壊れない日常
いつもの日常に戻った4人。
だが、それぞれ不安を抱え「普通の」生活を送る。
そこにやってきたのは⎯⎯⎯⎯
味噌汁の匂い。
窓から差し込む朝の光。
そして——
「きゃあああああ!!!!!」
響き渡る悲鳴。
「おはよう」
「おー、なゆた。おはよう。今日の味噌汁は豆腐とワカメだぞ」
「ちょっとヤマト!!!なんでパンイチなのよ!!」
ニコは素早くなゆたへ抱きつく。
視界を塞がれたなゆたが、小さく抵抗した。
「むぐ……ニコ、前見えない」
「見なくていいの!」
「いいじゃねぇか。なんか問題でもあんのかよ」
「問題しかないわよ!汚い!!」
「汚いってなんだよ!?汚いって!」
ヤマトが不満げに眉を顰める。
ニコは顔を真っ赤にして、なゆたを隠すように抱き締めた。
「サクヤぁぁ!!なんとか言って!」
「服を着ろ」
キッチンから、サクヤが静かに顔を出す。
即答だった。
「お前まで!?」
「当然だ」
「理不尽!」
ヤマトが騒ぎながら部屋へ戻っていく。
ニコは深いため息を吐いた。
「まったくもう……」
「朝から元気だね」
なゆたがぽつりと呟く。ニコは少しだけ目を丸くした。
「……ヒメ、ちょっと笑った?」
「え」
自覚はなかった。
でも。
頬が少しだけ緩んでいた気がする。
その瞬間。
胸の奥の重さが、少しだけ薄れた気がした。
なゆたは、そっと自分の顔へ触れる。
今日は鬼面を付けていない。
ひび割れた面は、机の上へ置かれている。
指先で、何もない頬をなぞった。
「どうした、なゆた」
ヤマトが服を着ながら戻ってくる。
「……ううん」
なゆたは小さく首を振った。
「なんでもない。お腹空いた」
「飯にするか!」
ヤマトはいつもの顔で笑う。
「ご飯盛り付けてくれ」
「了解」
キッチンから味噌汁の湯気が立ち上る。
いつもの朝。
いつもの日常。
そう見える。
でも。
誰も本当は、安心なんてしていなかった。
なゆたは、
また暴走するかもしれない恐怖を抱えている。
ヤマトは、
操られ仲間へ剣を向けた感触を忘れられない。
ニコは、
なゆたがいつ壊れてしまうのか不安だった。
サクヤは、
この日常がまた崩れる未来を恐れている。
だから全員、見て見ぬふりをした。
普通を演じる。
壊れていないふりをする。
それが今、唯一できることだった。
「ほら、なゆた」
サクヤが茶碗を差し出す。
「ありがと」
「今日の担当ってヤマト?味噌汁濃くない?」
「普通だよ」
「いや絶対濃いって」
「お前が薄味なだけだろ」
「サクヤは!?」
「普通だな」
「裏切り者ぉ!」
騒がしい声が部屋へ響く。
その空気が、少しだけ心地よかった。
この時間が、ずっと続けばいい。
誰も口にはしない。
でも。
全員、そう思っていた。
その時だった。
カラン。
1階から、バーの扉が開く音が響く。
全員の動きが止まる。
朝早い時間だ。
客にしては早すぎる。
ヤマトの目が鋭くなる。
サクヤも静かに視線を向けた。
ニコが小さく眉を顰める。
なゆたは、無意識に鬼面へ視線を向けた。
そして。
下の階から、聞き慣れた声が響く。
「お茶くださいな」
沈黙。
数秒遅れて。
「……は?」
ニコが素っ頓狂な声を出した。
ヤマトが盛大に舌打ちする。
「なんでいるんだよ狐」
4人が1階へ降りると。
そこには、カウンター席へ当然のように座る白夜の姿があった。
狐火を指先で揺らしながら、機嫌良さそうに笑っている。
「そんな怖い顔せんとってや、ニコちゃん」
「なんでアンタがここにいるのよ!」
「人間界来たら、まずここかなぁ思って」
「帰れ」
ヤマトが即答する。
白夜は肩を竦めた。
「朝から殺気立っとるなぁ」
そう笑いながら。
黄色の目が、そっとなゆたを見る。
鬼面のない顔。
少しだけ柔らかくなった表情。
それを見た白夜は、ほんの少しだけ目を細めた。
まるで。
安心したみたいに。
ここまで見て下さりありがとうございます。




