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傍観者、再び

人間界へ続く境界が、ゆっくり閉じていく。

揺れていた光が消え、赤い空だけが残った。


静寂。


白夜は、閉じた境界をしばらく見つめていた。

狐火が、その周囲をゆらゆら漂っている。


「またね、か…」

「……ほんま、変わってしもたなぁ」


ぽつりと零す。


昔の面影を残したまま。


それでも、もう戻れないほど遠い。


白夜は小さく笑った。


寂しそうに。


「……さーて」


その瞬間。

空気が変わる。


狐火が、一斉に揺れた。

白夜は振り返らないまま、口を開く。


「そこに隠れとるんやろ」


沈黙。


やがて。


物陰から、一人の男が姿を現した。


黒い外套。


細い目。


笑っているのに、どこか温度がない。


白夜はその姿を見て、口角を上げる。


「なんや、人間かと思っとったけど」

「ただの人間ってわけでもなさそうやなぁ」


男は軽く笑った。


「バレていましたか」


「九尾を舐めたらあかんで」


狐火が、男を囲むように漂う。


威圧。


だが男は動じない。

むしろ楽しそうだった。


「初めまして」

「“傍観者”とでも呼んでください」


「変わった名前やなぁ」


「本名に価値はありませんので」


白夜は、少しだけ目を細めた。


胡散臭い。


そのくせ、


妙に底が見えない。


「それで?」

「わざわざ隠れて何見とったん」


傍観者は、閉じた境界へ視線を向ける。


「あの忌み子達ですよ」


その瞬間。


白夜の耳が、わずかに動いた。


「……へぇ」


笑っている。


なのに。


空気が少し冷えた。

傍観者は気づかないまま続ける。


「特に、王家の血を引くあの忌み子」


忌み子。


その言葉に、狐火が揺れた。

白夜の笑みが、ほんの少しだけ深くなる。


「忌み子、ねぇ」


低い声。


「半妖を止めるって……可笑しなこと言いはるわ」


圧。


まるで。


“言い直せ”


そう告げるみたいに。


傍観者は一瞬だけ黙る。


だが。


すぐに笑った。


「失礼しました。ですが危険なのは事実でしょう?」

「暴走しかけていた」

「あの力はいずれ境界を壊す」


白夜は何も言わない。

ただ狐火だけが、静かに揺れている。

傍観者は、ゆっくり白夜へ近づいた。


「だからこそ」

「僕と組みませんか?」


「組む?」


「えぇ」


傍観者は、境界の前へ立つ。

閉じた扉へ触れるように手を伸ばした。


「貴方と僕で、あの忌み子達を止めるんです」


沈黙。


風が吹く。


赤い空の下、狐火だけが揺れていた。

白夜は少し考えるように目を伏せる。


脳裏に浮かぶ。


黒い鬼面。


不安定な妖気。


“白夜”


そう呼んだ声。


昔みたいに。


一瞬だけ。


本当に一瞬だけ。


白夜の表情から、笑みが消えた。


だが。


次の瞬間には、いつものように口角が上がる。


「……そうやなぁ」


狐火が、ふわりと浮かぶ。


「そりゃあ、おもろいわ」


傍観者が笑う。


「では、協力していただけるということで」


白夜は何も答えない。


ただ。


楽しそうに笑っていた。


その目だけが。


少しも、

笑っていなかった。

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