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暴走じゃない意思

大鎌使いのなゆたが出した別の武器とは———

「もう壊れてるのかもね」


なゆたが小さく笑う。


その瞬間だった。


狐火が音を立て、大きく揺れ上がる。

赤い炎が、まるで警告するように燃え盛った。


同時に。

なゆたの足元から、黒い霧がじわりと漏れ出す。


空気が重くなる。


ヤマトの目が見開かれた。


「なゆた——」


止めるより早かった。


ヒュッと音を出し、風が裂ける。


次の瞬間。


なゆたは、傍観者の懐へ入り込んでいた。


「……っ」


傍観者の目が、初めて大きく揺れる。


速い。

見えなかった。


気づいた時には、鋭い短剣が喉元へ突きつけられていた。


あと数センチ。


少しでも動けば、そのまま喉を裂かれる距離。


店内が静まり返る。


ニコが息を呑み、サクヤの目も鋭くなる。

ヤマトだけが、苦しそうに眉を顰めていた。


「……へぇ」


傍観者が小さく笑う。


だが。


その額には、薄く汗が滲んでいた。


「あなた、使ってる武器は大鎌じゃなかったんですか?」


なゆたの手にあるのは、漆黒の短剣。


細い刃。


殺すためだけに存在するような武器。


なゆたは瞬きすらしない。

金色の瞳が、真っ直ぐ傍観者だけを捉えている。


「普段は、ね……」


静かな声。


「ボクは色々な武器を使う」


短剣が、さらに僅かに押し込まれる。

皮膚に赤い線が浮かぶ。


「主に使うのが、大鎌ってだけ」


傍観者は動かない。


いや。


動けない。


少しでも刺激すれば…目の前の半妖は、本当に迷わず刺す。


そう理解したから。


黒い霧が、なゆたの周囲で揺れている。

狐火も、呼応するように燃え上がっていた。


赤と黒。


混ざり合う妖気が、店内を圧迫する。


「祢々切丸の在処を教えて」


なゆたの声は低い。

感情が薄い。


だからこそ。

余計に怖い。


「知らない」

「教えられない」

「そう言うのであれば——」


短剣が、喉へぴたりと触れる。


「ボクは迷わず君を殺す」


静寂。


誰も動けない。


傍観者は、なゆたを見つめていた。


金色の瞳。


そこには。


怒りも。

憎しみも。

狂気すらない。


ただ。


“覚悟”だけがあった。


その事実に。

傍観者は、初めて寒気を覚える。


(……危険だ)


思っていた以上に。


壊れている。


そして。


壊れたまま、進もうとしている。


ヤマトが一歩前へ出る。


「なゆた!!」


初めて。


その声に焦りが混ざった。

なゆたの肩が、ぴくりと揺れる。


けれど。


短剣は下がらない。

ヤマトは拳を握る。


違う。


これは暴走じゃない。

なゆた自身の意思だ。


だからこそ。


止める言葉が見つからない。


サクヤが静かに口を開く。


「なゆた」


低い声。


落ち着かせるように。


「ここはバーだ」


その一言に。


なゆたの瞳が、ほんの少しだけ揺れた。


バー。


帰る場所。


4人の日常。


その言葉が、僅かに理性を引き戻す。

傍観者はその隙を見逃さなかった。


「……祢々切丸の場所は知っています」


全員の空気が止まる。


なゆたの目が細くなる。


「でも」


傍観者は、喉元の短剣を見つめた。


「教えれば、貴方はもっと壊れる」


静かな声。


その言葉に。


なゆたの黒い霧が、

再び大きく揺れた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

この傍観者、壊れるしか言ってないですね

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