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知らないキス

「リンネー?」


浴室から出ると横になっているリンネの姿。そばに行くと小さな寝息を立てている。


「寝てんのか…」


ヤマトにとってそれは有難かった。


リンネを見つめ、髪を撫でる。


「ほんと、綺麗な髪だな」


静かな空間。ヤマトは本を読む。何をすればいいか分からない。

モゾモゾとリンネが動く。ゆっくり起き上がりボーッと遠くを見る。


「おはよう。リンネ」


「おは、よ…にぃちゃ…」


「…にいちゃん…?」


目を見開く。心臓が跳ねる感覚。


"兄ちゃん"


目が揺らぐ。


「なゆ…た…?」


その言葉と共にリンネはヤマトの膝に倒れる。


なんで半妖の王の名前を…?


また小さな寝息。


「寝ぼけ、てたのか…?」


膝枕状態。ヤマトは起こさないようにそっとお姫様抱っこをし自室に行く。


いや、待て。自室に行くのはまずくないか…?でも寝てるしなぁ…


そんな気持ちを抱えながらもリンネをベッドに寝かす。


「お前は…リンネ、だよな…?」


「な、に…」


薄く目が開く。

ジッと見つめられヤマトは硬直。


今にも見えそうな肌はヤマトを刺激し、咄嗟に目を逸らす。


「少しは寝れたか?」


「うん」


ヤマトはベッドの端に座る。


「…さっき、誰を呼んだんだ?」


「呼んだ…?」


「にいちゃんって…」


リンネは目を開く。すぐに目を伏せ背中を向ける。


「昔の夢を見て寝ぼけてただけだよ」


ヤマトは身体をリンネに向け肩を持つ。


そして、


肩を押し、リンネに覆い被さる。


赤く燃える瞳。リンネは目を逸らせない。


「リンネ、俺はお前を大切にしたい。けど、そう思えば思うほど黒く嫌な感情が出てくるんだよ」

「過去に2人失ったやつがいる。俺の腕で死んだ。誰ももう死なせたくないんだ。そして、」

「リンネは俺から離れないでほしい」


苦しそうな表情。リンネはそっと頬に触れる。


「……ヤマト」


透き通る声。


「ボクはヤマトに出会って初めて恋愛を知った。知った気になってた。楽しいものだと思ってた。けど、どこか苦しくて頭ではわかっているのに身体が言うことを聞かない」

「離れないよ。ずっと。ボクはヤマトを守るためにいるんだから」


そっと身体を下ろし抱きしめる。


離れていかないように。


どこにも行かないように。


服越しで伝わる呼吸、鼓動。全て愛おしく思えた。


「リンネは俺が初めての恋人だっけ」


「うん。そうだよ」


「そっか…子供ってさどうやってできるか知ってる?」


「知ってる」


鼓動が早くなる。


だが、


それはリンネの言葉によって正常に戻る。


「コウノトリさんが運んでくるんでしょ」


少しの間、時間が止まる。


「っふ、あっははは!!コウノトリさん…っははっ!」


ヤマトは笑う。リンネは眉を顰めなぜ笑っているのか理解できていない。


「リンネ」


近づく顔。リンネは受け入れるように目を閉じる。


軽いキスを何度も。


「…ダメだ…やっぱ無理だ…壊したくねぇ」


「ヤマト…?」


リンネの横に寝っ転がり大きく深呼吸する。

リンネは身体ごとヤマトに向ける。


「キスはもういいの?」


「…キス以上のことしてしまうからな。まだ手は出さねぇ」


「…?手を出す…?」


本能と理性の戦い。


場所は自分の部屋のベッド。


手を出したい。


けど、相手はまだ未経験。


「あー…どうしよー」


弱々しく悩むヤマト。リンネは身体を起こしヤマトの上に乗る。


「いつも、見上げていたけど今はボクが上だね」


無表情ながらもドヤ顔でヤマトを見下ろす。


「……あのさ、リンネはいいの?オオカミに襲われるかもしれないんだぞ?」


「オオカミ?」


「いるよ」


リンネの手首を掴み押し返す。

先程までの弱々しい顔はなく、


目の前には、


理性を失いかけているオオカミ。


「ヤ、マト…?」


そこで初めてリンネは理解する。


前に言われた言葉


"兄である前に俺だって男なんだ"


わかってる。分かっているのに何するのか分からない。


「後からどんだけでも殴ってくれ」


かぶりつかれる。


今までとは違う。口の中の違和感。


息できない…知らない。こんなの、知らないのに…


なんでヤマトは知っているの…


苦しいのか感情が収集つかないのか分からない。

自然と涙が出る。


「ごめん…泣いてももう無理だ…っ」


ギュッと袖を掴む。


「ヤマ…兄ちゃ…っ」


それでも声は届かない。


兄ちゃんはリンネを見ているから。


ヤマトの手がボタンに触れる。離れない口。


ひとつ外したところで思い切りドアが開く。


「ちょっと!ヤマト!さっきから何回も呼んでる──」


ドアの方にはニコ。

固まるニコは2人を確認する。


リンネに跨りボタンに手をかけるヤマト。


肩で息をし目に涙を溜めるリンネ。


「ヤマトおったんか?って、わーお…」


「あんた、無理やりしたの…?」


「…っ、そ──」


「違う…!」


リンネが大きな声を出す。


「ボ、ボクから誘った…ごめん…」


「涙を流していたのは?」


「誘ったはいいけど、何するのかわからなくて…初めてのキスで息ができなかったから…嫌な意味の涙じゃない…」

「だから、ヤマトを責めないで…」


小さく震えるリンネに近づき、髪を撫でる。


「怒ってないわ。ただびっくりしただけよ。邪魔しちゃってごめんなさい。無理やりだと思ったの」


リンネは首を横に振る。


「無理やりほど痛くて辛いものはない。ヤマトもしっかり心に入れとくように」


ニコは手を振りドアを閉める。


静かな空間。


ヤマトは我に返ったかのように俯く。


「ヤマト…」


「ごめん…最低だ俺…リンネの声届いてたのにそれでも自分の欲に抗えなかった…」


リンネはヤマトの裾を掴む。


「ごめ、ごめんなさい…っ、ヤマトは悪くないのに…ボクから誘ったのに…」


子供のようにボロボロと涙を流すリンネ。


「嫌わないで…っ、嫌いにならないで…!離れないで…」


優しく壊れ物を扱うかのように抱きつく。


「俺の方こそ怖い思いさせてしまって悪かった。俺がリンネを嫌いになるわけないし離れるわけない。だから大丈夫だよ」


嗚咽混じりの泣き声。


ここで俺が離れてしまえばリンネは壊れる。


なぜかは分からないけど、そう思う。


俺も、リンネが離れてしまったら…


「さっきみたいなことは今後ちゃんと時間かけてしよう。その指輪を嵌める時に」


「…うん…っ」


「あー、てか気まず…ニコは別に気にしねぇけど白夜にリンネのあの顔見られたのはまじで腹立つな」


「ヤマト」


リンネは優しくキスをする。


「ずっと一緒にいるお呪い」


ヤマトは嬉しそうに微笑む。


「ほんと、敵わねぇな。なゆたには──」


その瞬間、ヤマトは目を見開く。


リンネの動きが止まる。


「今、なん、て…」


知らない少女の名前は顔を思い出すことはない。


けど、


なぜ今また、


半妖の王の名前を呼んだ…?

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