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届かない距離

九尾を前に絶望する3人。その中でなゆたはどう立ち向かうのか

空気が、落ちた。


九尾の言葉が途切れた、その瞬間。

肺に空気を入れるだけで、軋む。


重い。


立っているだけで、押し潰される。


「……っ」


ニコが歯を食いしばる。


「なにこれ……冗談でしょ」


「動くな」


サクヤが低く言う。


だが——


「無理だな」


ヤマトが、一歩前に出た。

その手に現れるのは——大剣。


鈍く重い刃。


握った瞬間、床が軋む。


「試してみねぇと、わかんねぇだろ」


踏み込む。

一歩で間合いを潰す。


大剣を振り上げ——


叩きつける。

“重さ”そのものの一撃。

空気が裂ける。


——だが。


「遅いなぁ」


九尾の声。


それだけで。

大剣が、止まった。


「……は?」


振り下ろされたはずの刃は、九尾の目前で、ぴたりと止まっている。

触れてすらいない。

見えない何かに、押さえ込まれている。


「力は悪ない」


九尾が軽く指を動かす。


その瞬間。


ドンッ!!


ヤマトの体が弾かれた。

床を滑る。

数歩分、強制的に下がらされる。


「っ……!」


「ヤマト!」


ニコが動く。


両手の爪が伸びる。鋭く、しなる刃。

地面を蹴る。

消えるような速度で懐へ潜る。


「遅いのは嫌いなのよね」


死角。


首元。


一瞬で五連撃。


斬る——


はずだった。


カチ、カチ、カチ。


全部、止められていた。

九尾の指先。


それだけで。


「……うそ」


「よう動くなぁ」


軽く弾く。


その一振りだけで、

ニコの体が宙を舞う。


「ぐっ……!」


壁に叩きつけられる。


「次や」


空気が沈む。

サクヤが動いた。

槍が、静かに現れる。

細く、長い刃。

無駄のない構え。


「——縛る」


影が広がり足元から、九尾を絡め取る。


同時に。


踏み込み。


一直線。


槍が、心臓を貫く軌道。


“当たれば終わる”一撃。


——だが。


「器用やな」


九尾は動かない。

動かないまま、影がほどけた。

霧のように。


槍が届く寸前で、


“距離が消えた”。


「な……」


「効かへんで」


軽く払う。それだけで、

サクヤの体が後ろへ弾かれる。


完全な無効化。


「なんだよ……これ」


ヤマトが立ち上がる。

大剣を構え直す。


「攻撃が通る通らねぇの話じゃねぇ……」

「最初から、触れられてすらいない」


「その通りや」


九尾が笑う。


「やっと理解したな」


その視線が——


なゆたに向く。


「ほな、お前はどうする」


その瞬間。


黒い霧が、溢れた。


「……っ」


なゆたの手に現れる。


大鎌。長い柄。

湾曲した刃。


空気が、歪む。

その刃に、霧が絡みつく。


(……切れる)


確信があった。


触れれば、終わる。


だが——


同時に。


(……ヤバい)


霧が、止まらない。

抑えが効かない。


「なゆた!」


ヤマトが叫ぶ。

だが、届かない。

意識が、少しずつ沈む。


九尾が、静かに言う。


「思い出してみ」


その一言で。

視界が弾けた。


——暗闇。


——小さな体。


——震える手。


「……っ」


知らないはずの光景。


だが。


「“あかんで”」


同じ声。

同じ響き。


「触れたら壊れてまう」


頭が軋む。

霧が、膨れ上がる。

大鎌が、わずかに震える。


振れば——


何かが壊れる。


「なゆた!!」


ヤマトが飛び込み、その手で強く掴む。

妖気を流し込む。

無理やり引き戻す。


ぐらり、と。


霧が揺れ、

わずかに収まる。


「はぁ……っ……」


だが、完全には消えない。


九尾は、それを見て笑った。


「ええなぁ」

「ほんまに」


その時だった。


ヤマトの動きが、一瞬だけ止まる。


「……?」


ほんの一瞬。


呼吸がズレる。

九尾と、目が合う。


「……なんだ?」


自覚はない。


だが。


九尾は、見逃さない。


「……ほう」


口元が歪む。


「そっちも、ええなぁ」


「何の話だ」


サクヤが睨むも答えはない。

九尾は、ゆっくりと手を上げた。


それだけで。


全員の動きが、わずかに鈍る。


「今日はここまでにしといたる」


「……逃げるのかよ」


ヤマトが吐き捨てる。


「ちゃう」


九尾が笑う。


「“帰す”んや」


背筋が冷える。


「また来るやろ?」


なゆたを見る。


「止まらへんやろ、お前は」


霧が揺れる。


「次は」


その目が細くなる。


「ちゃんと選ばせたるわ」


空間が歪む。

九尾の姿が、溶けるように消える。


「ほなな、半妖」


完全に消えた。


静寂。


重圧が、ゆっくり解ける。


「……っは……」


ニコがその場に崩れる。


「意味わかんないんだけど……」


「規格外だ」


サクヤが短く言う。

ヤマトは、黙っていた。大剣を握ったまま。

わずかに、震えている。


「……クソ」


その奥に、

微かな違和感。


なゆたは動かない。


ただ、


大鎌を見つめる。霧が、まだ残っている。


(……ボクは)


胸の奥で、

何かが確実に動いた。


「……次は」


小さく呟く。


「終わらせる」


その声は静かで——


危うかった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

昨日投稿出来なかったため2話連続投稿です。

また次回に続きます

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