イルカショー
夜ということもあって人も少ない。2人は前ではなく後ろ方に座る。
ソワソワするリンネ。
「楽しみ?」
「うん、すっごく」
「そうか…」
その場が暗くなる。と思った瞬間、ライトアップされイルカが出てくる。
綺麗に泳ぐ姿。
リンネは目を離さず見る。だが、ヤマトの目線はリンネ。
ライトアップによって照らされるリンネの瞳は綺麗に輝く。
「あんな風に泳げるの凄いね」
「リンネは泳げねぇの?」
「泳げない…前に浮き輪から落ちて溺れかけた…一生海で過ごすのかと覚悟した…もう海の藻屑になりたくない」
"何してんだ、×××"
"ゲホッ、ゲホッ…っ、兄ちゃん…"
"カナヅチはまだ直んない?"
"直るものなのそれ…"
"さぁ?"
海の記憶。
兄ちゃん…?
俺には妹がいた…?
そんなはずはない。俺は一人っ子だ。ずっと。
「ヤマト」
「え?」
名前を呼ばれ我に戻る。
「イルカショー終わったよ。凄かった」
「…リンネ」
「前の方にいたら水かけられてたかもだから危なかったね」
「リンネ」
「…?なに?」
なぜ名前を呼んだのか分からない。あの記憶の中の少女。知らない記憶。
「時間も時間だし帰ろうか」
「…?うん、そうだね」
帰り道、静かな道。
ぬいぐるみを抱え歩く少女の髪は綺麗だった。
「ヤマト」
振り返る。
「楽しかった?」
無表情なのにどこかに見える感情。
あぁ、もうダメだ。抑えらんない。
「楽しかった。またリンネと来たい」
「そうだね。ペンギンも貰ったし、ヤマトからたくさん教わったし」
「リンネ」
「なに?」
足を止める。それと同時に時間も止まる感覚。
指が震える。
この少女を前にすると霧かかった記憶が消える。
「俺はお前と出会ったことがある。けど、分からない。あの日、初めて見た時…どこか懐かしさを感じた」
リンネは見つめたまま何も言わない。
「確かめたかった。それが何なのか。けど、今はもうそれもどうでもよくなってしまった」
初めて自分から出る言葉。
ずっと言われてきた言葉。
「俺は出会って間もないリンネを誰にも取られたくない。俺だけのもので居てほしい」
「それは…どういうこと?」
「…っ」
心臓がうるさい。
「…リンネのことが好きだ。付き合ってほしい」
リンネの目が揺れる。
抱いていたぬいぐるみを強く抱きしめた。
初めて自分からの告白。
初めて自分から好きを伝える。
「……うん、いいよ。ボクもヤマトが好き」
まっすぐ見つめた先には、ずっと隠れていた月がリンネを照らす。
嬉しそうに、ずっと待っていたかのようにリンネは小さく笑う。
「…え、ほんとに…?」
「え…うん…?」
「嘘とかドッキリじゃなくて?」
「ボクがそんなことするように見える?」
手を伸ばし、身体を寄せ抱きつく。
「よかっったぁ…振られたら俺もう生きていけないと思った」
「くるし…」
本当に苦しい。
罪悪感。
なのに、
嬉しい。
抱きつかれた時の
安心感。
匂い。
全てが愛おしい。
どうしてボクは、
君の
妹なんだろう。




