王を望まぬ者
九尾はどうして攻撃をしたのか。
お楽しみに
赤い空の下。
重苦しい妖気が、大地そのものを覆っていた。
遠くに見える巨大な城。
その周囲だけ、空気が歪んで見える。
「……息苦し」
ニコが眉を顰める。
「妖気が濃すぎる」
「長時間いると感覚が狂う」
サクヤが静かに言った。
ヤマトは周囲を睨みながら、大剣を肩へ担ぐ。
「で?」
視線は狐火へ向く。
「いつまで隠れてんだ、九尾」
狐火が、ゆらりと揺れた。
「隠れてるわけやない」
「今の俺は、簡単に動けへんのや」
「信用できないわね」
ニコが即答する。
「せやろなぁ」
九尾は否定しなかった。
その声音は、妙に静かだった。
なゆたは、黙ったまま城を見ていた。
胸の奥がざわつく。
懐かしい。
嫌悪。
恐怖。
全部が混ざって押し寄せる。
「……祢々切丸」
その名を口にした瞬間。
狐火の揺れが、ぴたりと止まった。
「それを探しに来た言うたな」
九尾の声が低くなる。
「そうだよ」
なゆたは視線を逸らさない。
「祢々切丸はどこにある」
数秒の沈黙。
そして。
九尾は、小さく笑った。
「……なんや」
「ほんまに知らんのか」
ヤマトが眉を顰める。
「何がだ」
狐火が、ゆっくり揺れる。
「俺はてっきり、王座を奪りに来たんやと思っとった」
空気が止まる。
「……は?」
ニコが声を漏らした。
サクヤも目を細める。
「王座?」
九尾は笑う。
だが、
その笑みはどこか苦かった。
「王の血を引く半妖が戻ってくる」
「そんなもん、誰でも警戒するやろ」
「……待って」
ニコが眉を寄せる。
「あんた、ずっとそれで敵対してたの?」
「せや」
あっさりと答える。
「お前らが来たって聞いた時、全部始まった思うた」
九尾の気配が、わずかに揺れた。
「……また、奪われるんやってな」
その言葉に、なゆたは小さく目を細めた。
「ボクは王なんか興味ない」
静かな声。
だが、はっきりと言い切った。
「祢々切丸を探してるだけだ」
狐火が止まる。
沈黙。
長い沈黙。
「……本気で言うてるんか」
九尾の声が、初めて揺れた。
「そんなもんに興味ない」
なゆたは、城を見たまま言う。
「欲しいとも思わない」
「……っ」
狐火が、わずかに乱れる。
九尾の中で、何かが崩れたようだった。
「じゃあ、なんで戻ってきた」
その問いは、責める声ではなかった。
どこか、理解できないものを見るような声。
なゆたは、静かに答える。
「知りたいから」
黒い霧が、わずかに揺れる。
「ボクが何なのか」
「祢々切丸が何なのか」
「全部」
九尾は、何も言わなかった。
ただ、狐火だけが静かに揺れている。
その時。
ヤマトが低く口を開く。
「で?」
「祢々切丸はどこだ」
九尾は、ゆっくりと答えた。
「……もう、この国には無い」
空気が止まる。
「何?」
サクヤの目が細くなる。
「どういうことだ」
「何年か前に消えた」
九尾の声は低い。
「盗まれたんや」
「誰に」
その問いに、狐火が、ゆらりと揺れる。
「人間や」
沈黙。
ニコが息を呑む。
「……は?」
「そんなこと、ありえるの?」
「普通なら無理や」
九尾は続ける。
「せやけど、あの時からおかしくなった」
遠くの城を見上げる。
「王が消え」
「祢々切丸が消え」
「国が壊れ始めた」
その声には、疲れが滲んでいた。
「だからあんた、力で抑え込んでるのね」
ニコが呟く。九尾は否定しない。
「従わせな、この国はとっくに終わってる」
「だから操る?」
ヤマトが睨む。
「綺麗事だけじゃ、守れへん時もある」
低い声。
そこには、以前のような余裕は無かった。
なゆたは、狐火を見つめる。
(……こいつ)
敵のはずなのに。どこか、必死だった。
その時。
ドクン——
胸の奥が、嫌な音を立てた。
「っ……」
なゆたが顔を歪める。
黒い霧が、わずかに漏れ出した。
ヤマトがすぐ隣へ来る。
「大丈夫か」
自然な動き。
自然な声。
なゆたは、少しだけ目を伏せた。
「…うん」
表情は変わらないのにどこか安心した顔。
九尾の狐火が、静かに揺れた。
「……ほんま変わったな、お前」
小さく落ちる声。
昔のなゆたは、もっと笑っていた。
今は違う。
孤独に怯えながらも前を向こうとしている。
九尾は、それを複雑な感情で見つめていた。
その時。
遠くの森から、無数の妖気が立ち上がる。
サクヤが槍を構えた。
「……囲まれた」
赤い目が、闇の中で光る。
妖怪達だった。
数十。
いや、
百近い。
「歓迎って感じじゃねぇな」
ヤマトが大剣を抜く。
重い金属音。
ニコの爪が伸びる。
サクヤも槍を構えた。
その中で。
狐火だけが、静かに揺れる。
「……逃げるか」
九尾が言った。
「それとも、
王の国で戦うか」
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