静かな嫉妬
カランと扉が開く。
「いらっしゃいま…リンネちゃん?!」
そこにはリンネがいた。
「あれ?今日は来ないって…」
「時間空いたし暇だったから…迷惑だった?」
「ううん!むしろ嬉しいわ!」
「ヤマトはまだ寝込んでる?」
「もう元気よ。ヤマトー?ヤーマートー!!」
「んだようるさいな…」
めんどくさそうに厨房から出てくる。
「どうし…リンネ?!」
来ないと言われていた少女が立っている。
「体調は良くなった?」
ヤマトは手を伸ばす。あと少しで抱きつかれるところで、リンネはニコに抱き寄せられる。
「営業中よ。終わってからにしてちょうだい」
「ちょっとだけ…!ちょっとだけでも…!」
「ダメでーす」
「くっそぉ…!!!」
ヤマトは膝から崩れる。
客は何事かと思うようにヤマトに注目した。
「リンネちゃん、このバカほっといて行きましょ!何飲む?」
「カミカゼっていうカクテル」
「そんなカクテルもあるの?ほんと物知りね」
「物知り…ボクは、お酒のことしかわからない」
ニコは微笑む。そっと近づいてくるヤマトをノールックで止める。
「ニコさん?俺だってリンネと話したいんですが?」
「今日のあんたがリンネちゃんに近づいたら使い物にならないでしょう?昨日の分まで働くって約束よね?」
「……はい…」
あからさま悄げるヤマト。
「じゃあ、ヤマト。明日デートしよ」
「え?!するする!どこ行く?」
「内緒」
ヤマトは嬉しそうに笑いかける。
その笑顔でリンネは少し顔が緩む。
「ほんと、ヤマトには敵わないなぁ…」
「すみませーん、注文お願いしまーす」
「あ、はーい」
「じゃ、リンネ。話せる時にまた来るから」
手を振りその場を去る。
無意識に伸びる手。行き場の無い手は空を切る。
「…」
客と話すヤマト。
その相手は2人組の女性。
ただ、
グラスを持って、
ジッと
見つめるだけ。
次の瞬間、
ガシャンと大きな音。
ヤマトが慌てて音の方向を見るとリンネがグラスを落としていた。
「あ…ごめん…」
手のひらで掴むようにガラスの破片を拾う。
咄嗟にヤマトはリンネの傍に向かった。
「リンネ!大丈夫か?って血出てんじゃねーか!」
リンネの手を掴む。流れる血はヤマトの手も伝う。
「今、手当てするから」
「ごめん…グラスは弁償する」
「大丈夫だよ。それより怪我が優先だ」
救急箱を取り出し血を拭く。
「ガラスは…刺さってないな…」
手当て中、リンネは2人組の女性を見る。
「大丈夫か?グラスの割れる音がしたが…」
サクヤが出てくる。手当てされているリンネを見る。
「よし、絆創膏貼ったからこれで大丈夫だ。ボーッとしてた?」
「…うん」
「ヤマトさん!」
また呼ばれる。
「はーい」
振り向き行こうとするヤマトの裾を掴む。
「リンネ?」
「……なんもない。手当てありがとう」
「どういたしまして。すぐ来るから大丈夫だよ」
また遠くに行く。リンネは黙ってまた見つめる。
「リンネ」
ふと横を向く。
「ヤマトは彼女がいるって客に言いふらしてる。客にまでリンネの惚気を言う奴だ。心配することはない」
「そんなんじゃないよ。けど、ありがとう。今日は生チョコはないの?」
「そういえばまだ出てなかったな。リンネが教えてくれた酒、客に提供したらすごく人気になった」
「それはよかった」
皿に盛られた生チョコを出し、リンネは1口食べる。
「…いちごの味がする」
「いちごは嫌いか?」
「ううん、好き。イチゴ味のやつあったら絶対そっち選ぶぐらいには」
「イチゴのメニューも考えておこう」
普通の会話。
普通の接客。
わかっているのにすぐ嫉妬してしまう。
それが共に戦ってきた仲間でも。
「ヤマトさん彼女さんと別れないんですか?」
「ははっ、別れるわけないですよ。俺の宝物なんで」
口説かれようと誘われようと俺の目にはリンネしか映らない。
けど、俺は知っている。それと同じようにリンネの目にも俺しか映ってないことを。
ヤマトはその場を離れグラスを片付ける。
「ほんっと、ワザととか可愛いなぁ…」
グラスに反射するリンネの姿。長く綺麗な銀髪が反射で輝く。




