壊れる前兆
楽しそうに笑うなゆた。
なのにどこか違和感を覚える。
「ちょっと待って。黄泉様は妖力が無い……?!」
ニコが思わず声を上げる。
「同じ兄妹なのに……?」
「まぁ聞けって」
ヤマトは静かに言った。
「ちゃんと知りたければ」
そのまま、眠るなゆたへ視線を落とす。
穏やかな寝顔。
けれど。
今にも消えてしまいそうで。
ヤマトはそっと髪を撫でた。
「最後まで静かに聞いてくれ」
その瞬間。
「……兄、様……」
小さな寝言。
その場の空気が止まる。
ヤマトの手が僅かに止まった。
だが。
すぐに目を伏せ、静かに語り始める。
◇◆◇◆
「なゆた様?」
返事がない。
ヤマトはすぐに駆け寄った。
縁側へ座るなゆたは、苦しそうに胸元を押さえている。
呼吸が浅い。
顔色も悪かった。
「どうしたんですか?!」
ヤマトの顔から笑みが消える。
「どこか具合でも——」
「ううん……」
なゆたは小さく首を横へ振る。
「大丈夫……」
でも。
苦しそうな声だった。
「ただ、ちょっと最近苦しくて……」
その言葉を聞いた瞬間。
ヤマトは咄嗟になゆたの手を握った。
強く。
包み込むように。
すると。
なゆたの表情が少しずつ穏やかになっていく。
荒かった呼吸も、ゆっくり落ち着いていった。
「……苦しくなくなった」
不思議そうに目を瞬く。
ヤマトはすぐに笑った。
何事も無かったみたいに。
「それはよかった」
なゆたは知らない。
ヤマトの能力を。
そして。
自分自身の能力のことも。
「さてと」
ヤマトがわざとらしく腕を組む。
「なんでしたっけ?」
「今日こそ俺を倒すとか、倒さないとかぁ〜?」
「あー!!」
なゆたが頬を膨らませる。
「またヤマトが意地悪言う!」
「冗談ですよ」
ヤマトは楽しそうに笑った。
「今日は何の鍛錬します?」
「今日は……あ!」
なゆたの顔が一気に明るくなる。
大きく手を振った。
「兄様ー!!」
その先には。
銀色の髪を揺らしながら歩いてくる黄泉の姿。
黄泉も小さく手を振る。
「なゆた」
優しい笑みだった。
「今日こそヤマトに勝てたかい?」
「それがまだなの!」
なゆたは仁王立ちになる。
「今に見ててよね!絶対勝つんだから!」
その自信満々な顔に、ヤマトが吹き出した。
「何十回、何百回聞いたんでしょうねそのセリフ」
「あはは」
黄泉も小さく笑う。
だが。
次の瞬間。
その笑みが少しだけ曇った。
「なゆた」
優しい声。
「今日はもうお終いだ」
「ヤマトと話があるんだ」
柔らかい口調。
でも。
その奥には、どこか苦さが滲んでいた。
幼いなゆたには、まだ分からない。
「じゃあ、ボクも——」
「なゆた」
黄泉がそっとしゃがみ込む。
「さっき大きな虫がいたんだ」
「捕まえようとしたけど、俺じゃ捕まえられなくてね」
少し困ったように笑う。
「だから、なゆた」
「捕まえて、俺に見せてくれるかい?」
「うん!!」
なゆたの顔がぱっと明るくなる。
「兄様の頼みなら!」
黄泉は優しく頭を撫でた。
「遠くへ行っては駄目だよ」
「近くにいたから」
「はーい!」
元気よく返事をし、なゆたは駆け出していく。
スキップする後ろ姿。
無邪気で。
眩しいほど、幸せそうだった。
「……さぁ行こう、ヤマト」
黄泉が立ち上がる。
先程までの柔らかい空気は消えていた。
「仰せのままに」
ヤマトは頭を下げ、その後ろを歩く。
ふと。
振り返る。
遠くで虫を探しながら、楽しそうに笑うなゆたの姿が見えた。
その笑顔を見た瞬間。
胸の奥が、
妙にざわついた。
ここまで見て下さりありがとうございます。
昔のヤマトはクソガキだなって思ったんですけど今も十分、クソガキでした。




