金色の瞳
狐火が揺れる店内。
なゆたが発したのは──
「危ういですね」
傍観者の静かな声が、店内へ落ちる。
その一言が。
鋭く、胸へ突き刺さった。
ヤマトが勢いよく立ち上がる。
「てめぇ……」
カウンター越しに、傍観者の肩を掴む。
睨みつける目には、隠しきれない怒気が宿っていた。
「そんな怖い顔しないでくださいよ」
傍観者は動じない。
むしろ、少し楽しそうに笑う。
そして。
ゆっくり、なゆたへ視線を向けた。
「でも事実じゃないですか」
「死に急ぎたいみてぇだな……」
ヤマトの声が低くなる。
空気が張り詰める。
その時。
「ヤマト」
静かな声。
ヤマトの服の裾が、小さく引かれた。
振り返ると、なゆたが静かに立っていた。
「なゆた……」
なゆたは俯いたまま、裾を掴んでいる。
けれど。
その指先がゆっくり動き。
そっと。
ヤマトの手を握ぎ、
びくりと、ヤマトの肩が揺れる。
熱くなっていた怒りが、一瞬だけ止まった。
なゆたの手は、少し冷たかった。
でも。
離さない。
まるで。
縋るみたいに。
「そう」
ぽつりと。
小さく呟く。
「ボクは今、とても危ない」
ニコが息を呑む。
サクヤも、静かになゆたを見つめていた。
なゆたは続ける。
「3人に助けられてばっかで」
「いつも迷惑かけてる」
ヤマトの手を握る力が、少しだけ強くなる。
悔しそうに。
でも。
どこか決意したように。
「だから」
なゆたは顔を上げる。
金色の瞳が、真っ直ぐ傍観者を射抜いた。
「祢々切丸の在処を教えて」
静寂。
空気が止まる。
傍観者は、思わず目を見開いた。
その瞳。
揺るがない意思。
王家の血を宿した、
金色。
まるで、何かを覚悟した者の目だった。
ヤマトは言葉を失う。
止めなければ。
そう思うのに。
なゆたの手が、離れない。
その小さな温度が。
「行く」
という覚悟を、何より強く伝えていた。
ニコも、サクヤも同じだった。
なゆたが。
初めて。
自分から前へ進もうとしている。
その姿が、痛いほど伝わってくる。
傍観者は数秒黙る。
そして。
ふっと笑った。
「……なるほど」
グラスを揺らす。
赤いネグローニが、静かに波打った。
「だから貴方は危うい」
「自分を壊してでも、進もうとする」
「まるで——」
その瞬間。
狐火が大きく揺れた。
赤い炎が、威嚇するように燃え上がる。
サクヤの目が鋭くなる。
(……結界が反応してる)
傍観者も、流石に異変へ気づいた。
「……?」
初めて、眉が僅かに動く。
空気が変わっている。
見えない何かが、自分を拒絶していた。
だが、原因まではわからない。
ただの人間である彼には、白夜の術を見ることができない。
「……なんです?」
傍観者が周囲を見渡す。
ヤマトが舌打ちした。
「知らねぇよ」
だが。
サクヤだけは理解していた。
これは。
白夜の結界だ。
“危険”へ反応している。
つまり。
目の前の男は。
それほど危険だということ。
傍観者は再び、なゆたを見る。
その目だけが、少し変わっていた。
観察する目。
試す目。
そして。
興味を持った目。
「祢々切丸ですか」
小さく呟く。
「……もし教えたら」
「貴方はそこへ行くんですか?」
「行く」
即答だった。
迷いはない。
傍観者は静かに笑う。
「本当に、壊れそうですね」
その言葉に。
なゆたは初めて、小さく笑った。
どこか寂しそうに。
「もう壊れてるのかもね」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
なゆたが…笑った…




