呼ぶ声
目を覚まし、ヤマトの元へ。だが、すれ違う2人。
外に出て出会った人物とは———
誰かの泣き声。
赤い空。
黒く、
巨大な霧。
そして。
笑う誰か。
伸ばされた手。
届かない声。
——そこで。
なゆたは目を覚ました。
「……っ」
息を吸う。
見慣れた天井。
自分の部屋だった。
額に嫌な汗が滲んでいる。
「……あれは」
ぼんやり呟く。
「あれは誰だったんだろ……」
胸がざわつく。
思い出せそうで。
でも。
思い出してはいけないような。
そんな感覚。
窓から風が入り込み、カーテンが揺れる。
なゆたはゆっくり身体を起こす。
頭が重い。
けれど。
部屋にいる方が、息苦しかった。
音を立てないよう、静かに部屋を出る。
階段へ近づくと、下から話し声が聞こえた。
「俺は……」
ヤマトの声。
低く。
苦しそうな声。
「守ってるつもりだった」
なゆたの足が止まる。
「でも、本当に守れてたのかは……」
その先は聞こえなかった。
静寂。
なゆたはじっと階段を見る。
(守ってくれてたのに)
胸が痛む。
(“つもり”って何……)
むしろ。
守られてばかりなのは、自分の方なのに。
何も言えなくなる。
階段を下りることができなかった。
そっと踵を返す。
誰にも気づかれないように。
静かに。
自室へ戻った。
部屋へ入ると。
机の上に置かれた、割れたお面が目に入る。
ひび割れた黒い面。
妖気を抑えるためのもの。
なゆたはそれを手に取る。
(……これ、もう使えない)
小さく息を吐く。
それでも。
そっと顔へ付けた。
ひび割れた面越しに、空を見る。
星が散る夜、
綺麗で輝いていた。
なのに。
胸の奥だけが、酷く苦しかった。
——呼ばれた気がした。
なゆたの目が僅かに揺れる。
理由はわからない。
でも。
外へ行かなければいけない。
そんな感覚だけがあった。
次の瞬間。
なゆたの姿は消えていた。
数分後。
「ヒメー?」
ニコの声が部屋へ響く。
「入るわよー」
扉を開ける。
だが。
そこにいたのは、風に揺れるカーテンだけだった。
「……え?」
ニコの顔色が変わる。
部屋を見回す。
ベッド。
机。
でも。
「誰も……いない……?」
次の瞬間。
ドタドタと勢いよく階段を駆け下りる。
「ヤマト!!」
店内に飛び込む。ヤマトが顔を上げた。
「おい、ニコ。うるさいぞ」
「それどころじゃないのよ!!」
ニコの声が震える。
「ヒメが……なゆたが居ない!!」
一瞬。
時間が止まった。
ヤマトの表情が固まる。
次の瞬間。
椅子が倒れる音。考えるより先に、ヤマトは外へ飛び出していた。
「ちょ、ヤマト!」
「ニコ、俺たちも行くぞ」
サクヤが冷静に立ち上がる。
「あ、ちょっと待ってよ!!サクヤ!!」
二人も慌てて後を追った。
森の中。
木々が生い茂る深い森。
探すには広すぎる。
ヤマトは荒く息を吐く。
「クソ……!」
いつもなら。
なゆたの妖気を辿れば見つけられる。
だが。
今は感じない。
ヤマトが顔を上げる。
「……まさか」
嫌な予感が走る。
「お面を付けてるのか」
悪い勘ほど、よく当たる。
ヤマトが拳を握る。
「ヤマト、カラスを使う」
サクヤが静かに印を切る。
「迂闊に走るのはやめろ」
「分かってっけど!!」
ヤマトの声には焦りが滲んでいた。
「今のあいつを、一人にしちゃ駄目なんだよ……!」
呼吸が乱れる。
「あの状態でどっか行かれたら……」
拳が震える。
「それこそ本当に、帰ってこなくなる」
ニコが唇を噛む。
その時。
一羽のカラスが、サクヤの肩へ降り立った。
サクヤの目が細くなる。
「……見つかったみたいだ」
◇◆◇◆
葉と葉が擦れる音。
風の音。
鳥の羽ばたき。
全てが、直接耳へ入り込んでくる。
なぜ外へ出たのか、自分でもわからない。
ただ。
呼ばれた気がした。
なゆたは足を止める。
木漏れ日の中。
そこに。
一人の青年が立っていた。
銀色の髪。
穏やかな笑み。
なゆたは目を細める。
「……誰?」
青年は小さく笑った。
「やぁ、こんばんは」
優しい声。
「今日はとても綺麗な月だね」
その瞬間。
胸の奥がざわつく。
知らないはずなのに。
懐かしい。
苦しい。
泣きたくなる。
そんな感情が込み上げる。
(……ボク)
なゆたは無意識に胸を押さえる。
(会ったこと、
ある気がする……?)
ここまで見て下さりありがとうございます。
新キャラです。誰でしょうね




