表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月下の半妖  作者: 霜月パラド
半妖の鬼と九尾
PR
11/101

九尾の誘惑

ついに妖怪の国に入りました

黒鉄の門は、4人が近づくと独りでに軋んだ。


重く、鈍い音。


まるで生き物が喉を鳴らすような、不快な響きだった。


ゆっくりと左右に開かれていく隙間から、赤い光が漏れ出す。


熱はない。


だが、肌にまとわりつくような圧だけがあった。


「……歓迎ってわけでもなさそうね」


ニコが小さく呟く。


「歓迎ならもっと派手に来るだろ」


ヤマトが鼻で笑う。


「九尾の趣味なら、なおさらな」


サクヤは何も言わず、門の向こうを見つめていた。


なゆたは、一歩前に出る。


鬼の面のひびが、かすかに軋んだ。


……帰ってきた


そう思った瞬間、


胸の奥に、嫌な痛みが走る。


門をくぐる。


世界が変わった。


空は、赤かった。


夕焼けの赤ではない。


血を薄めて塗り広げたような、不自然な色。


雲はゆっくりと逆方向に流れ、


風は吹いていないのに、遠くの旗だけが揺れている。


「……なによ、これ」


ニコが眉を顰めた。


「前より酷いわ」


目の前には、巨大な町が広がっていた。


和の街並み。


石畳の道。


連なる屋台。


吊るされた無数の提灯。


妖怪たちが行き交い、笑い、酒を飲み、商いをしている。


賑やかだった。


だが——


「……変だな」


ヤマトが低く言う。


なゆたも同じことを感じていた。


笑っている。


騒いでいる。


動いている。


それなのに——


誰一人、目が笑っていない。


空っぽだった。


まるで“笑え”と命じられているような顔。


「操られてる……?」


ニコの声が小さくなる。


「完全ではない」


サクヤが答える。


「だが、思考に干渉されてる」


「九尾の力か」


ヤマトが舌打ちした。


「趣味悪……」


ニコが吐き捨てる。


なゆたは、視線を逸らした。


見たくなかった。


知らないのに懐かしい感覚が気持ち悪い。


「……なゆた」


ヤマトの声に、顔を上げる。


「平気か?」


「……平気」


嘘だった。


足が少し重い。


空気を吸うたびに、過去が喉に引っかかる。


石を投げられた日。


“忌み子”と叫ばれた声。


逃げる背中に浴びせられた笑い声。


知らないのに嫌な記憶だけは曖昧に覚えている。


今は、あの頃じゃない。


隣には3人がいる。


それだけで、まだ立てた。


「先に進むぞ」


サクヤが低く言う。


「祢々切丸の手がかりを探す」


4人は町へ足を踏み入れる。


周囲の妖怪たちが、一斉にこちらを見た。


視線だけが動く。


首は向けない。


口元の笑みも消えない。


なのに——


全員が、なゆたを見ている。

ヤマトは隠すようになゆたの肩を引き寄せる。


「……気持ち悪い」


ニコが肩を震わせる。


「歓迎されてる感じはしないな」


ヤマトが拳を鳴らした。


その時だった。


パン、と乾いた音が響く。


拍手だった。


通りの中央。


人混みが左右に割れる。


一人の男が、ゆっくり歩いてくる。


背の高い妖怪だった。


細身の体に、黒い和装。


顔の半分を狐面で隠している。


口元だけが、笑っていた。


「これはこれは」


男は楽しげに手を叩く。


「本当に帰ってきたんですね」


その視線が、なゆたに刺さる。


「忌み子様」


空気が凍る。


ヤマトが一歩前に出た。


「その呼び方、やめろ」


「おや」


男は肩をすくめる。


「これは失礼」


「では——半妖様、でいいですか?」


ニコの目が細くなる。


「感じ悪い男」


男は笑ったまま、深く一礼した。


「九尾様がお待ちです」

「城へお越しください」


サクヤが低く問う。


「断れば?」


男の笑みが、少しだけ深くなる。


「その時は」


周囲の妖怪たちが、ぴたりと動きを止めた。


笑顔のまま。


一斉にこちらを見る。


「国ごと、お迎えに上がります」


沈黙。


ヤマトの妖気が揺れる。


ニコの指先が僅かに動く。


サクヤの肩に、どこからともなくカラスが舞い降りた。


なゆたは、男を見つめる。


鬼の面の奥で、静かに息を吐く。


……最初から、逃がす気なんてない


男は再び頭を下げた。


「さぁ」

「九尾様を、お待たせしないように」


赤い空の下。


4人は、九尾の城へと続く道を見上げていた。

ここまで見てくださりありがとうございます。


後書きは本当に何を書けばいいんですかね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ