その名前で呼ばないで
ヤマトはただリンネの顔を見る。
「ヤマト」
リンネは眉を顰める。
「なんでボクの前で知らない人の名前呼ぶの…ボクがいるのに」
頬を膨らませ拗ねる。
「そう、だよな…うん。リンネがいるのに他の名前を呼ぶのは違うよな。ごめん」
再び抱きつかれる。
顔が見えない。
リンネの額に小さな汗。
「リンネ、下行けるか?」
「え?うん。行けるけど…」
「よし、じゃあ行こう」
手を引かれ立ち上がる。
ヤマトの顔はいつもの顔。
その顔に安心する。
震える手。リンネはしっかり掴み、離さない。
「あら、もう終わったの?」
「なんもしてねーよ…」
「次はちゃーーんと配慮するわね♡」
ヤマトはため息をつく。
「リンネがその指輪を嵌める時まで俺は手を出さないって決めたの。で、なんの用だったんだよ」
「あのヤマトが手を出さない……?この土砂降りの雨はあなたが原因なの??」
「はぁ〜?俺だって改心することあるんですぅ」
ニコはヤマトとリンネを見て微笑む。
「本当に大切なのね。あ、リンネちゃん」
リンネは顔を上げる。
「雨ひどいししばらくここで雨宿りしてかない?服も乾いてないでしょ?」
ヤマトは気づく。リンネの格好はシャツ1枚ということに。
「わかった。そうする」
気にしないリンネはいつもの席に行く。
ニコはヤマトの傍に行く。
「しつこいと思うけど、本当に無理やじゃないのよね…?」
「無理やり…わかんねぇ。あそこでニコが来てくれなかったら全部終わってたかもしれねぇな」
「そう…ま、いいわ。開店準備しましょ。リンネちゃんはあの格好だと、ほかの目がつく。現にほら、あの狐」
指をさしヤマトは振り返る。ニコニコと近づき話す白夜とリンネの姿。
「リンネちゃん乱暴にされへんかった?」
「うん。されてないよ」
「俺やったらゆっくーり怖くないように──」
パンッと頭を叩かれる。
「いったぁ!何やねん犬っころ」
「死ぬか離れるか選べインチキ狐」
白夜を睨むヤマトが立っている。白夜はため息をつき、リンネを見た。
「リンネちゃん、こうやって言い寄ってくる男もおるからな?下、なんも履いてへんやろ」
「どこ見てんだてめぇ」
「しゃーないやん!俺やって男やし?!お前やって他の…あーー、いやなんもあらへんわ」
リンネは首を傾げる。
雨の音が消え太陽が顔を出す。
「晴れてきた」
「服はもうちょいかしら。お茶でも飲む?」
「うん」
離れたはず。なのにまたこの空気の中にいる。
リンネはそっと自分の口を指でなぞる。
「ニコが来なかったらどうなってたんだろ…」
「そりゃあ、食べられてたよ」
「……骨まで食べてね」
「もちろん」
この場所はやっぱりどこか心地がいい。
ヤマトだけ術が弱い…それはボクらが兄妹だから?ちがう。
どこかボクに対して気持ちがあった。
ボクを妹として見てただけ?
もしそうじゃないなら…
「リンネ、なにか食いたいもんあるか?」
「ヤマト特性チャーハン」
「おっけ、待ってて」
もし、ヤマトがボクを
妹と知った日、
敵だと知った日、
どんな顔をするんだろう。
嫌だ。この関係を続けたい。
妹じゃなくて他人として愛されたい。
半妖の王として、
ヤマトに殺されたい。
ごま油の香りが広がる。
誰かが言ってた。
"夢は儚いから美しい"
ボクはそうは思わない。
夢を見たいなら掴むだけ。離さないように閉じ込めるだけ。
コトッと皿が前に出る。
「お待たせ」
その顔は、
その声は、
その表情は、
全部、
全部全部
ボクのものだ。




