白い帳
なにもない休日。白夜とヤマトは買い出しに出される。
「なんっで俺がお前と…」
「こっちのセリフじゃボケ。誰が嬉しくてクソ犬と買い出しやねん」
猛暑。太陽が2人を刺す。
「なぁ、アイス買ってかね?」
「それはまたいい提案しはるわ…やってられんこの暑さ」
チラッとヤマトを見る。黒い瞳は無く暑さがむせ返す程の赤い瞳。
「にしてもあっちぃしセミうるせぇし…」
「犬ってセミ食わへんの?」
「なんで食うと思ったんだよ」
店に行きアイスを買う。
ヒンヤリとした食感が口の中で溶ける。
「美味っ」
「……なぁ」
「あ?」
「やけに人少ないと思わへん?」
足を止め周りを見る。誰一人としていない空間。
「帳か…?」
帳が降りれば基本夜。なのに違和感がある。
木の影から黒い物体。
なんて思った瞬間、2人めがけて飛ぶ。
「…っ」
2人は咄嗟に武器を構える。
そこには無数の異型。
「なぁ…」
「あぁ…」
2人はユラリと揺れ異型を睨む。
「アイス落としちまったじゃねぇか…」
「どう落とし前つけてやろうかクソ異型ども」
強く踏み込み異型を切り倒す。
「化け物級に強い奴らと戦ったからチュートリアルにもならねぇな」
「食材が痛む前に早よ帰らなあかんっちゅーのに」
無数の異型は一瞬にして消える。
2人は1つ瞬きをする。
現れる人々。
手には武器。
「き、きゃぁぁぁあ!!!」
「……は?」
「まずいでヤマト…武器」
即座に武器を消し、袋を持ってその場から消える。
「本当にやばい事になった…やっぱ帳かあれ…しかも…」
「帳が消える速度が尋常じゃねぇ。武器を仕舞う余裕もなかった」
「人間に見られた。顔も武器も耳も…」
家に着く。ドアを開けるとアイスを頬張る3人。
「おかえり、すごい汗だね」
息が切れ、険しい顔をする2人。
なゆたは眉を顰める。
「見られた」
「…見られたってなんなのよ」
「気づかないうちに帳が降りて異型が襲ってきた。倒し終わった瞬間、光の速さで帳が消えた」
「…武器と耳、見られたの…?」
悔しそうに俯き短く答える。
「……あぁ」
「面倒なことになったわね…」
なゆたは椅子から降り2人のそばに行く。
「異型出たんでしょ。怪我は?」
「ない」
「けど、俺らはもう街には降りれない。見られてしまったから」
一体誰が…?
夜じゃない帳を初めて見る。
見られた焦りと知らない恐怖が2人を支配する。
それを見兼ねたなゆたは、そっと2人の手を握る。
「大丈夫。抱え込むことじゃない。いつかは妖怪だってバレていたかもしれない。気にすることじゃないよ」
「けど、まぁ…なんやあの帳は…」
「白夜でも知らないのか…」
静かな空気。
「ねぇ、やってしまったことにいつまででも悩むのは時間の無駄だよ。これからの事を考えた方がいいとボクは思うんだけど」
なゆたは静かに淡々と喋る。
「まず誰が帳を落としたのか、なんの術なのか、誰の仕業なのか問題がまた多い。面倒だね。ボクは多いことを一気に考えるのが嫌い」
「だから1つずつ始末しようよ」
静かな殺気は誰も気づかない。
兄ちゃんと出かける時間が好き。
けど、それももう出来ない。
人間側がどのくらいで嗅ぎつけるのか不明。
なゆたは振り向き階段を上る。
「部屋に行くのか?」
「まとめた資料をもう一度見返す。ボク抜きで何かしてて。今は何かに集中したい」
表情がわからない。振り返らずそのまま部屋に戻る。
「なゆた、相当焦っとんな…やらかしてもうたわ…本当に申し訳ない」
「そんなの仕方ないわよ。あなたたち2人じゃなくて私たちでも一緒の道を辿ったと思うわ。ヒメ、大丈夫かしら…」
「なゆたの所に行かなくていいのか?」
ヤマトはただ階段を見つめる。
「1人になりたい時は1人にさせた方がいい。俺が行ってどうこうできるわけじゃない」
「なゆたの言う通りだ。これからどうするか考えた方がいい」
3人は頷き椅子に座る。
窓のカーテンが揺れる。
なゆたは1つずつ丁寧に文字をなぞり読む。
「夜じゃない帳…一瞬にして消える…」
めんどくさい。めんどくさいめんどくさいめんどくさいめんどくさい。
「いい加減、普通に日常送らせてくれないかな…」
天井を見上げる。
「光…昼…」
「こっちが夜ならあっちは昼…」
「白の帳…」
単語を一つ一つ呟く。
頭の中の無数の考えを辿る。
そして、辿り着いた答え。
「陰陽師…巫女…」
「そうか、そいつらか…どうやって嗅ぎつけた…?どうやってわかった?普段は角も獣の耳、翼も隠して生活している…どうやって見破ったんだろ…接触があった…?如月たちから情報が漏れていた…?特務退魔課は陰陽師たちと関わりがあった…?そもそも特務退魔課はなんで実在する…?」
抱えた問題を口に出しペンを走らせる。
「ボクと兄ちゃんとの幸せな時間奪ったからにはそれ相応の覚悟があるって事だよね」
カリッと
ペンを噛む。
黒く疼く感情と目。
「兄ちゃんとボクの邪魔をするやつは全員殺す。そう決めているから、」
「だから、運が悪かったね」
雲ひとつない晴天の中、なゆただけが暗く曇る。




