虚ろう目
朝、ヤマトが降りてこない。
ニコは部屋をノックする。
「ヤマト?入るわよ」
ドアを開けるとそこは荒らされた部屋。
綺麗好きで整理された部屋はなく、本が散らかり箪笥は倒されている。
壁には爪で引っ掻いたような傷に血が滲み、部屋の隅で座るヤマトの姿。
「ヤマト!大丈夫?!」
目は虚ろで屍のように返事がない。
「ニコ、どうし…なんだこれは…」
サクヤが目を丸くする。
すぐヤマトに駆け寄る。
「なにがあった。その手…それに壁の傷…」
「昨日、片付けをしている時に物を取りに行かせたの。遅くて様子を見に行ったら壊れたように泣き叫んでて…」
「叫び声が聞こえると思ったが…ヤマト、意識はあるか?」
「…」
ヤマトは口を開かない。
虚ろな目はどこを見ているか分からない。
「ニコ、今はそっとしてあげよう」
「でも…」
「今はまだ無理だ。もう少し、落ち着いてからまた来る。飯はいるか?」
何も答えないヤマトから離れる。
「今日も暑い。水分持ってくるからそれだけでも飲め」
ニコとサクヤは部屋から出る。
ニコは振り返り、ヤマトの手を包む。
桃色の光がヤマトの手を治す。
「なにかあったらすぐ言ってちょうだい」
下に行くと、白夜が座っている。
「大丈夫やったか」
「…大丈夫…とは言い難いわね」
「幼い頃からずっと一緒におったけど、あんなヤマト初めて見るわ。なにがあいつをそうさせたんや」
「わからないわ…ずっと誰かを思い出そうとしているの」
白夜は立ち上がり、腕をのばし伸びる。
「知らない誰か…なんで忘れとるのか…俺らには到底わからん。わからんもんを一生悩んどったってどうすることもできん。今日は1人にさせてあげようや」
寂しそうに笑う白夜は階段を見つめる。
「そうね…」
穴が空いたような感覚。すぐそこまで思い出せそうなのにノイズが邪魔をする。
俺は思い出して何をしたい?
思い出した時、何を思いたい?
またわからない。
考える度、振り出しに戻る。
「リンネ…」
小さな声は静寂に消える。
ヤマトが部屋にこもり夕方。
「どこ行くの?」
「お腹空かせとるやろうしなんか食べもん持ってこうかなーって」
「あんた、普段はヤマトと言い合ってるのにこういう時は優しいのね」
「…俺はヤマトの幼なじみやで?ずっと見てきとる。俺の初めての友達や。そりゃあ、大事やろ」
白夜はヤマトの部屋に入る。
「よぉヤマト。なんや、そのシケたツラは。リンネちゃんが見たらビックリするで?」
指のひとつも動かさないヤマトを見て息を吐く。
「なぁ、俺らが出会った日覚えとるか?」
「虐められとった俺をお前は手を差し伸べた。同じ嫌われ者だなって。正直、めっちゃ嬉しかったんやで」
「…とに…」
「なんや?」
「本当に…それは俺なのか…?」
普段、声のでかいヤマトから考えられないほど小さな声。
「本当や。お前が居らへんかったらつまらん。はよ元気になっていつもの馬鹿面見せぇや」
「これ、置いとくから食べたい時に食べ」
2つのおにぎり。白夜はそれを置き、部屋から出る。
下に降りると心配そうな顔をするニコが立っている。
「どうだった…?」
「あかんわ!屍のように動かへん!ま、その方が静かでええんやけど!」
笑う。けど、目は悲しそうに揺れる。
「あんたも無理しないでよね」
「えー?なに?心配してくれるん?優しいなぁニコちゃんは!」
「そんなんじゃないわよ。今日はヤマト無しで店を回す。ほら、準備するわよ」
ヤマト抜きで3人は準備をし店を開ける。
カランと音を立てドアが開く。
銀髪の少女。
「あら!リンネちゃん!いらっしゃい」
リンネは少し微笑みいつもの席に行く。
「今日は何飲む?」
「そうだね…」
店内をキョロキョロ見る。
「…ごめんなさいね、ヤマト…ちょっと体調崩しちゃって…」
「そう、なんだ」
その目は寂しそうに下を向く。
「大丈夫よ。しばらくすればまたいつもの大きな声でリンネちゃんに飛びつくから!」
「そうだね…じゃあ、ニコのオススメがいいな」
「分かったわ。あ!リンネちゃん!」
ニコはリンネの手を繋ぐ。
「明日、空いてる?よければなんだけど、一緒に出かけない?」
「いいよ」
「じゃあ、決まりね!どこで集合しようかしら…」
「朝、ここに来るから」
「わかったわ!」
ニコはご機嫌に笑い、サクヤの元に行く。
「ヤマト…大丈夫かな…」
階段を見つめる。ふと、白夜が静かなのが気になる。
「白夜…?」
呼ばれやっと笑顔。
「リンネちゃんいらっしゃーい!今日はヤマト居らんくて堪忍なぁ…ヤマトもおらんしどっかデート行く約束でもする?」
「ニコと出かけるから行けない。ごめんね」
「なんや先客かいな…先越されてもぉたわ」
「ヤマトは風邪?」
「……まぁ、そんなとこかな」
「そっか…」
コトッとグラスが置かれる。
「ピンクレディーよ」
「ありがとう」
ヤマトの居ない店。どこか、落ち着かない。
もし、体調を崩したのがボクのせいだったら…
リンネは言葉を飲み込むかのようにカクテルを口に含む。




