ……そうだね」
風が吹く。
無邪気に笑うなゆた。
戸惑いながらも、その手を離さない白夜。
それを見守る黄泉とヤマト。
あの頃はまだ。
誰も知らなかった。
その笑顔の奥に。
静かに積み重なる闇を。
ここまで見てくださりありがとうございます。
まさか、あの白夜が昔はこんな性格だったなんて…人って変わるんだなあ……




