最後の願い
君たちは誰を見てきた?
「…た…!」
「なゆた!!」
目を開ける。左手に激痛。
「あれ…ボク…」
「急に倒れたんだ。意識はしっかりしているか?」
「…どのくらい時間が経った?」
白夜は指を折り数える。
「そんな経ってへん。10分ほど」
なゆたは立ち上がり、境界を見る。
「大丈夫か?」
「うん」
ただ見る。
行こうか、酒呑童子。
そっと手を前に出す。
「なゆた!ダメだ!また────」
その瞬間、
なゆたに光が包む。
パリンとガラスが割れる音。2人はただ目を開き見ている。
「結界は破れた。早く行こう」
前に進む。なゆたの後ろに着いていく。
「結界…どうやって…」
「……なんとなく。あと、」
「ボクは酒呑童子の生まれ変わりじゃなかったみたい」
「どういう…」
前に光。
「着いた」
足を踏み込むと荒れた店内。
「…っ、ニコ!サクヤ!」
「クロガネもいねぇ…」
浅い呼吸。すぐ2人を抱える。
「2人をお願い。ボクは状況を掴む」
「無理すんなよ」
店の外に出る。
…結界が破られている…陰陽師と巫女の仕業…そして、血を流す2人。
「ボクの仲間を傷つけるなんていい度胸している」
黒い霧が溢れる。
「許さない。人間だけは許さない…」
父を殺し…兄、黄泉を操り仲間に傷を負わせた。
「もう全部壊してしまいたい…」
黒い目は月を見る。
「なゆた」
後ろから声がし振り返る。
「兄ちゃん…」
「とりあえず2人とも手当てした。ニコの方は意識があったがサクヤが重症だ。サクヤのことだからニコを庇ったんだろうな…」
ヤマトに抱きつく。
「なゆた…?」
「兄ちゃんはボクの進む道を一緒に歩いてくれる?」
「当たり前だろ?」
「それが例え世界を壊すと言っても?」
ヤマトは黙る。そしてなゆたを剥がし、目線を合わせる。
「あぁ。俺はなゆたの道を切り開くだけだ。世界を壊すって言うなら一緒に壊してやる。ただ、」
「自分を後回しにすることだけは止めるからな」
その言葉に微笑む。
「よかった。兄ちゃんならそう言ってくれると思ってた」
「ねぇ、兄ちゃん」
くるりと回り空に手を伸ばす。
「ボクはみんなに出会ってよかった。記憶がなくたっていい。ボクは…今のボクは最高に楽しいんだ」
「嫌なこと辛いことたくさんあったけど、みんなが居てくれたおかげで前に進めた」
「だからさ、兄ちゃん」
なゆたはヤマトを見る。
その顔は、
昔のような笑顔。
「もうお別れだね」
「……は…?」
「ニコが居たから家族を知った」
「サクヤが居たから戦略を知った」
「白夜が居たから過去を知った」
「クロガネが居たから強くなった」
「そして」
なゆたはヤマトの手を取る。
「ヤマト、兄ちゃんが居たから前に進めた。愛を知った」
「なん、だよそれ…」
言葉が詰まって出てこない。
それでもなゆたは止まらない。
「会えなくのは寂しいけど、それでもボクは仲間を失う方がもっと寂しい」
「なゆ────」
「ごめんね、兄ちゃん。ボクは…」
悲しそうな目。でも、笑っていた。
「もう会えない」
「さよなら。大好きだよ」
小さく呟き、手を離す。なゆたは木の上に飛びそのまま消える。
「なゆ、た…?は?なん…で…」
状況が飲み込めずヤマトはただ立っている。
一瞬、意識が遠くなる。
銀髪の少女。
「あ、れ…?俺は…」
「ヤマト」
後ろから声。振り返ると白夜がいた。
「急に外に出たからびっくりしたやん。どないしたん」
「俺は何して…」
「なんやそれ。ほら、サクヤくんも目を覚ましたし行こうや。倒すんやろ。あの、」
「半妖の王なゆたを」
「…あぁ」
ヤマトは振り返る。
静かに月だけが照らされ、
銀髪の少女を思い出すことは無かった。




