もう一度、その名で
晴天。太陽に手を伸ばすと光る指輪。
「はぁ…」
1人で歩く。いつも隣には誰かがいた。
「なにしてんだろ…」
離れなきゃいけない。わかっている。わかっているのに離れられない。
「ボクは…どうしたいんだろ…」
「なゆたさん」
後ろから声。振り返ると神咲が立っていた。
「また君か…なんの用」
「最近、よくあの半妖たちと接触が見られます。いいんですか?」
「あのさ、これ以上なにを邪魔するの?君は大人しくボクに殺される。それだけ」
「ではなぜ今殺さないのですか」
「君がニコとサクヤを傷つけ、祢々切丸を奪ったからだろ。祢々切丸を取り返す。そして」
「兄ちゃん…ヤマトの能力を戻す」
「あなたはもう自分で能力をコントロール出来ているじゃないですか」
「あの犬神の半妖の能力は─────」
「それは君じゃなくてボクが決めることだ。君がボクに言ったんじゃないか。記憶を消し敵となれ。そうすればみんな守られる、祢々切丸を返すと。ボクは守るためなら何にでもなる」
「これ以上、ボクになにか言うなら祢々切丸を奪う前に殺す」
冷える空気に鋭い目つき。神咲は息を飲む。
「祢々切丸はいずれ返します。ただあなたの中にいる酒呑童子を殺すまでは」
「…もういい。話が通じないなら用はない」
「あ、待ちなさ────」
なゆたはそのまま影に消える。
"なゆた!俺はずっと離れないからな"
"俺はお前の兄でいたい…"
「兄ちゃん…」
ボクはなゆたであり今はリンネだ。リンネを崩すわけにはいかない。それが偽りだとしても今の幸せを噛み締めたい。
ドアを開ける。そこにはかつての仲間。
今は他人。
「いらっしゃい!リンネちゃん!」
ニコ、君はボクにとってお姉ちゃんのような存在。いつも間違いを止めてくれる。
「今日はブランデー入りの生チョコを作ってみた。感想聞かせてくれ」
サクヤ、君はボクをまっすぐ受け止めてくれる。悩みを聞いてくれる。
「リンネちゃーん!ヤマトなんかやめて俺に乗り換えん?」
白夜、ずっと昔から一緒に居た。ボクの幼なじみ。泣き虫だった君は前に進んでよく笑うようになった。
「リンネ!やっと会えた。会いたかった」
ヤマト、いや…
兄ちゃん、ずっと救われてきた。ずっと手を差し伸べてくれた。間違ったことを一緒に歩いてくれた。
ボクはここが好き。みんなが好き。
「お酒、飲みたい」
だから、もう少しだけ。もう少しだけでいい。夢を見たい。幸せを感じたい。
嘘をついててもヤマトの隣で笑いたい。
「ここは、ボクの居場所だったのに」
壊された。
憎い。
殺したい。
そんな感情は全てボクの中にいる酒呑童子に託す。
楽しい感情はボクのもの。
いつもの席。みんなを一斉に見れる特等席。そこが好き。
「リンネ」
優しい顔。好きな顔。独り占めしたい人。
黒くても汚くてもこの幸せは誰にも邪魔させない。
「ヤマト、コープスリバイバー欲しい」
「おっけ」
笑う顔は全てボクに向けて欲しい。
兄じゃなくて、
恋人として。
ニコから教えてもらった恋人。
ヤマトは知らない。ボクが妹なのを。
けど、
血は繋がってないからいいよね。本当の兄妹じゃないからいいよね。
もう、兄妹に戻らなくてもいいのかな。
ヤマトの気持ちを踏みにじってないのかなこれ。
「リンネ?」
顔をあげる。ヤマトの顔。
「にぃ…ちゃ…」
咄嗟に手で口を閉ざす。
ヤマトは首を傾げ頭を撫でる。
「明日、またどこか出かけないか?」
「…うん」
「よかった。なぁ、リンネ」
違う。
「俺はリンネが好きだよ」
その名前じゃない。
もう一度、
また、
なゆたって呼んで欲しい。
「ボクも…ヤマトが好きだよ」




