少女
「ただいま〜」
「おかえりなさい。ありがとうね」
ニコは袋を受け取ろうと手を伸ばす。その瞬間、眉が動く。
「なんだか、甘い匂いがするわね…たい焼きでも食べたの?」
「いやぁ…魅力的だったから…ほ、ほら!2人の分も買ってきたし!」
「まぁ、良しとしましょう。ったく何回も何回も」
「もう正座させられるのはゴメンだ」
ニコが不思議そうに足を止める。
振り返った顔は顔を顰めている。
「正座なんてさせたことないわよ」
「…?そうだっけ?飯呼ばれて遅くなった時とかよく正座させられて…」
「あれ?俺…飯呼ばれて遅くなったことないはず…」
「なーに1人で漫才してんねん。ほら、食材運ぶで」
「あ、あぁ…」
おかしい。なんだこれ。
誰か忘れてる?そんなはずはない。
「な、なぁ!」
ヤマトはニコの手を掴む。
「なによ」
「半妖の王ってどんな姿してるんだ…?」
「…半妖の王、なゆたは───」
「おい、ヤマト。頼んだものが足りない。じゃがいもが無い」
「え、まじ…?んー…じゃあ今から行ってもいいか?」
「頼む。ポテサラが作れない」
ヤマトは振り返り外に出る。
普通の日常なのに穴が空いたようにどこか抜けている。
歩いていると誰かとぶつかる。
「すみませ…」
目の前に居たのは、
銀色の長い髪に、
金色の瞳をした少女。ヤマトは目を見開く。
「こちらこそすみません」
小さな声。
去ろうとする少女の手を無意識に掴む。
「…あの…?」
「…え?あ、いや…すみません…えっと…」
それでもヤマトは手を離さない。
知らない人。
頭ではわかっているのに。
「名前…聞いてもいいですか」
「…あー…」
少女は目を逸らす。少し考えた後、小さな口を開く。
「リンネ…」
「リンネ、さん…」
「なにか用ですか?」
「いえ、なんかどこかで会った気がしたので…その、顔つきが昔の友人に似てたので」
「…そうですか」
少女はただ無表情に俯く。
「よかったら、少し話しませんか」
「…」
「わかりました」
リンネと名乗った少女はヤマトについて行く。
2人はカフェに入る。
リンネはパフェを頼み、ヤマトはコーヒーを頼む。
「それで、話したいことって…」
「え?あ、いや…その、特にはないんですけど…」
「…敬語じゃなくていいですよ。慣れない」
パフェを口に運ぶ。食べる姿は少し柔らかい表情。
「じゃ、じゃあ…あー…リンネさん…」
「さん呼びも嫌。それでなに?」
「リ、リンネ…?」
「うん」
「今日は平日だけど学校とかは?」
ヤマトは必死に話題を探す。目の前にいるリンネと名乗った少女。なぜ誘ったかは分からない。
「ボク、成人してる」
「え?!それは失礼なこと言ってしまった…てか、女の子…だよな?ボクって…」
「おかしい?ボク呼びは…昔、兄の真似してそれが染み付いた」
「そういえば俺の名前…俺はヤマトだ。よろしくな」
「よろしく。ヤマト」
年下なのに呼び捨てにタメ口。それでも嫌な気持ちにはならない。
静かに流れる音楽。
静かに流れる空気。
「それで、ボクをナンパした理由聞いてもいい?」
「ナンパ…そうだな…ナンパだなこれ。あんたがあまりにも可愛かったから」
目を細め微笑む。その言葉にリンネは手を止める。
「…そう。ヤマトは女たらしなんだね」
「誰にでもやってるわけじゃない。あんただから声をかけた」
「ふーん…」
「それより、リンネって酒飲むのか?」
「うん。お酒は好き」
ヤマトは笑う。
嬉しそうに。
「それじゃあ、夜!俺の店に来てよ。俺、バーで働いてるんだよ。1杯サービスする」
「…行けたら行くよ」
「ダメ。絶対来て。俺はもっとあんたと話したい」
リンネは小さくため息を着く。
「わかった…」
真っ直ぐ目を見つめられる。金色の綺麗な瞳。
吸い込まれる。
「ヤマトが来いって言うなら行く」
「な、なぁ…やっぱ俺らどこかで会ったこと…」
「ないよ。ボクは初めて君と会った。だからない」
パフェを食べる。ヤマトの穴は埋まらないまま。
「君は、このままでいて欲しい」
「この、まま…?」
「そう。このまま幸せな時間を過ごせばいいよ」
リンネは外を見る。ふと、指に光る指輪。
「それ…」
右手の薬指を見つめる。リンネは愛おしそうに、
けど、
どこか悲しそうな目で指輪を見た。
「これは大事な人から貰ったやつ。宝物。ボクのたったひとつだけの宝物だよ」
ドクンと胸が鳴る。自然と手を胸に当てる。そこには、
ネックレス。
「これ、誰から貰った…?」
「…ヤマト。世の中には思い出さないほうがいいこともある。思い出してしまったら壊れてしまうから」
重く
深く
刺さる言葉。
「…さてと、パフェも無くなったしボクは行くよ。夜は約束したし…行くから」
「あ、あぁ…場所…」
「大丈夫。わかるよ」
あれ?教えたっけ…?あそこはほとんど妖怪。人間が来る時は誰かからの紹介のはず。
「じゃ、またね。ヤマト」
手を振りリンネは去る。
「…あ、じゃがいも」
ヤマトも振り返り、胸のモヤ付きだけが残る。
リンネ…
「…あれ、なんで…」
頬に伝うものを指で拭う。
悲しくないはずなのに、なぜか涙が止まらなかった。
懐かしい顔。
なのに、初めて見る顔。
あの日、閉じ込めたいと思った人は、
誰だったんだ…?




