ネグローニ
ネグローニの意味とは
「……今日はって……」
ニコが眉を顰める。
傍観者は答えない。
ただ静かに、カウンターへ肘をついていた。
店内の空気が重い。
ヤマトは露骨に警戒し、サクヤも視線を逸らさない。
なゆたは、じっと傍観者を見ていた。
穏やかに笑っている。
なのに。
何故か寒気がした。
その時。
なゆたは静かに立ち上がる。
「お待たせしました」
全員の視線が向く。
いつの間にか、なゆたの手にはグラスがあった。
赤い液体が、静かに揺れている。
「今日のオススメは……」
なゆたは冷たい視線を向けた。
「ネグローニです」
ヤマトが目を見開く。
「いつ作って……」
気づかなかった。
なゆたが動いたことすら。
傍観者は少しだけ目を細める。
「……へぇ」
グラスを受け取り、ゆっくり口をつけた。
氷が静かに鳴る。
数秒の沈黙。
そして。
傍観者は小さく笑った。
「美味しいですね」
赤い液体を揺らしながら、ぽつりと呟く。
「甘いけど、奥から伝わる苦味」
その目が、なゆたを見る。
「まるで今を表してるみたいだ」
ヤマトの目が鋭くなる。
「……何が言いたい」
低い声。
傍観者は肩を竦めた。
「別に?」
グラスを傾ける。
赤が揺れる。
「ただ、壊れる時って案外静かだなと思いまして」
その言葉に空気が、ひやりと冷えた。
ニコが小さく舌打ちする。
「縁起でもないこと言わないで」
「でも事実でしょう?」
傍観者は穏やかに笑う。
「人も」
「関係も」
「日常も」
「壊れる時は一瞬です」
その瞬間。
カウンターの端で、狐火が揺れた。
まるで警戒するように。
サクヤの目が細くなる。
(……反応が強くなってる)
白夜の術。
朝より明らかに、妖気がざわついていた。
傍観者は気づかない。
ただ静かに、グラスを見つめている。
なゆたは無言だった。
でも。
指先だけが、僅かに震えている。
“壊れる”
その言葉が胸の奥へ、妙に刺さった。
まるで。
自分へ言われているみたいで。
「……なゆた」
サクヤが小さく呼ぶ。
なゆたはハッとした。
「え?」
「顔色悪いぞ」
「……大丈夫」
嘘だった。
胸がざわつく。記憶の奥が、何かを訴えてくる。
赤。
血。
泣き声。
兄。
頭痛が走る。
その瞬間。
コン。
小さな音が響いた。傍観者が、グラスを置いた音だった。
「……?」
傍観者の目が細くなる。
今。
一瞬だけ。
なゆたから妙な妖気が漏れた。ほんの僅か。
だが。
確かに。
それを見た瞬間。
カウンターの狐火が、強く揺れ上がる。
赤い炎が、まるで威嚇するように。
サクヤが立ち上がる。
「なゆた」
空気が変わる。
まずい。
そう思った瞬間。
傍観者はふっと笑った。
「……なるほど」
静かな声。
その目が、真っ直ぐなゆたを見る。
「貴方」
「思っていた以上に危ういんですね」
ここまで見てくださりありがとうございます。
これからこの小説は、カクテルが沢山出てきます。
カクテル言葉に繋がります。




