酒田という男
店が開く。
大きな笑い声。
「沢山の酒を飲んできたがここの店は断トツで美味い!」
「まじっすか?いやぁ、お義父さんにそう言ってもらえると嬉しいっすわ!」
目の前にはヤマト。グラスを拭きながら酒田の話しを聞く。
「リンネがうちに来た時、今よりもっと表情が無くてだな…」
「へぇー!どんな子だったんすか?」
「ねぇ、ボクの話しはしなくていいでしょ…」
「何言っておる!こいつはお前の彼氏なんだろう?お前のことを知っとくのも彼氏の役目というもんだろうが!」
「そうだぞリンネ。お義父さんの言う通りだ」
息ぴったりの2人にリンネは席を離れる。座ったのはいつもの場所。そこにはサクヤがいた。
「離れていいのか?」
「うるさいし鬱陶しいし…連れてくるんじゃなかった…」
「リンネがそこまで感情を出すとはまた珍しいな」
カクテルを出す。リンネは1口飲み、息を吐く。
「今日、あの人と歩いてたらニコと白夜に会ったんだよね。2人で一緒にいたから買い物なのかな」
「あぁ。俺から白夜に乗り換えたらしい。俺はそっちの方が助かるけどな」
「そうなんだ」
チラッと向くとまだ話している2人。
「別にボクの話しなんかしなくていいのに…」
「あの2人だからこそリンネの話しだろう。リンネにとっての父親と彼氏だから話せる内容だ」
「あの人はそんなんじゃないよ。独りのボクに手を差し伸べた」
「けど、それはヤマトも一緒。似た者同士だね」
サクヤはふと笑う。
「知っているか?娘が連れてくる彼氏は父親に似ていると」
「…ヤマトあそこまでガタイデカくないよ」
「中身の話だ」
「似てるかな…?それより、ヤマトって力強いんだね」
それはそうだ。大剣を片手で振り回すに加え、同じ大剣を2つ持てるほどの力。
「よく筋トレをしているからな」
「体力テストの結果とか見てみたいよね」
「確かにな。今度、みんなでシャトルランでもしてみるか?」
「いいねそれ。やりたい」
時間が過ぎる。
「リンネ!お前はすーぐどこかに行く」
「子供じゃないんだからいいでしょ」
「良くない!俺にとってお前はまだまだ赤子みたいなもんだ!」
「はぁ…」
「ボク、ちょっと戻るよ…」
「む、無理はするなよ…?」
サクヤが心配しながらリンネを見る。
「ヤマトが捕まっちゃって白夜と2人で回しているけど…本当によく飲むわね…あの人」
「もう何杯飲んだ…?普通なら絶対無理や」
「明日、買い出しね」
「ヤマトと行ってくるわ…」
酒田の様子を2人は見る。
ずっと口を開けて笑う酒田に心が緩む。
「酒田さん、そろそろ行こう。明日も仕事でしょ」
「おぉ、そうだったそうだった。楽しくてつい話し込んでしまったわ!」
「また来てくださいねお義父さん」
「ヤマトのお義父さん呼び何なの…」
「はっはっは!リンネのウエディング姿は楽しみだ!」
「酒田さん先に行ってて」
リンネは会計を終えた酒田を追い出しドアを閉める。
「リンネ…?」
ギュッとヤマトに抱きつきそっと離れる。
「ずっと隣にいたのに全然話せなかったから…寂しかった。それだけ」
「明日はボク1人で来るよ」
手を振りリンネも外に出る。
呆然とするヤマトの首を掴みキッチンに運ぶ。
「リンネちゃんが人前で抱きつくとか相当寂しい思いさせたとちゃうん」
「はぁ〜〜くっそ可愛い」
「聞いてへんこいつ…」
ニコが手を叩く。
「さ!まだ営業中よ!手を動かしなさい!手を!」
リンネと酒田は森の中を歩く。
「あれがお前の仲間か」
「そうだよ。どうだった?」
「全員強い。特にあのヤマトという男は化け物だ。俺の腕を軽々と退かしたからな」
先程までの大きな声は無く落ち着いた声。
「ヤマトは強いよ。ボクより強い」
「ところでなんで酒田なんだ?」
「君が"酒呑童子"だから。その名前の一部を取って酒田」
「仕事の話しも上司というのも息をするように嘘つきよって。だが、本当にそんな奴に育てた覚えはないぞ。なゆた」
リンネ─なゆたは笑う。
「大事な事だよ。守るためには付かなければいけない嘘もある。昔…」
「兄ちゃんがボクに兄だと嘘ついたみたいに」
2人は影に消える。




