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仕える理由

眠るなゆた。

ヤマトはなゆたを見てなにを思ったのか———

静寂が店を包む。


さっきまで暴れていた妖気が、嘘みたいに消えていた。


残ったのは重たい空気だけ。


誰も口を開けない。


なゆたはヤマトの腕の中で、静かに眠っている。

苦しそうに眉を寄せたまま。


「なぁ」


沈黙を破ったのは、ヤマトだった。


低い声。

感情を押し殺した声。


「……あんた、もう帰ってくれ」


傍観者が視線を向ける。

ヤマトは真っ直ぐ見返した。


その目には先程までとは違う、静かな殺意が宿っていた。


「でないと」


ヤマトの拳が小さく震える。


「俺がお前を殺してしまいそうだ」


店内の空気が張り詰める。


ニコが小さく息を呑み、サクヤは静かに目を伏せた。


傍観者は数秒黙る。


そして。


ふっと息を吐いた。


「……わかりました」


ゆっくり立ち上がる。

そのまま、出口へ向かいながら口を開いた。


「祢々切丸の場所だけ、教えておきます」


ヤマトの目が鋭くなる。


「祢々切丸は」


傍観者は振り返らない。


「国の秘密政府——“特務退魔課”が保管しています」


静寂。


その言葉だけを残し。

傍観者は静かに店を出ていった。


カラン——


扉の音が、やけに大きく響く。

しばらく誰も動かなかった。


ヤマトは腕の中のなゆたを見る。


苦しそうな寝顔。


まるで。


今も何かと戦っているみたいだった。


「……今はヒメを寝かせた方がいいわ」


ニコが小さく呟く。


「あぁ……」


ヤマトは短く返事をし、なゆたを抱き上げる。


壊れ物みたいに。


大事そうに。


そのまま寝室へ向かおうとして。


ふと。


視線が止まった。


机の上。


飾られた写真立て。


笑うニコ。

呆れるサクヤ

隣で慌てるヤマト。


ただ無表情に見つめるなゆた。


ピンボケした、どこか楽しそうな一枚。

4人で笑い合う写真。


どれも。


大事そうに飾られていた。

ヤマトは静かに目を細める。


(……いつからだ)


いつから。

なゆたは笑わなくなった?


胸が痛む。


抱き抱える腕へ。無意識に力が入った。


寝室へ入る。


静かな部屋。


ヤマトはゆっくり、なゆたをベッドへ寝かせた。


銀髪が広がる。


眠っている顔は、年相応以上に幼い。


でも。


起きている時は、ずっと何かに耐えている顔をしていた。


ヤマトはそっと、その髪へ触れ優しく撫でる。


「……なゆた様」


その呼び方が零れた瞬間。

自分で目を閉じた。


記憶を失ってから。

ずっと呼び捨てだった。

兄として振る舞うために。

兄でいるために。


そうし続けた。


なのに。


今。


無意識に昔の呼び方が出た。


まるで。


“護衛”へ戻ってしまったみたいに。

ヤマトは苦しそうに眉を寄せる。


「……俺は」


掠れた声。


「貴女様に仕えてて、良いのだろうか」


偽物の兄。

刷り込まれた記憶。

本当のことを隠したまま。


自分は今も、隣に立っている。


「おやすみ、ヒ——」


そこで言葉が止まる。


ヤマトはゆっくり口を閉ざした。


そして。


小さく笑う。


泣きそうな顔で。


「……ごめんな」


その声は。


誰にも届かない。


静かな部屋へ、

消えていった。

ここまで見て下さりありがとうございます。


兄じゃないのに兄として振る舞うヤマトが1番強いぞ…

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