酒呑童子
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境界に入ろうとした瞬間、
───バチッ
と、電気が流れる。
咄嗟に手を引く。
「境界が通れん。これは…結界がかかっとる」
「結界?なんでなゆたの境界に結界なんか…」
ジッとなゆたは境界を見る。
「鬱陶しい…」
再びなゆたは手を伸ばす。
「なゆたダメだ…っ!」
ヤマトが止めようとするもなゆたは境界に触れる。電気のようなものが走る。だが、なゆたは気にせず手を押し込む。
「なゆた!」
手から血が流れる。
「ニコとサクヤを…」
入れそう。
そう思った瞬間、視界が変わった。
黒く、
肺に空気を入れる度、全身が痛む感覚。
そして、
目の前には霧がかった妖怪。
大きな身体に
角。
なゆたは周りを見渡す。
「ここは…」
「…」
目の前にいる妖怪はジッとなゆたを見つめるだけ。
「君は…」
「酒呑童子だね」
「…そうだ。王なゆた。茨木童子の娘」
「ここはどこ?」
「俺を前にして恐れないとは肝が据わってる。なに、少し話そうではないか」
「そんな時間ない。仲間が待っている。行かせて」
「それは出来ん。境界、あれは陰陽師の術がかかっておる。貴様らじゃ到底解けん」
「あの九尾にもな」
なゆたは息を吐き、近づく。
近づく度、肺が痛い。それでも前に歩く。
「ずっとボクらのこと見てたの?」
「そうだ。俺はお前の中にいるからな」
「どうして魂をボクに移したの?」
「ボクが暴走してしまう原因は…」
「君だよね。酒呑童子」
酒呑童子は立ち上がりなゆたの前に行く。
「なゆた、貴様は父親そっくりだ。そして、黄泉はあの女に似ている」
「ボクの母はどうしてここに来たの?祢々切丸はなに?」
酒呑童子は手を前に出す。
「貴様の母は、生贄としてやって来た。陰陽師に裏切られてな…帰る場所がなかったあやつは妖怪の国に居るしか無かった」
「そして、祢々切丸。それはお前にではない。お前の中にいる俺を殺すためだ」
「お前の能力は妖力を分け与える能力だ。お前の妖力が多いのはなぜか知っているか?」
なゆたは少し考える。
そして、ハッとしたように顔をあげる。
「君がいるから…」
「ご名答。俺は封印されても殺されてもない。お前の中という安全地帯に逃げただけだ。そこでだ、」
「俺と契約を交わさないか?」
「…契約?」
酒呑童子は黒い空を見る。なゆたも釣られて空を見た。
「このままだと仲間もお前も死ぬ。お前が死ねば俺も死ぬ。そんなのはごめんだ」
「俺を使え。俺の力があればお前は全員を守れる」
なゆたは眉を顰める。
疑いの目。
「ボクを利用して何が目的なの?」
「利用?なんのこ──」
「君の言葉は嘘に聞こえる。そうだな…もし、君の力を使えばボクは暴走する。暴走したのを見て君はボクの身体を乗っ取る。そう考えているんじゃないの?」
その言葉に酒呑童子は目を見開く。
そして、拍手をする。
「驚いた。こんな小さな子供がここまで頭の回るやつとは…少し侮っていた」
「契約と言ったね。それならボクからも契約だ。ボクを乗っ取っていい。けど、」
「ボクの仲間、この国の民は殺さないと誓って欲しい。それだったら乗っ取ろうが何しようが構わない」
真っ直ぐな金色の瞳。酒呑童子は目を見開く。
"酒呑童子様、俺はいつでも貴方様の隣にいますよ"
一緒に酒を交わしたあの日、
戦ったあの日、
王になったあの日、
忘れていた記憶が蘇る。
「面白い…本当に貴様は面白い」
「貴様は本当に父とそっくりだな」
どこからか酒を取り出す。杯をなゆたに渡し、自分も持つ。
「貴様に魂を移して良かった。楽しい感情、悲しい感情、人を憎む感情。それが全て伝わる。貴様は良い王だな。なゆた」
「ボクは死なないように君を守る。だから、君も仲間が死なないように守ってほしい」
「契約完了だな」
お互い杯に口をつけ酒を飲む。
「あの結界は俺なら解ける。早速使え」
「ありがとう。仲間が心配だからもう行くね」
振り返るなゆたに酒呑童子は手を伸ばす。
「なゆた」
「ん?」
「またここに来て一緒に酒を飲もう」
「いいよ。その時は仲間も一緒に」
光の中に消えていく。




