異界の夜
「なゆた」
ニコの声は、ほんの少しだけ低かった。
「あのタヌキ、なにか変よ」
━やっぱり
窓の外でカラスが鳴き、窓を開けた。
サクヤの肩に止まると、ただ一言。
「…そうか」
「ただのタヌキじゃない。術がかかってる」
(この感じ…嫌な記憶を思い出す)
「なぁ、客…さっきまでいたよな?」
ヤマトの声が低くなる。
辺りを見渡すと
━誰もいない
ヤマトは姿勢を下げ、辺りを見渡す。
その瞬間、視界が歪む。
人の輪郭は崩れ、笑っていた顔が裂ける。
━異界が現れた
音が消える。
いや、違う。
“音が遠くなった”ような感覚。
足元がわずかに沈む。
空気が重い。
(……閉じられた)
なゆたはゆっくりと息を吐いた。
━世界が、塗り変わる。
「お出ましってわけね」
空間を裂くように、大鎌を引き抜く。
ほか3人も空間から武器を出し戦闘態勢に入った。
「来るぞ」
サクヤの声が落ちる。
次の瞬間、
息を吸いこむ。
一歩で距離を潰す。
武器を振りかざし異型を切る。
だが。
刃が、わずかに鈍る。
(……重い?)
その瞬間、よろけた。
━呼吸が乱れる。
黒い霧がわずかに溢れ出た。
「なゆた!」
ヤマトの声が響き、強くなゆたの手を掴む
呼吸は戻り、残りの異型も倒す。
静寂が戻る。
だが——
(……消えない)
黒い霧が、完全には収まらなかった。
倒れたタヌキの体。
その皮膚の下で、何かが蠢く。
サクヤがしゃがみ込み、指でなぞる。
「……これ」
浮かび上がる、見慣れない術式。
「…人間の術だな」
その一言で空気は凍る
「殺したのは間違いだったか。祢々切丸に繋がってるな…」
立ち尽くす4人を窓の外から眺める人物。
「見つけた」
その声は、誰にも届かない。
だが——
その目線は、まっすぐなゆたを捉えていた。
━逃がさない、とでも言うように




