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支配の契約

扉の奥は、静かだった。


音がないわけじゃない。

ただ、すべてが押し殺されている。


4人は、ゆっくりと足を踏み入れる。


広い。


天井は見えない。

黒い床は揺らぎ、まるで底のない水面のようだった。


その奥。


ただ一つ、玉座がある。


そして——


そこに、いた。


九つの尾が、ゆっくりと揺れる。


人の形。


だが、その存在は明らかに“それ以上”だった。


空気が、歪む。


「……」


誰も、すぐに動けなかった。


「よう来たなぁ」


声が落ちる。


柔らかく、低く、


逃げ場のない響き。


「半妖」


その呼び方に、


なゆたの心臓が、強く跳ねた。


……なんだ、これ


初めて会うはずなのに。


妙に、耳に馴染む。


「九尾……」


サクヤが低く呟く。


九尾は、ゆっくりと視線を向けた。


そして——


わずかに、目を細める。


「……ほんまに来よったか」


小さく、笑う。


「変わらんなぁ」


その一言で、


なゆたの呼吸が、止まる。


……今、なんて


九尾はふとヤマトを見る。


「……へぇ、前と変わらんな」


ニコの眉が動く。


「前って……なに?」


九尾は答えない。


ただ、なゆたから目を離さない。


「軽口叩いてんじゃねぇ」


ヤマトが一歩前に出る。


「用があるならはっきり言え」


その瞬間。


空気が沈んだ。


見えない圧が、ヤマトの動きを止める。


「……っ」


膝がわずかに沈む。


「お前…まさか…いや…そうか」


九尾の声は、静かだった。


だが、それだけで十分だった。


「……一体何なのよ」


ニコが低く吐く。


「なんでもあらへんで」


九尾は軽く笑う。


そして、再び——


なゆたを見る。


「さて」


玉座に肘をつき、頬杖をつく。


「やっと会えたわ」


黒い霧が、大きく揺れた。


……やっと?


胸の奥が、ざわつく。


知らないはずなのに。


「お前、その様子やと覚えてへんのやな」


ぽつりと、九尾が言う。


「まあええわ」

「その方がおもろい」


「……何を」


なゆたが低く問う。


だが、九尾は答えない。


ただ、楽しそうに笑う。


「本題や」


ゆっくりと立ち上がる。


距離はあるはずなのに、


近くにいる感覚。


「お前、王の血ぃ引いとるやん」


空気が凍る。


誰も、すぐに言葉を出せない。


なゆたは、黙っていた。


"王家の血"


その言葉に、


なゆたの中で、何かが引っかかる。


低く、柔らかい声。


「俺と番になる気はないか?」


沈黙。


時間が止まったようだった。


「……は?」


ヤマトが顔を上げる。


「ふざけんな」


「最後まで聞けや」


九尾が軽く手を振る。


それだけで、ヤマトの声が押し潰される。


「俺は今、この国を治めとる」

「せやけど正式やない」

「王になるには幾つか条件がある」

「ひとつは王を殺し、自分が王になるか」

「もしくは王の血を引くものと番になるか」


視線が、なゆたを貫く。


「つまりや」

「お前がいれば、全部揃う」


黒い霧が揺れる。


なゆたの呼吸が乱れる。


「安心せぇや」


九尾は優しく言う。


「悪い話やない」

「この国も、お前の居場所も、全部やる」


一歩、近づく。


「それに——」


声が、少し低くなる。


「そのままやと、お前壊れるで」


心臓が、大きく跳ねる。


観測者の言葉がよぎる。


"いずれ暴走する"


「俺なら抑えられる」

「前みたいにならんようにな」


その一言。


なゆたの視界が、わずかに揺れた。


……前?


一瞬。


知らないはずの光景がよぎる。


赤い空。


泣き声。


いや、もっと前。


笑う顔。


"なゆた様"


「っ……」


頭が軋む。


「なゆた!」


ヤマトの声。


だが、遠い。


「選べ」


九尾が、手を差し出す。


「俺と来るか」

「それとも——」


わずかに笑う。


「また壊れるか」


沈黙。


なゆたは、動かない。


鬼の面の奥で、ゆっくりと息を吸う。


揺れはあった。


だが——


消えない。


「……違う」


小さく呟く。


九尾の目が、細くなる。


「ボクは」


一歩、前に出る。


「支配されるために来たんじゃない」


黒い霧が、大きく揺れる。


「確かめに来た」

「自分で」


顔を上げる。


鬼の面の奥から、


まっすぐに九尾を見る。


「だから——」


一拍。


「断る」


静寂。


次の瞬間。


九尾が、笑った。


心底楽しそうに。


「ええなぁ」

「ほんまに変わらへん」


その目が、鋭くなる。


「ほな——」


空気が歪む。


「力づくで思い出させたるわ」


その言葉で、


場の温度が落ちた。


ヤマトの妖気が揺れる。

ニコとサクヤが武器に手をかける。


なゆたの黒い霧が膨れ上がる。


九尾の尾が、大きく広がった。


戦いが——


始まる。

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