知らない誰か
帰りの電車はやけに静かだ。
隣には手を繋いだまま寄りかかり眠るリンネ。
ふと外を見る。窓に映る自分の姿。首にはネックレス。そして、
リンネの指には指輪。
「お互い、どこの誰かも分からないものを付けているのはダメだよな…」
ネックレスに手をかける。
"ボクのって証。お守りだよ"
"兄ちゃんは犬だから首輪必要かと"
また知らない記憶。
なぁ、お前は誰なんだ…?俺の何なんだ?
俺にはリンネがいる。なのに、外すと全て壊れる気がするんだ。
「にい、ちゃ…」
目を見開く。
聞き慣れた声。
聞き慣れた言葉。
ゆっくり視線を落とす。
そこにはリンネ。
「はな、れないで…」
リンネは今誰を見ている?誰が写っている?
俺じゃない誰か。
そんなの、
「許さない」
駅に着く頃にはリンネは起きていた。
「ごめん…ずっと寝てた…」
「いいんだよ。電車って眠たくなるしな」
夕方。綺麗な夕日が2人を見る。
「ヤマトみたいで綺麗だね」
「俺ってそんなに綺麗?」
どこかで言ったセリフ。
どこで言った?
「…うん、綺麗」
なのに、リンネはその記憶をかき消すように笑う。
「今日はこのまま店に寄ってくか?」
「…ううん。やらなきゃいけないことあるから…明日は絶対行くよ」
来て欲しい。
けど、
言い出せない。
「わかった。明日、絶対待ってるから」
お互い手を振って振り返る。
明日も会える。今はそれで十分。
幸せな時間がこのまま続いて欲しい。
"過去を忘れても?"
頭に響く声。立ち止まり、耳を澄ます。
"過去を忘れてもお前は今の幸せを願うのか?"
誰だ…?そうだ。俺は今の幸せが好きだ。だから、誰にも邪魔はさせない。
妖気。
ヤマトはため息を着く。
それと同時に、
帳が降りた。
「俺、今日はちょー幸せだったの。この幸せのまま家に帰りたかったの。だからさ、」
「邪魔しないでくんねぇかな」
術を解き、犬の耳と尾出す。
白い霧から大剣を取り出し振り返る。
異型。
だが、
異型じゃなかった。
「…は?」
そこには鬼の角が生えた子供。
顔は黒のお面で隠され、
髪は白いフードで隠されている。
大きな服を纏ったのは鬼の子供ということだけしかわからない。
「おい、ガキ。てめぇ妖怪か?」
子供は答えない。
答えない代わりに黒い霧から大鎌を出す。
「黙りかよ…まぁ、いい。相手してやる」
大剣を構え一気に踏み込む。突っ立ってるだけの子供に向かい剣を振る。
だが、
大鎌で止められる。
「…っ、ガキのくせにやるじゃねぇか」
相手の足は1歩も動いていない。ヤマトは再度、踏み込む。
激しい衝突音。
「何者だてめぇ」
ただ一言も喋らない。
距離を取る。
"お前は今だけ見ていればいい"
知らない懐かしい声。
"過去に縋るな。今を見ろ"
「…っ、またこの声」
そこで気づく。子供は武器をしまい、振り返る。
「おい待て!!逃げる気か!」
指を上にさす。見上げるとゆっくり消える帳。
「まずい…」
ヤマトは仕方なく犬の耳と尾を隠し、大剣を消した。
「おい、おま───」
前を見ると誰もいない。その場にはただヤマト1人しかいなかった。
「なんだったんだあいつ…」
ヤマトは振り返りその場から離れる。
木の上、フードを取り、お面を付けた子供は立ち去るヤマトを逃がさないように見ていた。




