異型じゃない敵
リンネの服も乾き、帰る支度をする。
「このまま居ればいいのに」
「ううん、ちょっと用事があるから」
リンネは着替え玄関に向かう。
「じゃ、またね」
ただ無心で歩く。
「…っ、う"ぇ…っはっ…っ」
突然来る吐き気。吐瀉物を見てまた上がってくる。
「う"ぁ…っ、なん、で…」
「なんで、思い出そうとするんだよ…っ」
早く、早く祢々切丸を取り返さなきゃ…
力強く踏み込み歩き出す。
リンネはお面をつけ、影に消える。
「ん?」
「どうしたの?ヤマト」
「いや、一瞬…気のせいか」
一瞬、妖気を感じた。それは
懐かしいような。
「ヤマト、野菜切ってくれ」
「今行く」
今日も夜が始まろうとしている。
静かな店に
カラン
と音が鳴る。
「いらっしゃいませ!」
「こんばんは、お久しぶりです」
「あら、前の…」
青いストレートロングの女性と黒髪の男性。
「時間ができたので来ちゃいました」
「お待ちしておりました!何飲まれますか?」
「そうですね…」
席に着き、店の中を見渡す。
三日月のように上がる口。
「今日は…小さな可愛らしい店員さんはいないのですか?」
その言葉にニコは首を傾げる。
「そんな店員はうちにはいないですよ?」
「そうでした。別のお店と勘違いしていました!ではジンバックをください。君は?」
「一緒ので」
「ジンバック2つですね!お待ちください」
ふと赤髪の青年に目を向ける。
客と楽しそうに会話する様子。
「ヤマトー、これ運んで」
「おっけー」
赤髪の青年が2つのグラスを持って近づく。
「お待たせしました。ジンバックです」
「ありがとう。あなた、モテるでしょ」
「まぁ、それなりに」
「否定しないんですね」
青年はずっと笑顔。
「否定したら今までの女性に失礼じゃないですか」
「遊んでそうに見えて紳士なのね」
「紳士じゃないですよ。遊んでたのは事実なので」
グラスに口をつけ1口飲む。
「遊んでた?過去形なんですね」
「今は大切な彼女がいるので」
左薬指に光るシルバーのリング。
「大抵、男の人って彼女いるの隠す人多いけど、素直なんですね」
「遊んできましたが心から愛しているのは今の彼女が初めてなんですよ。では、ごゆっくり」
浅く会釈しヤマトはその場を離れる。
額に汗。
「…まさか、ね…」
「どうしたんですか?神咲部長」
「ねぇ、桜木くん。もし、あの子の彼女があのなゆただったらどうする?」
桜木はグラスを回す。
「そんなの、壊すに決まってますよ。あの半妖が幸せになるのは許さない。けど、壊すのは今じゃない」
「幸せの絶頂を迎えた時にです」
「なかなか酷いこと思うのね。けど、同意見」
「必死に守ってるみたいだけど、絶望の顔が楽しみだ」
月に笑う神咲はそこに居ないはずのリンネ、なゆたを見透かしているようだった。
「今日はありがとうございます。また色々なお酒飲みに来ますね。ほら、桜木くん。ちゃんと歩いて」
「部長が強すぎるんですよ…肩貸してください」
「私、一応あなたの上司よ?ったく…」
桜木を担ぎ手を振る。
「さーてと、美味しいものを頂いたお礼のプレゼントしなくちゃね」
「そろそろ閉店するかぁ」
「今日は暇やったなぁ…またあの美人さん来ぉへんかな」
「ほら、手を動かしなさい男ども」
閉店の看板を掛ける。その瞬間、
足が重くなり
地面が揺れる。
「この感じ…帳…?」
「いや、いつもと違う。なんだこれは…っ」
広い空間。目の前には数百体はいるであろう
人の形をした、
異型。
「あれ、人間…?」
「異型独特の妖気を感じられねぇが人間でもねぇ…妖怪か…?」
「ちがう。妖怪の妖気でもない」
謎の生物は武器を出しゆっくり近づく。
「いや、こいつら…!」
「巫女の特殊部隊か?!」
4人はすぐさま武器を構える。
「気をつけろ。断然、異型より強い」
「わかってるわ…」
一気に踏み込み敵を切り裂く。
切っても切っても増える敵。
「キリがねぇ…!」
「…っ?!ヤマト!後ろ!」
咄嗟に後ろを見ると剣を振り上げる敵。
だが、その敵はそのまま地面に崩れる。
その後ろから現れる
黒いお面をつけた鬼の子供。
「半妖の王…なゆた…」
そこで初めて気づく。
なゆた…?
俺は時折、"なゆた"という名前を無意識に出していた。
俺とこの王はなんの関係がある?
「おい…お前…」
ヤマトの言葉を遮るかのように敵に向かって大鎌を振る。
誰なんだお前は。なぜ姿を隠す?
半妖の王はどんな姿なんだ?
"ヤマト"
リンネの声が頭に響く。
「…悩んでたってしゃーねぇよな…ここで死ぬ訳にはいかねぇ。この雑魚をさっさと倒し、」
「半妖の王に聞きたいことを聞く」
ヤマトは大剣を強く握り踏み込む。




