揺らぐ意識、交わる刃
ヤマトさん……???
空気が、張り詰めていた。誰も動かない。
ただ一人——
ヤマトだけが、わずかに呼吸を乱している。
「……はぁ……っ」
肩が上下する。
大剣を握る手に、力が入りすぎている。
「ヤマト」
なゆたが、静かに呼ぶ。
反応は——
一拍、遅れた。
「……ああ」
顔を上げる。その目は、いつものヤマトだ。
だが。
その奥に、わずかな“濁り”があった。
「まだ……平気だ」
自分に言い聞かせるように、呟く。
「だから——」
言い終わる前に。視界が、歪んだ。
——斬れ
声が落ちる。
「っ……!」
ヤマトの腕が、跳ねた。
無意識。
完全な反射。
大剣が振り抜かれる。
狙いは——
なゆた。
「——来る!」
サクヤの声。
なゆたは動かない。
ガキンッ!!
大鎌で受け止める。
衝撃が、腕に響く。
「……ヤマト」
距離、ゼロ。
刃と刃が噛み合ったまま、なゆたは低く言う。
「止まって」
「……止まってる!」
ヤマトが歯を食いしばる。
「これ以上は——」
言葉が、途切れる。大剣に、さらに力が乗る。
「……っ!」
なゆたの足が、わずかに沈む。
押される。
(強い……!)
さっきより、明らかに。
「なゆた!」
ニコが動く。
爪が閃く。
横から、一気に距離を詰める。
「なにしてんのよ!」
高速の連撃。
ヤマトの死角を狙う。
だが——
ガキ、ガキ、ガキ。
全部、止められる。
見ていないはずの攻撃を、大剣の“振動”だけで弾いている。
「うそでしょ……!」
「来るな!」
ヤマトが叫ぶ。
その声は、確かに“ヤマト”だった。
だが次の瞬間。
——殺せ
ノイズが走る。
「っ……!」
大剣が、横に振り抜かれる。
ニコが弾き飛ばされる。
「がっ……!」
床に叩きつけられる。
「ニコ!」
サクヤが踏み込む。
槍が現れる。
「——止める」
一直線。
無駄のない一突き。
間合いを完全に支配した刺突。
だが。
ヤマトは避けない。
その代わり。
“掴んだ”。
「……は?」
槍の穂先を、素手で止めている。
血が滲む。
それでも——
止まっている。
「離せ!」
サクヤが力を込める。
だが、動かない。
ヤマトの目が、揺れる。
「……来るなって、言ったろ」
低い声。
そのまま、槍ごと引き寄せる。
「っ——!」
バランスが崩れる。その隙に。
大剣が、振り上がる。
「サクヤ!!」
なゆたが叫ぶ。
——斬れ
完全に、重なる。
振り下ろされる。
だが。
止まった。
ギリギリで。
刃が、空中で止まる。
震えている。
「……くっ……!」
ヤマトの体が、軋む。
「やめろ……!」
自分で、自分を止めている。
「動くな……!」
必死に抑え込む。
その隙に、
サクヤが距離を取る。
「……限界だな」
低く言う。
「完全に乗っ取られる前だ」
「わかってる!」
ヤマトが叫ぶ。
「だから……!」
呼吸が乱れる。
視界が、また揺れる。
——ええなぁ
声が、笑う。
「やめろ……!」
拳を握る。
だが。
止まらない。
「なゆた」
ヤマトが、顔を上げる。
その目は——
ほんの一瞬だけ、完全に“戻っていた”。
「……頼む」
短い言葉。
だが。
全部が詰まっていた。
「俺が——」
言い終わる前に。
視界が、赤く染まる。
「っ……!」
ヤマトの体が、跳ねる。
今度は——
完全に、速い。
今までとは、比べ物にならない速度。
地面が砕ける。
「来るぞ!」
サクヤが叫ぶ。
「なゆた!!」
ヤマトが、一直線に突っ込む。
その一撃は、迷いがなかった。
(……ここで止めないと)
なゆたの手に、再び大鎌が現れる。
黒い霧が、強く揺れる。
(……でも)
振れば——
壊れる。
何かが。
一瞬の迷い。
その間に。
ヤマトが、目の前まで来ていた。
大剣が、振り下ろされる。
「——っ!」
その瞬間。
なゆたは——
大鎌を、“振らなかった”。
代わりに。
一歩、踏み込む。
「なゆた!?」
ヤマトの懐に、入る。
大剣の軌道を外しながら。
そのまま。
——抱き止めた。
ドンッ。
衝撃が、背中に抜ける。
「……っ……!」
痛みが走る。
だが、離さない。
「……戻って。これは命令だ」
小さく言う。
耳元で。
「ヤマト」
その声に。
ほんの一瞬だけ。
力が、抜けた。
「……っ」
大剣が、落ちる。
ガラン、と音を立てて。
静寂。
ヤマトの体が、崩れる。
「……はぁ……っ……」
荒い呼吸。
意識は——
まだ、繋がっている。
「……悪い」
かすれた声。
だが。
その奥でまだ、何かが蠢いている。
なゆたは、それを感じていた。
黒い霧が、わずかに揺れる。
(……終わってない)
これは、ただの始まりだ。
見えない糸は、まだ切れていない。
そして——
遠くで。
確かに、笑い声がした。
「ええなぁ」
「ほんまに」
その声だけが、
静かに、残った。
ここまで見て下さりありがとうございます。
ニヤニヤしながら書きました。
仲間が奪われるの癖です




