奪われた国
4人はついに九尾と対面します
狐面の男の言葉が落ちた瞬間、空気が変わった。
「九尾様の領域です」
その一言で、見えない線を越えた感覚。
なゆたは、わずかに息を詰めた。
(……重い)
さっきまでとは違う。
空気そのものが、押し潰してくるような圧。
「……行くしかないわね」
ニコが小さく呟く。
強がりの色は残っているが、声はわずかに硬い。
「戻る気もねぇだろ」
ヤマトが笑う。
だがその笑みも、どこかぎこちなかった。
サクヤは何も言わず、城へと続く階段を見上げる。
果てが見えないほど高い。
歪んだ石段が、空へと伸びている。
「……行こう」
なゆたが一歩踏み出した。
その瞬間。
足が、わずかに沈む。
「っ……」
石のはずなのに、柔らかい。
まるで何かの上を踏んでいるような感触。
(……気持ち悪い)
だが、止まらない。
一段。
また一段。
登るたびに、空気が濃くなる。
呼吸が浅くなる。
「はぁ……」
ニコが息を吐く。
「ちょっと……キツくない?」
「妖気が濃い」
サクヤが短く答える。
「ここはもう、完全に九尾の支配下だ」
「なるほどな」
ヤマトが肩を回す。
「だからこんなに居心地悪ぃのか」
軽口。
だが、その動きは少しだけ重い。
なゆたは、気づいていた。
(……違う)
ただの重さじゃない。
何かが——
“引っ張っている”。
胸の奥。
黒い霧が、じわりと広がる。
抑えているのに。
止めているのに。
勝手に溢れてくる。
「……っ」
息が乱れる。
視界が一瞬、揺れた。
赤い空が、歪む。
その奥に——
何かが見えた気がした。
「なゆた」
ヤマトの声。
手を掴まれる。
「大丈夫か?」
「……まだ、平気」
短く答える。
だが、その声はわずかに掠れていた。
ヤマトは、じっとなゆたを見る。
その目が——
一瞬だけ、揺れた。
「……ヤマト?」
呼びかける。
反応が、遅れる。
「……ああ?」
「どうしたの」
「いや、別に」
笑う。
いつもの調子。
だが——
(……違う)
なゆたは、確信した。
何かがおかしい。
だが、それを言葉にする前に、
「止まれ」
サクヤの声が落ちる。
四人の足が止まる。
階段の先。
巨大な扉があった。黒く、重く、閉ざされた門。
表面には、無数の傷。
爪痕のような、何かに引き裂かれた跡。
「……これが、入口か」
ヤマトが低く呟く。
「開くのか?」
ニコが眉をひそめる。
その時。
ギィ、と音が鳴った。
誰も触れていないのに、扉が、ゆっくりと動く。
内側から押し開かれるように。
闇が、漏れ出す。
光を吸い込むような、深い黒。
その奥から——
声がした。
低く。
穏やかで。
耳ではなく、直接“内側”に響く声。
「遅かったなぁ」
全員の動きが止まる。
なゆたの呼吸が、完全に止まった。
(……これが)
本能が告げる。
逃げろ、と。
だが、足は動かない。
黒い霧が、溢れる。
鬼の面のひびが、軋む。
「よう来たな」
声が、続く。
楽しげに。
確信を持って。
「半妖」
その一言で——
なゆたの中の何かが、強く揺れた。
扉の向こう。
闇の奥に、
“何か”がいる。
見えないのに、
確実に、そこにいるとわかる存在。
ヤマトの手が、強く握られる。
だが——
その力が、
わずかに、異質だった。
「……っ」
なゆたは、目を細める。
(……近い)
すぐそこまで来ている。
祢々切丸。
九尾。
そして——
自分の中の“何か”も。
赤い空の下。
開かれた扉の前で、
四人は、完全に足を止めていた。
何時に投稿しようか悩んでたらもうこんな時間です。




