観覧車
「…これはなにに並んでいるの」
「お化け屋敷」
「お化け…」
怖いとされているお化け屋敷。そこに2人は並ぶ。
「リンネって出会った時からそうだけど無表情じゃん?だからどんな反応するかなーって」
「期待に応えられないかもよ」
順番が回ってくる。
「では、懐中電灯を持ってお進みくださーい!」
ヤマトは懐中電灯を持ち進む。リンネも後を着いていく。
「暗いね」
「……」
「ヤマト?」
ハッと我に戻る。
おかしい…なんで妖気を感じる…?
次の瞬間、狭い道は無くなり暗い空間が広がる。
帳が降りた。
「まずい…っ!」
リンネを庇うように前に出る。
目の前には異型。
ヤマトは奥歯を食いしばる。
術を解いて犬神になるか…?いや…隣には、
人間のリンネがいる…騒ぎになるかもしれない…
「これもひとつのアトラクション?」
その言葉に目を見開く。
そうか…アトラクションだとしてしまえばいい。このくらいの異型なら…
「そう。これはアトラクション。俺らが倒さなくちゃいけない。リンネ、ここで待っててくれるか?女の子を戦わせたくない」
ヤマトは懐中電灯をリンネに渡し、手首を回す。
苦しい言い訳だな…けど、
「さーてと…行きますか」
一気に踏み込む。
武器は出さない。
その代わり、異型を力いっぱい殴る。
数体の異型は次々、ヤマト目掛けて飛び込む。それでもヤマトは異型を
殴る。
蹴る。
最初数えた数より少ない…
「まさか…っ!」
後ろを見るとリンネ目掛けて襲いかかる異型。
「リンネ!」
次の瞬間、
リンネは異型に回し蹴りをいれる。休むことなく次の異型にも蹴りを入れる。
「…え?」
異型が消えると同時に帳も消える。
「リンネ、怪我は…?」
「ない。ヤマトも無事そうだね。じゃ、進もうか」
ありえない状況を前にリンネは進む。
ワッと驚かせるお化けにもリンネは無表情で進む。
出口。
「もう外に出た」
懐中電灯をキャストに渡す。
「楽しかった。ヤマト?」
「リンネ、さっきの…」
「…護身術だよ」
「なる、ほどな…無事でよかった」
「うん。大丈夫」
リンネの目はどこか見抜かれているような感覚。見つめられると石になったように動けなくなる。
気づけば夕方。
「まだ時間はある…ヤマトは?」
「俺もたっぷりあるから行こうか。そうだな…あれとか?」
ヤマトが指さしたのは観覧車。
「また高いやつ…」
「あれはめちゃくちゃゆっくりだから大丈夫だよ。ほら、行こう」
ヤマトに手を引かれ歩く。
「あ、待って」
「ん?どうした?」
「…お腹空いた」
「じゃあ、なんか食ってから行こうか」
店に入り座る。人も来た時より少なくなっていた。
カランと氷が鳴る。
「リンネは普段何してるんだ?」
「普段…何してるんだろ。その日に合わせてボーってしてたり仕事したり」
「仕事って──」
「お待たせしました!」
料理が来る。
「美味しそう…」
「な、結構量多いな…食えるか?」
「……たぶん」
手を合わせて口に運ぶ。
「いっぱい動いたから美味しい」
「普段どんだけ動いてないんだ…けど、美味いな。これ…店のメニューにでもできないかな…」
「ヤマトはあのお店が好きなんだね」
「あぁ。あの場所は俺の居場所でもあるんだ。ずっと4人で過ごしてきた」
「4人…そっか。よかった」
「あーあ、女なんてニコしか居ないからな。テンション上がんねーよ」
「リンネが居てくれたらいいのに」
リンネは少し寂しそうにグラスのストローを回す。
「そんな夢はもう…」
「よし!せっかくの遊園地だ!行こうぜ!観覧車」
食べ終わり観覧車に向かう。
リンネは不安そうに座る。向かいにはヤマト。夕日が綺麗に照らす。
「静かだね」
「そうだな…」
ヤマトの顔はどこか寂しそうだった。無意識だろう。
「ヤマトは何に囚われているの」
「…え?」
「過去のこと?」
「…リン、ネ…?」
「ボクは過去を捨てた。好きな人を守るために」
「何言って…」
「ボクは覚えているのに相手は忘れてる。それでよかった。よかったけど、穴が空いた」
外を見つめる。金色の瞳はどこか黒く滲む。
「なんの、話をして…」
その瞬間、頭の中から聞こえるノイズかかった声。
"ヤマト。ずっと離れないで"
"傍にいて…いなくならないで…!"
「だ、れ…あれは…」
リンネを見る。懐かしい顔。呼吸が荒くなる。
「は、はぁ…っ、お、れ…何を…」
「ヤマト、ダメだよ。思い出しちゃ。でないと、意味が無い」
目の前には座ってたはずのリンネ。
なのに、違う。
「……ぁ、?なゆ、た…?」
「まだ。まだダメだよ。思い出さないで
兄ちゃん」
その瞬間、口に違和感。すぐキスされたのだと気づく。
行き場のない手は空のまま。
そっと離れる唇。
次の瞬間、
先程のノイズが消える。
「ボクの名前はなに?」
「…え…?あ、リン、ネ…?」
「そう。よく言えました。ボクはリンネ。君の友達」
「……友達は友達にキスしないと思うんですが…」
「見た目とは裏腹に大胆なんだな」
「これ以外思いつかなかった。さっきの悩みは無くなった?」
そう言われるとどこか落ち着いた。
「無くなった、のか…?」
「けど…」
ヤマトは拳を握る。
「忘れちゃダメな気がするんだ…」
「…そう。がんばってね」
観覧車から降り出口に向かう。
「今日は楽しかった。ありがとう」
「なぁ」
「ん?」
ヤマトは手を掴む。
「今日も…いや、毎日店に来てくれないか」
「…行けたら───」
「ダメだ!」
俯く。僅かに震える手。
「もうリンネと会えなくなってしまう気がするんだ…だから…毎日来てくれ…もし、会いに来てくれなかったら俺はお前を探す」
真剣な目。リンネは口を閉ざす。
「君には敵わない。わかった。いいよ」
ヤマトは笑う。安心したように。
そして、2人は並び歩き出す。
「なぁ、なんでキスしたの?」
「…落ち着かせるため」
「それでキスはおかしくないか…?」
「キスってなんの意味があるの」
「そりゃあ…」
言葉が詰まる。
あれ?好きって言うのこんな恥ずかしかったっけ…?今までの女には簡単に言えてたのに…
「そりゃあ、ねぇ…キスされたら期待してしまうだろ」
「あれは落ち着かせるためだよ」
"好き"という言葉はまだ言えない。きっと相手にそんな気はないから。
負けの勝負はしない。
勝ちに行けばいいだけ。




