狐火
店に現れた白夜。目的は何なのか。
そして、明かされるニコとサクヤ
「で、何しに来たのよ」
ニコが腕を組み、じっと白夜を睨む。
白夜は気にした様子もなく、カウンターへ頬杖をついた。
「お茶を貰いに来ただけや」
「絶対嘘でしょ」
「酷いなぁ」
ニコニコと笑う白夜に、ニコは露骨に嫌そうな顔をする。
なゆたは少し迷ったあと、キッチンへ向かった。
「……お茶淹れる」
「おい、マジで出すのか?」
ヤマトが呆れたように後を追う。
「なゆた」
「……お客さん」
短く返され、ヤマトは盛大に溜息を吐いた。
「お前なぁ……」
文句を言いながらも、結局は湯呑みを用意し始める。
その様子を見ながら、白夜はくすりと笑った。
「ほんま、家族みたいやなぁ」
「帰れ狐」
ヤマトが即答する。
「朝からそんな怖いこと言わんとってや」
白夜は肩を竦める。
そして。
ふと。
その黄色の目が、サクヤへ向いた。
「そういや」
軽い声。
なのに。
空気が少しだけ変わる。
「サクヤくんって、八咫烏の血ぃ入っとるんやっけ?」
サクヤの眉が、ぴくりと動いた。
「……それがどうした」
「いや別に?」
白夜は笑ったまま、視線を逸らさない。
その目は、まるで何かを確かめるみたいだった。
そして。
「ニコちゃんとは双子……やったっけ?」
静寂。
ニコの動きが止まる。
なゆたも、思わず顔を上げた。
ヤマトが眉を顰める。
「……は?」
白夜は、楽しそうに目を細めた。
「図星かいな」
ニコが小さく舌打ちする。
「……なんでそれを」
「なんとなく?」
「嘘つけ」
サクヤの声が低くなる。
白夜は笑うだけだった。
「種族は違うのに、妖気の流れが妙に似とる」
「顔立ちもなぁ」
「見とったらわかるわ」
その言葉に、ニコがわずかにサクヤの前へ出る。
庇うように。
「だから何よ」
少し強い声。
「私たちが双子だったら、何か問題ある?」
白夜は一瞬だけ目を細める。
その表情から、笑みが少し消えた。
「……別に」
ぽつりと呟く。
「ただ、珍しい思うただけや」
その声音だけ、ほんの少し静かだった。
冷たい空気が張り詰める。
サクヤも白夜を睨んでいた。
すると。
「はいお茶でーす」
ガタンッ。
わざとらしく、ヤマトが湯呑みを置く。
中身が跳ね、熱い茶が白夜の手へかかった。
「あっつ!!」
白夜が珍しく大きな声を出す。
「おい犬っころ!わざとにしてはちとやり過ぎとちゃう?!」
「いやいやいや?」
ヤマトは真顔で首を傾げる。
「ちょーーっと手が滑っただけだ」
「絶対嘘やろ」
「あ、そうだ」
ヤマトは顎へ手を当て、わざとらしく考える。
そして。
にやりと笑った。
「京都ではこういうんだっけ?」
「“ぶぶ漬けでもどうです?”」
数秒の沈黙。
白夜の耳がぴくりと動く。
「帰れって意味やろ?!」
「知ってんじゃねぇか」
「腹立つわこの犬っころ!!」
ニコが思わず吹き出した。
「ふふっ……!」
サクヤも、小さく口元を緩める。
なゆたは湯呑みを持ったまま、静かにその光景を見ていた。
騒がしい。
でも。
嫌じゃない。
白夜はぶつぶつ文句を言いながら、湯呑みへ口をつける。
その瞬間。
狐火が、ふわりと揺れた。
誰にも気づかれないほど、ほんの僅かに。
白夜の指先が、カウンターを軽く叩く。
コン。
小さな音。
その瞬間。
店全体へ、淡い妖気が広がった。
空気へ溶けるように。
見えない膜が、静かにバーを包み込む。
サクヤの目が細くなる。
(……術?)
空気の流れが、変わった。
ほんの僅か。
だが確かに。
白夜は何事もなかったように、お茶を啜る。
「ん〜……やっぱ人間界のお茶はええなぁ」
「話逸らすな」
サクヤが低く言う。
白夜は視線だけ向けた。
「なんのこと?」
「今、何をした」
数秒。
沈黙。
そして白夜は、
いつものように笑った。
「なんも?」
嘘だ。
サクヤは確信する。
だが。
それ以上、妙な敵意は感じなかった。
白夜は窓の外を見る。
朝の街。
揺れる人の気配。
その奥。
境界の歪み。
そして。
こちらを探るような、嫌な視線。
白夜の目が、一瞬だけ細くなる。
(……もう嗅ぎつけよったか)
だが次の瞬間には、いつもの笑みに戻っていた。
「まぁええやん」
白夜は頬杖をつく。
「今日は平和っちゅうことで」
ここまで見てくださりありがとうございます。
この回を知り合いに見せた時、クソでかい声で叫んでました




