気づかない執着
「あら?リンネちゃん?」
まだ開店前。リンネはヤマトに手を引かれ店の中に入る。
「ちょっとヤマト、まだ開店してないわよ」
「いいんだよ別に。な!リンネ」
「開店してないなら客を中に入れちゃダメじゃない?」
「えぇ…リンネまで?」
繋がれた手は離さない。ニコはそれに気づく。
「2人付き合ってるの?」
「え?あー…」
「付き合ってない」
リンネは外を見る。綺麗な月は雲によって隠れる。
「付き合って、ない…?」
それでもしっかりヤマトによって握られた手。ニコはため息を吐く。
「あんた、もう女遊びは程々にしなさいよね」
「んー…」
悩んでいるとギュッと握る手が強くなる。
目を向けるとリンネが睨んでいる。
「へー…昔から女遊びしてたんだ…それはボク、知らなかった」
「い、いやいやいや!ここ最近はしてなかったよ?!それにしない!もうしない!ね?」
「…ふーん」
「確かに…ヤマト、最近は女遊びしてなかったわね…あれ?何故かしら…」
階段を下りる音。目を向けると綺麗な金髪。
「あれ?リンネちゃん?もう開店してしもぉたん?」
「いーえ?まだよ。ヤマトが連れてきたの。机も拭けてないし何も終わってない。ってことでリンネちゃん、そこに座って─────」
「ボクも手伝うよ」
「え?」
リンネは袖をまくる。
「机、拭くよ」
ニコから布巾を取り机を拭く。それは慣れた手つきで。
「えぇ?!そんな、いいわよ?!」
「させてほしい」
「なんか飲食店でバイトとかしてた?」
「…少し前まで、ね…」
ヤマトは気にしながらもグラスを拭く。目線はリンネ。
「机終わった。次は…瓶の向きか…」
まるでそうしてきたかのようにリンネは無駄なく動く。
高い場所。リンネは精一杯足と手を伸ばす。その瞬間、足が滑る。
「やば…っ」
落ちてくる瓶。倒れそうになる体。
誰かに抱きつかれる感覚。
目を開けるとヤマトがいる。
「…っぶねぇ…」
「ごめん」
「怪我は?」
しっかり見つめられる瞳。
前の時は目、合わなかったな…
「怪我は無い。呼べばよかった」
「手伝ってくれてありがとうな。だいぶ準備できたしそこ座る?」
無意識だろう。
そう思いながらリンネはそこに座る。
「じゃ、開店するわよ」
客が入る。ニコは注文を取りに行く。
「なぁなぁリンネちゃん」
見上げると白夜。
流れるように隣に座る。
「働かなくていいの?」
「俺ら、どっかで会った?」
「…ないよ」
「…そうかえ…そうやなぁ…あ!」
白夜は妖艶な笑み。肘をつき、真っ直ぐリンネを見つめる。
「…妖怪って信じる?」
「……なんで」
「ほら、よく本とかにも出てくるやろ?でも、それって本当なんかなって思わん?」
「いると思うよ。妖怪は」
「やっぱ?もし、俺らが…」
「妖怪やとしたら?」
「…別に驚かないよ」
「じゃあ…」
白夜は目を細め笑い、リンネの長い銀髪の1束を優しく持つ。
「…リンネちゃんが妖怪やと見破ったら?」
「…ボクが妖怪?それはなんの妖怪にしてくれるの?」
「んー…じゃあ──」
パンッ
頭に衝撃。
「いっったぁ!!誰やねん!!」
振り返るとヤマトが立っている。手にはメニュー表。
「"俺の"リンネに何か用か?」
「俺のってまだ付き合ってもないんやろ?!ならええやん!なぁ!リンネちゃん」
「…」
「なんとか言ってやぁ…」
ジッと白夜を見る。
わかっていた。白夜は危ないってことは。
それでも、
それでも夢を見たかった。
「ボクは妖怪を信じるよ」
偽りない瞳。その金色の瞳に白夜は息を飲む。
「やっぱお前──」
「注文いい?」
「え?あ、あぁ…」
「白夜、俺が対応するから」
白夜はその場を離れる。
ヤマトはリンネの肩をつかみジッと見る。
「な、なに…?」
「変なこと言われてないか?」
「うん。大丈夫だよ」
「それで何にする?」
「ヤマトのオススメ」
「わかった。待ってて」
ポンっと頭を撫でられる。
なぜ撫でたのかは分からない。
外を見つめると1羽のカラス。
ジッと見つめる。
コトッとグラスを置く音。目を向けるとレモンの輪切りとシナモンが入ったお酒。
「ブルーラグーン」
「ありがとう」
1口飲む。爽やかな味が広がる。
「美味しい」
「白夜…あの男は本当に気をつけろ。幼なじみだから分かる」
「…そうみたいだね」
「今日は楽しかったか?」
リンネはグラスに目を向ける。
「楽しかったよ」
「じゃあ、また行こう」
その笑顔に心を締め付けられる。
「…うん」
客が賑わう。
「ヤマトー?」
「わりぃ、呼ばれたから行くわ。またなにかあったら呼んで」
手を振りその場を去る。リンネはまた外を見る。月は出てこない。
「…太陽がいるから月は輝く…」
「今日はどこ行ったんだ?」
声がし前を見ると黒髪の青年。
「サクヤだ。よろしく」
「よろしく、サクヤ」
「今日は遊園地に行った」
「そうか。さっきは手伝ってくれてありがとう。これは俺からのサービスだ」
「…これはベルモント?」
サクヤは目を見開く。
「よくわかったな…」
「お酒好きだから」
「そうか。俺はよく分からないがカクテルには言葉がある。それが公式でなくても送る相手を誘惑する」
「…ベルモントは"優しい慰め"だね」
「時折、悲しそうな顔をしているだろう?」
リンネは少し口角を上げる。
「よく見ているね」
「俺は目がいいからな。ヤマトが気になるか?」
「どうして?」
「よくヤマトを見ている。そして、ヤマトもあんたを見ている。恋愛は分からん。興味もない。だが、」
「2人の目はお互い───」
「そんなんじゃないよ。好きなのは本当。でも、君と一緒で恋愛が分からない」
リンネはただ遠くにいるヤマトを見る。
サクヤは息を吐き、生チョコを出す。
「これはあんた専用だ。また来てくれ」
「毎日来いって言われたからね。来れる日は行くよ」
しばらくし、リンネは立ち上がる。
「もう行くのか?」
「明日、仕事だから長居できない。また来る」
その場を離れようとすると手を掴まれる。
振り返るとヤマトがいた。
「どうしたんだ?」
「帰るんだよ。明日仕事だからね。また…また来るよ」
「…そうしてくれ…」
悲しそうな顔。リンネは口を閉ざす。
そんな顔しないでよ…
「じゃ、またね」
手を振り店を出る。
街から少し離れたこの場所。森の中、リンネは歩く。
「少し、距離が近いのでは?」
後ろから声。振り返ることはなく止まる。
「…そうかな。けど、みんなちゃんと記憶はないよ」
「そうですね…あなたは危険です。仲間を…兄を守りたければ距離を取るべきなのでは?"なゆたさん"」
振り返る。青く長い髪をした女性が立つ。
「神咲さん、ボクはみんなと一緒にいたかったんだよ。けど、一緒にいると巻き込んでしまう。これは君を殺すため。陰陽師の君をただ殺す。それまでは幸せにしててほしいんだ」
「殺すなんて可愛い子が物騒なことを…そうですよ。今、あなたは半妖の王なゆた。あの方たちの敵です。いつまで夢をみるんですか?」
リンネ──なゆたは拳を握る。
「ボクはボクを犠牲にしてでも君を殺す。けど、今じゃない。今はまだ違う。必ずボクは守り抜くから」
その言葉と共に影に消える。残された神咲はため息を吐く。
「深い仲間の執着……狂ってますよ。なゆたさん」
店は賑わう。笑い声が響く。
ただヤマトだけが雲に隠れた月を見上げていた。




