黒鎧
黒鎧が、一直線になゆたへ迫る。
地面が砕ける。
重い。
ただ走っているだけなのに、
圧力が異常だった。
「っ——!」
なゆたは大鎌を構える。
次の瞬間。
轟音。
大鎌とハンマーが激突し、衝撃が周囲を吹き飛ばした。
「……っ!」
なゆたの足が地面を滑る。
重い。
今までの妖怪とは、格が違う。
黒鎧は一言も発しない。
感情も、殺気すら感じない。
ただ。
“敵を排除する”
それだけで動いているようだった。
「なゆた!」
ヤマトが横から飛び込む。
巨大な大剣を振り抜く。
黒鎧が初めて後退した。
だが。
「硬っ……!」
ヤマトが顔を顰める。
刃が浅い。
鎧が異常なほど硬い。
「ただの妖怪じゃないな」
サクヤが槍を構える。
鋭い視線が、黒鎧を貫く。
「妖気が混ざりすぎてる」
ニコが低く舌打ちした。
「気持ち悪いわね」
黒鎧は、ゆっくり顔を上げる。
赤い目。
その奥には、何もない。
すると。
周囲の妖怪達が、一斉に頭を下げた。
怯えるように。
避けるように。
「……嫌われてるのか」
ヤマトが呟く。
九尾の狐火が、静かに揺れた。
「そいつは操られとんな」
空気が止まる。
「……誰に」
ニコが眉を寄せる。
九尾の声が低く落ちた。
「さぁ?そこまでは知らん」
黒鎧が、ゆっくりハンマーを持ち上げる。
その刀身には、乾いた血がこびりついていた。
「人間が操っとる。これは確かや」
「今は理性もほとんど残っとらん」
「……化け物じゃねぇか」
ヤマトが吐き捨てる。
「せやから皆恐れとる」
狐火が揺れる。
「今の国は、こういう連中が増えた」
なゆたは、黒鎧を見つめていた。
鬼面の奥。
静かな視線。
ふと、そう思った。
力を抑え込めず、妖気に呑まれていく姿。
まるで。
未来の自分を見るようだった。
その瞬間。
黒鎧が消えた。
「な——」
次の瞬間には、なゆたの目の前。
振り下ろされるハンマー。
「…」
大鎌で受け止める。
衝撃。
地面が砕けた。
黒い霧が、一気に溢れる。
「なゆた!!」
ヤマトが飛び込もうとする。
だが。
黒鎧の赤い目が、わずかになゆたを見開いた。
動きが止まる。
「……?」
なゆたも目を細める。
その時だった。
黒鎧の口から、掠れた声が漏れる。
「……王、の……血……」
空気が止まる。
次の瞬間。
黒鎧が、突然苦しみ始めた。
頭を押さえ、暴れ出す。
妖気が制御を失い、
周囲を破壊していく。
「な、何!?」
ニコが後退る。
サクヤの目が細くなる。
「……反応してる」
「なゆたの妖気に」
九尾の狐火が、
静かに揺れた。
「……そういうことか」
低い声。
どこか納得したような響き。
ヤマトが睨む。
「何かわかったのか」
九尾は少しだけ間を置き、
静かに言った。
「そいつ、元は王家側の護衛や」
沈黙。
「王の血に逆らえへん」
黒鎧は、苦しみながらも、
なゆたから目を離さない。
まるで。
命令を待つように。
「……冗談だろ」
ヤマトが顔を歪める。
九尾は続けた。
「昔の妖怪は、王家に絶対服従するよう作られとった」
「でも王が消えて、命令する存在がおらんくなった」
狐火が揺れる。
「結果、壊れた」
黒鎧が咆哮する。
妖気が暴走し、地面を砕く。
だが。
なゆたが一歩前へ出ると、動きが止まった。
赤い目が、静かになゆたを見る。
その姿に。
周囲の妖怪達が、ざわめいた。
「……おい」
ヤマトが低く呟く。
「まさか」
なゆた自身も、理解できていなかった。
ただ。
胸の奥で、何かが反応している。
黒い霧が、静かに揺れる。
すると。
黒鎧が、ゆっくり膝をついた。
巨大な大剣を地面へ刺し、頭を垂れる。
まるで、
王へ忠誠を誓うように。




