追われる影
店はいつも以上に賑わう。
リンネと話す時間がないどころか休憩時間すらない。
「ネコの手も借りたいわ…」
「ネコって…自分──いってぇ!」
「ヤマト?口動かす前、身体を動かしてちょうだい!」
リンネはその様子を見る。小さく息を吐き、カウンターに置いてあるバインダーを持つ。
「ご注文お伺いします」
その言葉に誰もが手を止めた。
リンネが注文を取っていた。
「リンネ…?」
「3番テーブル、カルーアミルクとスクリュードライバー。チーズの盛り合わせ1つ」
紙を捲り、次の卓に行く。
「このお酒は甘みが強く飲みやすいですが、度数が高いので酔いたい方などにオススメです」
「じゃあ、それを!」
「かしこまりました。このお酒は甘いのでこちらのつまみなどが合います。ご一緒にどうですか?」
「それもお願いします」
「ありがとうございます。少々お待ちください」
「5番テーブル注文置いときます」
空いた席のグラスを運び、カウンターに置く。
無駄のない動き。だが、そのお陰で店は回る。
しばらくし、客も静まる。
「つっっかれたぁ…!なんやねん今日!」
「金曜日だからでしょ…それより!」
ニコはリンネの手を握る。
「ものすごく助かったわ!ありがとう、リンネちゃん」
「ほんまに助かったわ…テキパキと無駄なく動いとったからここでずっと働いとったみたいやったわ」
リンネは目を逸らす。
「……ずっとみんなの見てきてたからだよ。余計なことしてごめん。ここの従業員でもないのに」
「余計なことじゃないわ!そのお陰で大助かりよ!」
そこにヤマトがやってくる。
右手にはカクテルが入ったグラス。
「カルフォルニアレモネード。本当に感謝しかない。ありがとうリンネ」
「どういたしまして」
「にしても、いい動きだったな。周りをよく見ている。うちの従業員に欲しいぐらいだ」
「サクヤの言う通り。そうしたら俺はリンネとずっと一緒にいられる。部屋もひとつ空いてるし」
リンネは黙る。グラスを回しながら見つめる。
「考えておこうかな…」
「そろそろ閉店でしょ?ボクはもう帰ろうかな。明日も仕事あるし」
「わかった。明日また来るか?」
「…うん」
会計をしようとすると、ヤマトに止められる。
「今日、手伝ってくれたからお代はいらないよ。暗いから気をつけろよな?」
「ありがとう…」
パーカーを握りしめる。
手を振り店を出る。
「久々に働くっていうのも悪くないね…」
離れたところでお面を取り出す。顔に付け、木の上を伝ってその場から離れる。
「リンネちゃん、すごく真面目だったわね」
「俺らより動いてなかったか?」
「本当に…なんか、ずっとそうしてきたかのように感じるわ」
「今度、強めに勧誘でもしてみようか」
ニコは笑う。
きっとそうなればいいと思うように。
「また異型…最近、異型が多いな…」
「ねぇ、酒呑童子。祢々切丸の場所わかった?」
リンネは木の上。枝の上に立ちただ月を眺める。
月が沈み朝が来る。
それなのに太陽は見えない。
「今日は曇りか…」
「ヤマト〜?起きてる?」
「おー、どうした?」
「私ちょっと買い物に行くから自由に過ごしてて」
「はいはーい」
ニコが買い物…ってことはサクヤはいない。白夜は何してんだろ。あいつも自由に過ごしてんのか。
「ひっさびさに1人で出かけようかな」
ヤマトは身体を起こし着替える。
滅多に行かない1人の出かけ。
ふと左薬指に光るリング。愛おしいそうに見つめ、部屋を出る。
「曇りなのに暑いな…」
目的はない。家にいると嫌なことを思い出しそうで怖かった。
街は賑やか。1人なのが余計に心に来る。
「なんか、無いかな」
歩いていると横から風。目を向けると銀髪の少女が走っていた。
「…リンネ?」
ヤマトに気づかないほど焦った様子。
不思議に思い、様子を見ていると後ろから声。
「待ちやがれクソガキ!!」
「社長、ターゲットが逃げました。東の方向に向かっています」
その言葉と共に走り出す。人混み。人を避けながら追いかけるのがめんどくさい。
「…チッ」
ヤマトは路地裏に行き、深く膝を曲げる。
そのまま飛び、屋根の上。
これだと目立つな…
白夜から貰った札を自身に貼り姿を消した。
「どこ行った…?」
屋根の上から辺りを見渡す。
空が暗くなりゴロゴロと音が鳴ったのも束の間。一気に雨が降り出す。
「まずいな…」
右に顔を向けた瞬間、映る銀髪。その後ろから追いかける男性2人。
咄嗟に走り出す。
「しつこい…っ!いつまで追いかけて───」
その瞬間、身体が浮く。路地裏に連れてかれ誰かに頭を押さえられ抱きつかれる感覚。
「…っ?!」
慌てて顔をあげると目を見開く。
そこに居たのは、
「…ヤマ、ト……?」
「よー、リンネ。昨日ぶりだな!」
笑う見慣れた赤髪の青年。




