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宣誓前夜

境界を抜けるとオレンジの空。

目の前にはクロガネが跪き待っていた。


「お待ちしておりました」


「クロガネ、ボクは正式に王を公表する。明日、できる限り、人を広場に集めといて」


「仰せのままに」


「行こう」


周囲からの目線。


恐怖


嫌悪


殺気


そんな目線を無視して城の中に入る。


「俺たち連れてきた理由聞いてもええです?」


「君たちは人間界で素性がバレてしまった。ここで守るしかできない」


「王は優しいんやなぁ」


「とりあえず、今日は色々調べたい。ヤマト」


視線が刺さる。


「城を案内して」


「仰せのままに」


「白夜は待機。ボクを狙ってくるやつがいるかもしれないから止めといて」


「はーい」


なゆたとヤマトは奥に入る。


「なゆた様───」


「兄ちゃん」


その目はいつものなゆた。


「…どうした、なゆた」


少し震えている。


「あのさ…」

「人前に立つの苦手だから…手ぇ握って…明日はボクの横にいてくれる…?」


ふと息を吐く。


「当たり前だろ?俺はなゆたの兄ちゃんで王の側近だから離れることはないよ。ほら行こうぜ」


手を握り部屋を探す。


「なにを調べるんだ?」


「この国の歴史と祢々切丸について。知っておかないと今後の対応に追われる」


「なるほどなぁ…祢々切丸…あれは人間が作ったやつだろ?」


「あれは、ボクを封印するためにここに送られた」


足を止める。


「…は?」


「ボクが生まれる前からボクが暴走することは知られていた。だから祢々切丸を国に封印しボクが暴走した時、止められるようにあった。そこまでしか分からないけど」

「ボクは酒呑童子の生まれ変わりなんだって」


言葉が出ない。

そこまで本人は分かっていた。


「けど、それが何だって話だよね。ボクはボクなのに。暴走は…しちゃうけど…」

「それでも暴走しないように頑張ってる。いや…頑張ってるだけじゃダメなんだ。結果を見せないと誰も気づかないし認めてもらえない」


ギュッと繋ぐ手が強くなる。


「明日、がんばるね。終わったら沢山褒めて」


「…うん、たくさん褒めるさ」


着いたのはひとつの扉の前。そっとドアを開ける。そこにはヤマトより大きい本棚に本が詰まっている。


「ここから探すのか…?」


「そうだね…時間がない。サラサラっと読もうか」


それぞれ本を読む。


「なぁ、酒呑童子っていつからわかった?」


「祢々切丸に触ってから。父と陰陽師が話してた記憶が流れてきた。ボクの父ってどんな人だったの?」


「前王は…なゆたの父はここ何百年、王座に座っていた。そして、妖怪の国で最も恐れられていた大妖怪だった」


なゆたは本から目を離し顎に手を置く。


「ボクの父がどんな人かよくまだ覚えていない…けど…」


大きく分厚い手。


優しく撫でられる頭。


肩に乗せられ街を回った日。


覚えていないのに目の奥に投影される。


「鬼にはいろんな系譜がいる。その中でも、なゆたの父は"茨木童子"だった」


「茨木童子…酒呑童子…茨木童子は酒呑童子の部下じゃなかったっけ…?」


「そう言われている。待て…」


ヤマトがハッと気づいたかのように目を開く。


「酒呑童子は封印された…けど、その場所は立ち入り禁止区域。結界で守られ入れなくなっている。どうしてなゆたが酒呑童子の生まれ変わりなのか…本当にそうなのか…?もし仮に…」

「人間に封印される前に魂を赤子に移したとしたら…」


「魂を赤子に…」


「なゆたの母は人間…じゃあどうやってこの国に来たのか…俺やあの双子は妖怪側の親が人間界に行き、子を作ったと言われている」


「母…」


なゆたの母はなゆたが産まれてすぐ亡くなった。そもそもの記憶が無い。


「もし、その事がどこかに書いているとしたら大きな情報になるかもしれない」


なゆたは半妖。黄泉は人間。どこで大きな違いが出た…?

そもそも普通の人間がどうやってここに来た?

いや、

普通の人間は妖気によって潰されるはずだ。


「そこに行ったら何かわかるかな…」


「あの禁止区域にか?あそこは結界が貼られている」


「…それでも行こう。明日終わってから」


「わかった。今は明日のことに集中しよう」


そこから何時間経ったかわからない。なゆたのいる場所に行くと床に座り寝ている。

横には読んでたであろう大量の本が積まれている。


「大丈夫。俺が着いているからなにも心配はいらないよ」


なゆたを抱え頬を合わせる。

王座に戻ると白夜が座って目を閉じている。


「おい、寝てんのか?」


「いーや、起きとる。終わったんかいな…ってなゆた寝とるやん」


「読み疲れたみたいだ。誰か来たか?」


「何人か来たけど殺意とかはなかったで。むしろ、」

「新しい王を喜んでたわ」


「そうか」


「俺が王の代わりしとった頃は嫌な目されとったけど、なゆたなら大丈夫やろ。お前もおるし俺もおる」


ヤマトと白夜はかつて黄泉が使ってた部屋に行く。


「ここ…」


「黄泉様の部屋。そのまんまにしといた。前は空いとる部屋使って寝てたけどここはもう使ってええやろ」


なゆたをベッドに寝かせ辺りを見渡す。


「なんか、ほんま久々やわ。こうやって3人集まるのは」


「…そうだな。あの頃とは随分変わった」


「なぁ、ヤマト」


振り向くと白夜がニコニコと酒を持つ。


「少し、話しようや。昔みたいに」


「しゃーねぇから付き合ってやるよ」


お互い盃を交わす。


「乾杯」


「乾杯」


1口飲む。


「ずっとカクテルばっかだったけど久々の日本酒も美味いな」


「そりゃあ良い日本酒なんやから美味いやろ」


「お前ってなんでそんな良い酒ばっか持ってんの…」


白夜はふと笑い、なゆたを見る。


「なゆたは前王に似とる。絶対酒好きやと思ったから」


「えーえーえー、本当に酒カスみたいに育っちまって」


「もう8年も前か…赤い空は」


その言葉に口を閉ざす。


「年取ったなぁ俺ら。まさかお前と同い年とはな」


「せや。あん時からお前は背も態度もデカかった」


「酒に溺れさせてやろうか?」


「冗談や。赤夜叉ヤマト…王に拾われ即側近。ほんまに凄いわ」


「そういうお前だってなゆたに拾われ城で過ごしてたじゃねぇか。あの頃は楽しかった」


懐かしそうになゆたの髪を撫でる。朝起きれば宣誓式。


「人見知りですぐ後ろに隠れてた子供が明日は大勢の前に立つ。怖いだろうな」


「それを俺らが支えてやらんと誰が支えるっていうんや」


「そーいやお前…俺を操ったこと忘れてねぇからな。あれ苦しいし痛いし気持ちわりぃし」


「簡単に引っかかるお前が悪い」


ヤマトはジロっと睨んだ後、吹き出す。釣られて白夜も吹き出す。


「ほんと、俺ら昔から変わらねぇ」


「変わらんでええやん。けど、前にはしっかり進んでもらわんと困るわ」


月が照らす。


2人はただ昔話をし笑い合う。

誰にも見せなかった顔。

昔に戻ったかのように酒を交わす。


しばらくし、白夜は部屋から出ていく。


「じゃ、楽しかったわ。また明日な。なゆたのこと頼んだで。おやすみ」


「おー、また明日。白夜もな。おやすみ」


ドアが閉まる。ヤマトは息を吐き外を眺める。


「前に進む、か…」


ヤマトはベッドの横に座る。

愛おしそうになゆたを見るとモゾモゾと動き出す。


「芋虫みてぇだな…」


「兄ちゃ、ん…?」


「起こしちまったか…まだ朝は来てないから寝な?」


「…ん、一緒に…」


起き切ってない眠たそうな顔。

布団を広げ誘われる。


「俺はここでいいよ」


「やだ…」


「…わかったよ」


なゆたの隣に行き横になる。満足そうに笑いくっつく。


「暑くねぇの?」


「うん、安心する」


「答えになってねぇな、それ」


「お酒の匂いする…」


「………気のせいだよ」


「…んー…まぁ、そういうことにしとく」


なゆたは再び目を閉じる。手が背中に回され、

"離れるな"

と言わんばかり。


「どこにも行かないよ。おやすみ。なゆた」


頭を撫で軽いキス。


これが異常ってやつなんだろう。けど、異常でもいい。幸せなら。


ヤマトも目を閉じ眠りにつく。


朝になればなゆたは正式な王になる。

そんな期待と不安を閉じ込め朝を待った。

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