朝帰り
味噌汁の匂い、炊きたてのご飯の匂い。
そっと目を開ける。
キッチンに立つリンネの姿。
「あ、おはようヤマト」
「リン、ネ…?おはよう…」
「そんなところで寝てたけど…ちゃんと寝れた?」
「え?あ、あぁ…」
机に食事を並べる。
「食べる?」
「うん」
味噌汁の匂いがそそられる。
手を伸ばし、リンネに抱きつく。
「なに?」
軽いキス。
「ありがとう」
「…どういたしまして」
座り、手を合わせる。
「いただきます」
1口啜る。
「うっま…リンネって可愛い上に料理まで出来んの?」
「そこ可愛いは必要あった…?まぁ、それとなくは作れるよ」
「けど、ヤマトのチャーハンまた食べたい」
「可愛いは必要だよ。そんなんいくらでも作るさ」
静かな空間に食器の音が響く。
「そろそろ帰らないとうるさいな…」
「帰るの…?」
「そんな顔するなよ。今日は店に来る?」
「予定があるから終わり次第かな…行けるようにはするよ」
「わかった。朝ごはんありがとうな」
ヤマトは靴を履きドアを開ける。
「ヤマト」
駆け寄り首に抱きつく。
「どうし───」
「愛してる」
そっと離れ、ドアが閉まる。
「……え、?」
思考が止まり顔が赤くなりしゃがみ込む。
「うわっ、まじかぁ…」
今まで言われ慣れてきた言葉。
なのに、
重みが違う。
しばらく固まり、動けない。
「…あー…やっばいわあれ…」
下がらない顔の熱を誤魔化すように立ち上がり、帰るべき場所に帰る。
「で、朝帰り?」
「ゲームが楽しくて」
玄関にはニコが立っていた。
「決してヤってはない!決してだ!!黄泉に誓える!!!!」
「まぁ、手出そうと私が首突っ込むことじゃないけど…その首隠しときなさいよ」
「首?」
慌てて洗面所に向かい鏡を見る。
そこには、
赤い痕。キスマーク。
指でなぞる。
「いつの間に…」
「帰ってきたところで悪いんだけど、買い物行ってきてちょうだい」
「あ、あぁ…」
隠す?この痕を?なんで?
「隠さなくてもいいじゃん別に」
部屋に戻り着替える。
「味噌汁、なんか懐かしい味だったな。まて、あれはどう考えも新婚…っ?!」
口元がニヤける。
下に降りると白夜に目が行く。
ヤマトに気づいたかのように嫌な顔をする。
「朝帰りとは大層な奴やな」
「羨ましがんなって。お前も行くの?」
「いーや、ちと用事あるから今日はサクヤくん」
「そうか」
「はぁ〜キスマ隠さへんとか中学生かよ」
「だから羨ましがんなって」
「羨ましがってへんわ!!ったく…」
白夜はいつもの調子だがどこか違う。
「なぁ、なんかソワソワしてね?」
「…そんなことあらへんで」
階段を降りる音。目を向けるとサクヤがいた。
「おかえり。さっそくで悪いが行こうか」
「ただいま。おー、じゃあ、行ってくるわ」
2人は玄関を出る。
「白夜どこ行くんだ?」
「ニコの買い物に付き合わされる。さすがに俺をこき使い過ぎたみたいで反省していた」
「こき使いすぎてた自覚はあるんだな…」
「白夜には悪いがしばらく付き合ってもらう」
ヤマトはパチクリと目を開く。
「サクヤがあいつのこと名前で呼ぶの珍しいな」
「呼べって言われたからな。それにあいつが来て随分と経つ。いつまでも他人行儀だと悪い気がするからな」
「へぇー…あいつの調子にはいつも助けられる」
「まったくだ」
賑わう街。
何も無い日常。
頭の中にいるリンネ。
「ヤマト」
名前を呼ばれ振り向く。
「少し、酒屋に寄って行きたい」
「もちろん」
平和は好き。
俺が俺で居られる。
だから、誰にも壊させない。




